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25(ジェマ)
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「では別荘はオックススプリング侯領で決定だな」
「ええ。あなたも親戚の近くで過ごしていると思えば安心でしょう」
「君が不貞を働く心配などしていない。だから旅を勧めた」
「安否の話よ」
「ああ、安否か」
「妃殿下の酒癖が悪いくらい極寒のホイットモアに比べたら些末な問題よ。妃殿下一人どうとでもできる」
「発言には気を付けろ。血筋で勝てるのは妃殿下が王子か王女の母になる前までだ。それにしても君が恨み節とは珍しい」
「あなたも凍っていらっしゃい。なぜあの地を旅程に含めたのか正気を疑ったわ。殺す気?」
「憎まれたな。ほら、今夜のぬるいスープを堪能しろ」
「言われなくても堪能してる」
「美味いか?」
「普通よ」
絶対に仲良しよね?
互いに気の無い素振りで形式上のやっつけ結婚に思えた当初から、この二人は会話が弾んでいた。
気の無い素振りも含めて気が合う二人。
それが私の印象だ。
「普通か。それが一番だ」
うん。
普通に仲良し夫婦。
「同感よ。なぜかしら。人生の中で微々たる日数しか住んでいないのに帰って来た気分」
「帰って来たんだ」
「ええ。この席に座ってスープを啜るのが普通な気がする」
「それは結構」
「くしゃみの勢いで食事中に頬の内側を噛んだわ」
「咥内の負傷は甘く見ると危険だぞ」
「もう治った」
「先に言え。何時の話だ」
「春よ」
私はフェルネ様に仕えて通算5年になるが、未だかつてここまで会話の弾んだ相手を見たことがない。
顔を合わせればひっきりなしに喋り続けている。会釈で済めばいいような時でさえ、すれ違いながら楽に声の届く限界まで会話している。
「春に硬いパンは危ない。以前、初めての春の病で負傷した男がいる」
それはたぶん二階担当のハンス。
ハーブティーでは落ち着かなかったフェルネ様を真っ赤な涙目で見送ってくれた気のいいフットマンだ。
「どうなったの?」
「前歯が欠けた」
それでも優しい笑顔だった。
「勢いがつきすぎたのね」
「私ではない」
「でしょうね」
「ふん。私の顔をつぶさに観察しているとは驚きだ」
「誰であれ舌を噛まなくてよかったわ」
本人もそう言っていた。
「君は?」
「頬で懲りて気を付けた」
「前歯の欠けた侯爵夫人というのは話題になるだろう」
「もしそうなったら真珠の差し歯を作ってちょうだい」
「なるほど。君の口は微笑むと光るわけか」
「本気にしないで。冗談よ」
冗談なんて言う人ではなかった。
私は真珠の前歯で微笑む我が主を想像し笑いを堪える。無表情で侍る私を誰か褒めて。
「君が冗談を言うとは」
「!?」
バラクロフ侯爵が微かな笑みを浮かべたのを目の当たりにした配膳係のメイドが驚愕している。
「光ってるのはあなたの眼鏡」
「ハハ」
次の瞬間、紛うことなきバラクロフ侯爵の笑い声にバラクロフ侯爵家の使用人一同が驚愕のあまり時を止めた。パートランド伯爵家から来て日の浅い私でさえ驚いたのだ。彼らの心境は察して余りある。
「あなた笑うのね」
誰もがそう思っている。
今日も夏の和やかな食卓では夫婦の会話が弾んでいる。
「ええ。あなたも親戚の近くで過ごしていると思えば安心でしょう」
「君が不貞を働く心配などしていない。だから旅を勧めた」
「安否の話よ」
「ああ、安否か」
「妃殿下の酒癖が悪いくらい極寒のホイットモアに比べたら些末な問題よ。妃殿下一人どうとでもできる」
「発言には気を付けろ。血筋で勝てるのは妃殿下が王子か王女の母になる前までだ。それにしても君が恨み節とは珍しい」
「あなたも凍っていらっしゃい。なぜあの地を旅程に含めたのか正気を疑ったわ。殺す気?」
「憎まれたな。ほら、今夜のぬるいスープを堪能しろ」
「言われなくても堪能してる」
「美味いか?」
「普通よ」
絶対に仲良しよね?
互いに気の無い素振りで形式上のやっつけ結婚に思えた当初から、この二人は会話が弾んでいた。
気の無い素振りも含めて気が合う二人。
それが私の印象だ。
「普通か。それが一番だ」
うん。
普通に仲良し夫婦。
「同感よ。なぜかしら。人生の中で微々たる日数しか住んでいないのに帰って来た気分」
「帰って来たんだ」
「ええ。この席に座ってスープを啜るのが普通な気がする」
「それは結構」
「くしゃみの勢いで食事中に頬の内側を噛んだわ」
「咥内の負傷は甘く見ると危険だぞ」
「もう治った」
「先に言え。何時の話だ」
「春よ」
私はフェルネ様に仕えて通算5年になるが、未だかつてここまで会話の弾んだ相手を見たことがない。
顔を合わせればひっきりなしに喋り続けている。会釈で済めばいいような時でさえ、すれ違いながら楽に声の届く限界まで会話している。
「春に硬いパンは危ない。以前、初めての春の病で負傷した男がいる」
それはたぶん二階担当のハンス。
ハーブティーでは落ち着かなかったフェルネ様を真っ赤な涙目で見送ってくれた気のいいフットマンだ。
「どうなったの?」
「前歯が欠けた」
それでも優しい笑顔だった。
「勢いがつきすぎたのね」
「私ではない」
「でしょうね」
「ふん。私の顔をつぶさに観察しているとは驚きだ」
「誰であれ舌を噛まなくてよかったわ」
本人もそう言っていた。
「君は?」
「頬で懲りて気を付けた」
「前歯の欠けた侯爵夫人というのは話題になるだろう」
「もしそうなったら真珠の差し歯を作ってちょうだい」
「なるほど。君の口は微笑むと光るわけか」
「本気にしないで。冗談よ」
冗談なんて言う人ではなかった。
私は真珠の前歯で微笑む我が主を想像し笑いを堪える。無表情で侍る私を誰か褒めて。
「君が冗談を言うとは」
「!?」
バラクロフ侯爵が微かな笑みを浮かべたのを目の当たりにした配膳係のメイドが驚愕している。
「光ってるのはあなたの眼鏡」
「ハハ」
次の瞬間、紛うことなきバラクロフ侯爵の笑い声にバラクロフ侯爵家の使用人一同が驚愕のあまり時を止めた。パートランド伯爵家から来て日の浅い私でさえ驚いたのだ。彼らの心境は察して余りある。
「あなた笑うのね」
誰もがそう思っている。
今日も夏の和やかな食卓では夫婦の会話が弾んでいる。
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