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グレッグ・ワイズは完璧だった。
まずは容姿、そして立ち居振る舞い。ダンスも、身を任せていればふわふわと浮いているように踊らされてしまう。
そして……。
「ちょっと……」
「いいから、私と踊っていなさい」
私を離してくれない。
「疲れました?ワインにしますか?それともシャンパン?」
「ずっと踊り続けて、よく汗一つかかずにいられますね。本当に人間ですか?」
「ああ、悪魔の可能性はありますね」
「え?」
「悪魔的な美貌とよく揶揄われるので」
グレッグがまた微笑む。
「さて、涼みに、バルコニーにでも行きましょうか」
「……それは決定ですか?」
「嫌ですか?」
「いいえ」
「レディ・レーラ、お手を。こちらです」
連れて行かれた。
断るのも面倒だというのと、彼の笑顔が強烈すぎというのが理由。
夜風が心地よく頬を撫でる。
「寒くないですか?」
「ええ。気持ちいいくらいです」
「そうですか。少しは気が晴れました?」
気遣いはありがたい。でも、その言い方が引っかかった。
「どういう意味です?」
「どの男もみんな、例の元婚約者に見えているんじゃないかと思いまして」
「……いいえ」
馬鹿にされたものだ。
私は不機嫌も顕わに、バルコニーの手すりに身を預けた。そんな振る舞いはコドモじみているとわかっている。でも私に失うものはない。恥は充分かいた。取り繕うほうが恥ずかしい。
「そうですか。邪推してすみません」
グレッグは笑顔だ。
私が父を苛める時みたいな、完璧な作り笑い。
「私を揶揄うために時間を割くなんて、随分とお暇なんですね」
「こらこら、レディ・レーラ。違うでしょう。息抜きになりました、でしょ」
「……」
どういうつもり?
喧嘩を売られているの?
「違いますか?今日は憂さ晴らしなんでしょう?」
「……」
「いい眼力です。それだけしっかりしていれば安心だ」
「御心配いただきまして、どうも、ありがとうございます」
呻るようにお礼を述べてしまってから、ふと我に返った。
さすがに失礼かもしれない。
寄りかかっていた体を起こし、ドレスを整える。
「おや、どうしました?」
「御親切を受けながら、だらけているわけにもいきませので」
「いい心掛けだ。でも、あなたは心からだらけられる相手を見つけて、幸せにならなくては」
「ワイズ子爵。お節介って言われません?」
「悪魔的な美貌のお節介だと言われます」
「それはさすがに嘘でしょう。嘘つきは嫌いです」
グレッグは声をあげて笑った。
それからまた柔らかな微笑みを浮かべて、私に向かってゆっくりと頷いた。
「そうですね。あなたに嘘は厳禁だ」
「私……」
誰に何を言われても平気なつもりだった。
もう充分すぎるほど傷ついたから。
でも、私は、彼に微笑まれて初めて疑問を持った。
私は強がっているように見られている?
それとも、自分でも気づかなかっただけで、本当に私は強がっているだけ?
部屋で泣いていたほうがよかったっていう事?
