3年も帰ってこなかったのに今更「愛してる」なんて言われても

希猫 ゆうみ

文字の大きさ
2 / 3

しおりを挟む
私は婚約を破棄された。
婚約者を待っている間、心が冷めたから。

でも、それって私のせいなの?
彼の言う通りに、私が待っている間も帰ってきてからも愛情深く彼を思わなかったから?

私が大切にされていないのに、私は彼を大切にしないといけない?

そんな関係は続けられない。
だから、私の気持ちを伝えて責められるような相手なら、結婚しないほうがいい。

ちょうど婚約を解消しようとしていたところだったのだから、これでよかった。すべてを私のせいにされて、それだけは悔しかったけれど。

「そんな奴の事は、もう忘れてしまいなよ」

幼馴染のデューイも伯爵令息で、母方の遠い親戚で幼馴染だった。
私が婚約破棄されたのを聞いて、駆けつけてくれたのだ。

「そんなこと言われても悔しくて忘れられないわよ」
「そうかもしれないけど、見ていて辛いよ」
「え?」

またそれ?
私は常に男をご機嫌にするために振舞わなきゃいけないの?

「せっかく来てくれて悪いけど、あなたの気分のために忘れたふりはできない。ごめんなさい」
「ああ、違うよハンナ。僕こそごめん」

デューイが私の手を包んだ。
無邪気に遊んでいた幼い頃のように。

だけどもう大人の男の手をしている。
温かい。

「君に辛い思いをしてほしくないんだ。君が大切だから」
「え……?」
「君は幸せになると思っていた。だから婚約をお祝いしたんだよ。あの時、君を止めればよかった」
「デューイ……?」

私はかつての幼馴染の顔をじっと見た。
彼は、酷い顔をしていた。酷く辛そうな顔。

「辛い思いをしたね。だけどハンナ、これは僕の我儘かもしれないけど、君には自棄になってほしくない」
「どうして?」
「言ったろ。僕はずっと君を大切に想っているし、大切な君には、絶対に幸せになってもらいたいんだ」

彼の言っている事は理解できる。
でも、気持ちが追いつかない。

「婚約を破棄されたのよ?」
「君には不釣り合いな男だったんだ。人を悪く言うのは嫌だけど、3年も君をほったらかして遊び歩いていた男が君との婚約を破棄したのは、よかったと思うよ」
「私が好きなの?デューイ」

聞いてしまった。
だけど、それでよかったのだ。

デューイが頬を染めて、笑ったから。

「そうだよ。気づいていると思っていたけど」
「知らないわ」
「そうかもね。言った事ないから」
「……今日は、それを言いに来たの?」

そんなはずない。
そんな都合のいい話があるわけないもの。

本当は心を許せる幼馴染が、ずっと前から私を想っているなんて。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです

睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。

夫は運命の相手ではありませんでした…もう関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

coco
恋愛
夫は、私の運命の相手ではなかった。 彼の本当の相手は…別に居るのだ。 もう夫に関わりたくないので、私は喜んで離縁します─。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

花嫁に「君を愛することはできない」と伝えた結果

藍田ひびき
恋愛
「アンジェリカ、君を愛することはできない」 結婚式の後、侯爵家の騎士のレナード・フォーブズは妻へそう告げた。彼は主君の娘、キャロライン・リンスコット侯爵令嬢を愛していたのだ。 アンジェリカの言葉には耳を貸さず、キャロラインへの『真実の愛』を貫こうとするレナードだったが――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

わたくしが代わりに妻となることにしましたの、と、妹に告げられました

四季
恋愛
私には婚約者がいたのだが、婚約者はいつの間にか妹と仲良くなっていたらしい。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

完璧すぎる幼馴染に惚れ、私の元を去って行く婚約者ですが…何も知らず愚かですね─。

coco
恋愛
婚約者から、突然別れを告げられた私。 彼は、完璧すぎる私の幼馴染に惚れたのだと言う。 そして私の元から去って行く彼ですが…何も知らず、愚かですね─。

貴方が要らないと言ったのです

藍田ひびき
恋愛
「アイリス、お前はもう必要ない」 ケヴィン・サージェント伯爵から一方的に離縁を告げられたアイリス。 彼女の実家の資金援助を目当てにした結婚だったため、財政が立て直された今では結婚を続ける意味がなくなったとケヴィンは語る。 屈辱に怒りを覚えながらも、アイリスは離縁に同意した。 しかしアイリスが去った後、伯爵家は次々と困難に見舞われていく――。 ※ 他サイトにも投稿しています。

処理中です...