さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ

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五章

42(ユーリア)

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────助けてくれ──……!


「?」

ふいにガーラントの声が聞こえ、歌うのをやめた。
灰色の空に覆われたテラスでラルフと寛いでいた私は、胸騒ぎとまではいかないモヤモヤした気持ちになった。

「どうしたの?」

長椅子でゆったりと足を組んだままの姿勢で、ラルフは、優しく尋ねてくれる。
どう説明するべきか……ラルフにはまだ私とガーラントたちの関係を詳しく明かしてはいない。


────ユーリア──……!


聞こえる。
ガーラントの悲痛な叫びが。

「またカタリーナに何かあった?」

ラルフが神妙な顔つきで身を乗り出した。
私は首を振った。でも、行かなければと感じた。

「ごめんなさい。私、ちょっと出かけ……」

言いかけて、ふと気づく。
ガーラントにとっては人生で最初で最後の救援要請かもしれないけれど、これはいい機会だ。ラルフは私の血で変異したという利点もあり、習得が早い。

空間を渡れるか、試してみたい。

「僕も手伝うよ?」
「ええ、そうね。やっぱりお願いする。それでなんだけれど──……」

結果、ラルフはまだ上手に空間を渡る事ができなかった。でも失敗は次の成功に繋がる。私はラルフを励まして、彼を伴いガーラントの元へ飛んだ。

夕暮れの墓地。
最愛の妻であったアルフリーダの墓を掘り起こし、全身土塗れになり、指先を血で染めたガーラントが嗚咽を上げていた。

皺くちゃの顔でこの世の終わりみたいに泣かれると、さすがに、可哀相な気もしてくる。
それにアルフリーダを看取った後もこんなふうに泣いていた。私は、よく覚えている。

アルフリーダは本当に可愛い子だった。
だから、お守りとして指輪をあげたのだ。私のあげた指輪と一緒に埋葬されていた。

それを、ガーラントが掘り起こし、私を呼んだ。

「どうしたの?」

守りたかったのはこの男ではないけれど、愛しいアルフリーダの骨を見てしまったら、あの子が愛したこの男を無下にはできない。

背後でラルフは沈黙を守っている。
知的な彼のことだから、状況を見極めようとしているのだろう。

骨となったアルフリーダの手ごと私の指輪を両手で包んでいたガーラントが、しわがれた声で私を呼んだ。

「ユーリア……助けてくれ……!」
「わかっているわよ。来てあげたでしょう」
「頼む……、今こそ、私を君の同胞に……!!」
「え?」

もうすぐ死んで、天国でアルフリーダと会えるのに?
アルフリーダに縋り付いて泣きながらそれを言うの?

意味が分からない。

「死ぬのが恐くなったの?」

確かに、ガーラントは長く生きすぎた。
その人生の中で、愛した相手を何度か喪ってきた。私とは桁が違うけれど、気持ちは、わからないものではない。だから同情もしている。

ガーラントは首を振る。

「違う……いつか君は、言っただろう……血族の血は薬になると」

あの時、私たちは王国を守った。
そうするには、人の子たちはあまりに脆かった。

けれど、人としての死を選ぶ者は多かった。私たちなら救ってあげられた。守ってあげられた。でも、そこまでは望まれていなかった。
いつもそうだ。慣れている。

それが今になって、何故。

「私をヴァンパイアにしてくれ……アンジェリカが、死んでしまう……!」
「アンジェリカ?じゃあ、死んじゃえば?」
「頼む!!」

辛辣なラルフの言葉はガーラントの慟哭を誘った。
ガーラントは私の足元に這いずってくると、泣きながら懇願を重ねた。

「お願いだ……最期のお願いだ!ユーリア!!」
「最期って言うか、此方へ来たらもう死なないでしょう」

ラルフが素っ気なく指摘した。
けれど、ラルフはまだ『白の鍵』が何を意味する言葉なのかを知らない。

「何があったかは後で聞くけれど……自分がヴァンパイアになって、自分の血でアンジェリカを死の間際から呼び戻したら、あなたは、私にアルフリーダのところへ送ってもらおうって考えているのね」
「頼む……!」
「嫌よ」

冗談じゃない。
私が『白の鍵』を授けられているからといって、その役目を喜んでいるわけではないのだ。この手で同胞を天へ葬る度、胸が張り裂けた。心が砕け散り、壊れた。

私が永遠のさよならを決める。
私に与えられた永遠の寂寥を軽々しく求められては、いい気がしない。

「ユーリア!お願いだ……!なんでもする。私にできることなら、なんでも……!」
「私があなたの何を欲しがるの?──でも」

肩越しにラルフを見遣る。
つまらなそうな顔でガーラントを見下している彼の顔を見ながら、此処に最良の解決策があると思いついた。

「丁度、彼の練習台が欲しかったところなの。ガーラント。私のやり方でいいならアンジェリカを助けてあげる。でも、あなたはそのままアルフリーダのところへ行きなさい」
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