「あなたは勇気がありますね」
「?」
「酷く傷つけられても、自分の足で立ち上がった。そして歩いた。誰にでもできる事じゃありません」
「……」
「だからあなたは、今日、誰よりも輝いていた。目を奪われました」
「……」
「そうしたら片っ端から男を跳ね返しているものだから、驚きましたよ」
揶揄われているのではなく、本気でそう思っていそうな雰囲気に、私は少しだけ認められた喜びを感じた。
そう。
私は、一度決意をしたし、その後にも決意をした。
どちらも簡単ではなかった。
グレッグはするりと私の心に滑り込んでくる。
「もう敵はいない。安心していいんです。御父上なんて、まるであなたにひれ伏すかのようだ。そう気を張らなくても、あなたの周りはあなたを愛したい人間ばかりなんですよ」
「お説教をどうも。でも私、父を許す気はありません」
グレッグは私を優しく窘めた。
けれど私は、そんな彼を許す事はできなかった。
まずは容姿、そして立ち居振る舞い。ダンスも、身を任せていればふわふわと浮いているように踊らされてしまう。
そして……。
「ちょっと……」
「いいから、私と踊っていなさい」
私を離してくれない。
「疲れました?ワインにしますか?それともシャンパン?」
「ずっと踊り続けて、よく汗一つかかずにいられますね。本当に人間ですか?」
「ああ、悪魔の可能性はありますね」
「え?」
「悪魔的な美貌とよく揶揄われるので」
グレッグがまた微笑む。
「さて、涼みに、バルコニーにでも行きましょうか」
「……それは決定ですか?」
「嫌ですか?」
「いいえ」
「レディ・レーラ、お手を。こちらです」
連れて行かれた。
断るのも面倒だというのと、彼の笑顔が強烈すぎというのが理由。
夜風が心地よく頬を撫でる。
「寒くないですか?」
「ええ。気持ちいいくらいです」
「そうですか。少しは気が晴れました?」
気遣いはありがたい。でも、その言い方が引っかかった。
「どういう意味です?」
「どの男もみんな、例の元婚約者に見えているんじゃないかと思いまして」
「……いいえ」
馬鹿にされたものだ。
私は不機嫌も顕わに、バルコニーの手すりに身を預けた。そんな振る舞いはコドモじみているとわかっている。でも私に失うものはない。恥は充分かいた。取り繕うほうが恥ずかしい。
「そうですか。邪推してすみません」
グレッグは笑顔だ。
私が父を苛める時みたいな、完璧な作り笑い。
「私を揶揄うために時間を割くなんて、随分とお暇なんですね」
「こらこら、レディ・レーラ。違うでしょう。息抜きになりました、でしょ」
「……」
どういうつもり?
喧嘩を売られているの?
「違いますか?今日は憂さ晴らしなんでしょう?」
「……」
「いい眼力です。それだけしっかりしていれば安心だ」
「御心配いただきまして、どうも、ありがとうございます」
呻るようにお礼を述べてしまってから、ふと我に返った。
さすがに失礼かもしれない。
寄りかかっていた体を起こし、ドレスを整える。
「おや、どうしました?」
「御親切を受けながら、だらけているわけにもいきませので」
「いい心掛けだ。でも、あなたは心からだらけられる相手を見つけて、幸せにならなくては」
「ワイズ子爵。お節介って言われません?」
「悪魔的な美貌のお節介だと言われます」
「それはさすがに嘘でしょう。嘘つきは嫌いです」
グレッグは声をあげて笑った。
それからまた柔らかな微笑みを浮かべて、私に向かってゆっくりと頷いた。
「そうですね。あなたに嘘は厳禁だ」
「私……」
誰に何を言われても平気なつもりだった。
もう充分すぎるほど傷ついたから。
でも、私は、彼に微笑まれて初めて疑問を持った。
私は強がっているように見られている?
それとも、自分でも気づかなかっただけで、本当に私は強がっているだけ?
部屋で泣いていたほうがよかったっていう事?
「あなたは勇気がありますね」
「?」
「酷く傷つけられても、自分の足で立ち上がった。そして歩いた。誰にでもできる事じゃありません」
「……」
「だからあなたは、今日、誰よりも輝いていた。目を奪われました」
「……」
「そうしたら片っ端から男を跳ね返しているものだから、驚きましたよ」
揶揄われているのではなく、本気でそう思っていそうな雰囲気に、私は少しだけ認められた喜びを感じた。
そう。
私は、一度決意をしたし、その後にも決意をした。
どちらも簡単ではなかった。
グレッグはするりと私の心に滑り込んでくる。
「もう敵はいない。安心していいんです。御父上なんて、まるであなたにひれ伏すかのようだ。そう気を張らなくても、あなたの周りはあなたを愛したい人間ばかりなんですよ」
「お説教をどうも。でも私、父を許す気はありません」
グレッグは私を優しく窘めた。
けれど私は、そんな彼を許す事はできなかった。
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