真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ

文字の大きさ
31 / 58

31(レジナルド)

しおりを挟む
宮殿に招かれての年越しとなった為、当然、宮殿で開かれた新年の祝宴も引き続き招かれている。
それで普段よりも情報量が多かったことが理由の一つでもあるだろう。かつて妻フェルネの婚約者であったサディアスという男の父親、エヴァンズ伯爵ブライン卿の訃報が耳に入った。

「……あら」
「ふむ。少なくとも余計な王位継承権より重大だな」
「ええ」
「一度は義理の父になるという前提のもと短いとは言い難い月日を過ごした相手だろう」
「ええ」
「息子の方はどうあれ、弔いに」
「ええ」

亡き母と弟への敬意に胸打たれた私は、フェルネのエヴァンズ伯爵に対する表面化しない心情を慮らずにはいられなかった。

私たちが結婚するきっかけでもあった婚約解消そのものには恩など感じないが、エヴァンズ伯爵のパートランド伯爵家への対応は評価するに余りある。問題の息子を勘当、相手のメイドを追放、その上で莫大な慰謝料を支払っている。

私たちの結婚式に招かないのは当然として、祝辞の無いのは先方の気遣いと判断していた。人知れず病床に臥せっていたとなれば祝辞に気が回らずとも不思議ではない。

息子の方はどうあれ、父親の方はまともな貴族だった。
息子の方が野垂れ死んだとしてもどうでもいいが、父親の方は悼むべきであると私は思う。

「私が同伴するのはどう思う?エヴァンズ伯爵夫人からすれば、息子の後釜に割り込んだ先祖の因縁を背負う男だろう」
「正確には息子の捨てた釜を拾った先祖の因縁を背負う男よ」
「重要なのはそこか」
「ええ。でも、あなたを隣に立たせて夫人にものを言ったらそれはやや意地悪ね」
「では遠慮する。一人で行くか?」
「父を探す。父は亡きエヴァンズ伯爵自体に悪い印象を持たなかったから」

新年、全ての貴族が招かれている。事情によって辞退した家はエヴァンズ伯爵家だけではない。寧ろ私の父が未だに悲しみに暮れ王家の招きさえ辞退しているが、それは今どうでもいい。

私の義理の父となったパートランド伯爵は派生的に時の人であり、すぐに見つかったが人だかりから引きずり出す必要があった。

「なんだって!?」
「お父様、お葬式に間に合うかしら」
「冬だから腐敗は一年で尤も遅い」

私が添えた一言に複数の非難の目が向けられたが、妻と義理の父親は気に留めず、未亡人はこの場にいないのだから気にする程のことではない。事実である。

重大な事情によって新年の祝宴を早々に辞することとなったバラクロフ侯爵夫人フェルネ、つまり私の妻だが、誰からも咎められず、寧ろ王家からの弔辞を託される形となり格が上がった。
更には自身に無礼な婚約解消を叩きつけた伯爵家に対する寛大且つ慈悲深い弔意と受け取られ、株も上がった。

妻フェルネとパートランド伯爵夫妻を見送った私に待っていたのは、時を越えた真実の愛に加算された現代の慈愛に群がる有象無象の賞賛だった。

謙虚な微笑みという仮面を被るくらい造作もない。
しおりを挟む
感想 125

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……? 基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。

処理中です...