裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ

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「寝ましょう」

長く押し黙った後グレッグに掛けた言葉は、それだった。
グレッグの広い背中を撫でて促しながら私は続ける。

「酷い寝不足でオファロン伯爵に失礼があったらいけないわ」

するとグレッグは躊躇いがちに抱擁を解きながら、弱々しく目を覗き込んでくる。

「あなたの傍にいてもいいかい?」
「グレッグ」
「否。あなたの傍にいさせてくれ。あなたのグレッグだ」
「傍にいて」

グレッグの手を引いて私は勢いよくベッドに仰向けに倒れた。
全身を柔らかく受け止められて、物理的な安堵がこみ上げる。自由な方の手を額に乗せ深く溜息を吐いた。

眠れるかどうか怪しい。
それでも横になっていれば体は休まる。

眠れない夜に眠れないまま気を荒げていても悪い事しか起きないと、私は身を以て学んでいた。もう昔の私ではない。

そんな私が誰のおかげで存在しているのか、それも忘れてはいけない事実だった。

「……」

グレッグが無言で隣に横たわる。

手を繋いで眠るなんて初めてだ。
私たちは夫婦だから、甘くない絆もきっと必要になる。

より一層この人と生きていきたいという思いが強くなった。
そしてパトリシアが憎い。

「……!」

怒りで瞼の裏側が燃えるように熱かった。
でも、まずはこの夜を冷静に乗り越えるのが重要だと頭の片隅の理性が叫んでいる。

グレッグが体の向きを変え、一方的にしがみつくような形で私の体を腕の中に収めた。

「本当にすまなかった」
「もうやめて」

睡眠重視で集中したい。

「あなたを守りたい。あなただけを……守り、この先は生きていく」

グレッグは止まらなかった。
そう言えば、はじめから押しの強い人だった。

「グレッグ……ハワードとレイチェルを忘れないで」
「言葉が足りなかった。一人の男として、あなただだけを愛し、守りたい」
「ありがとう。あなたはいい父親だわ」

笑みが洩れた。

話していると気が紛れる事に気づいた私は、できるだけ他愛もない話題を選んでグレッグに話しかけ続けた。
次第にそれは子煩悩な父親と幸せな母親の会話になり、徐々に言葉が途切れ始め、やがて私は浅い眠りに就いた。

物音で目を覚ますと、グレッグが着替えの最中だった。

「……グレッグ」
「おはよう」

快活な朝の挨拶に、直感が冴え渡る。

「寝ていないでしょう?」
「まあ、そういう事にしておこう」

笑みを含む口調はいつも通りで、強がりではない事が読み取れた。
グレッグは芯が強く愛情深い夫であり父親。私の愛する人。大切な人。

何も変わらない。
私たちはもう、何が起きても二人で一つなのだ。

生きていける。
何からも逃げる必要はない。私はこの人生を愛している。
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