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44(イライザ)
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「さて。エヴァンズ伯爵としてまずあなたに言いたいことは」
「まだ決定したわけではありませんよ、サディアス」
私は息子への恐れを隠し、極めて理性的になろうと努める。
これは私の息子であり、手続き上は未だ勘当さえ解いておらずブラインの席に座る資格のない者。私の気持ち一つで再び城の外へと放り出せる存在。
でも……
「でも、あなたはこれを望んでいた。そうですね、母上?」
「……ええ」
息子サディアスに此処エヴァンズ伯領を統治してもらわなければ困る。
そして私の息子サディアスこそがエヴァンズ伯爵に相応しい只一人の相続人なのだ。
私は認めざるを得なかった。
例え息子の性格が恐ろしく傲慢な形で捻くれて結婚という重大な場面で選択を誤るような愚か者でも、それは二の次。
息子はブラインのような人格者には育たなかった。
そうだとしても、在るべき形に収まってくれさえすればいいのだ。
「では、母上」
組んだ指の上に顎を乗せ息子サディアスが悪魔的な笑みを浮かべる。
内心ぎくりとしたが、私はそれを上手く隠したつもりだ。
しかし、続く言葉に私は不甲斐なく動揺する。
「あなたは追放だ」
「な……!」
在り得ないことではない。
こちらが先に息子を勘当し、その愛する女を追放したのだから。
あの雌猫を愛しているというその神経は未だに軽蔑に値するが、だからこそ私を、実の母親である私を追放するなどと言えるのだから油断できない。
「あはは!冗談ですよ母上!」
息子が仰のいて笑った。
「嫌だなぁ、真に受けて。僕が母上を追放なんてするわけないじゃありませんか!あなたじゃないんだから!」
「……」
恐い。
私はもしかして、息子の皮を被った恐ろしい悪魔を連れて来てしまったのだろうか。
そんな馬鹿げた考えが浮かぶほど、息子は手に負えない存在となっていた。
「サディアス……」
「ああ、可笑しい」
サディアスが目尻を拭う。
私を涙が浮かぶ程に嘲笑った息子が次に発する言葉が何であるか、事実、私は気が気ではなかった。
しかしそれは杞憂となる。
「冗談はさておき、教えてください。ジェームズを何処に隠したんです?」
息子は愚かなままだった。
私は溜息をつき、その実肩を撫で下ろした。
「何を人聞きの悪い。母親と一緒に、相応しい寝床を与えています」
「まあ、いくら僕に冷たかろうと人間ですからね。あなたは自分の孫に非道な仕打ちができるような人ではない。そこは心配していませんが、会いたいんですよ。顔が見たい」
私は虫唾が走るような違和感を無視できなかった。
サディアスが息子の名を口にした瞬間の目つきは、ブラインがサディアスの名を口にするときとはまるで別物だった。
ブラインはサディアスの愚かな選択を生涯許さず、勘当を解かなかった。
それはサディアスを愛していたからだ。深く愛していたからこそ、裏切りを許さず、許さないという痛みによってけじめをつけた。
しかしサディアスはまるで取り上げられたお気に入りの玩具を強請るような目つきで息子を語る。
呆れた。
人の親になりながらも、息子には父親の人格が備わっていない。
でもこれで有利になった。
私は息子の宝物を掌握しているのだ。恐れるには至らない。
「サディアス。はっきり言っておきますが、ジェームズは私生児です。私はあなたの主張する結婚を認めたわけではありません」
「そうですか」
存外、息子は素直に頷いた。
私は息子の真意を探りながら続ける。
「当然、あなたの次にエヴァンズ伯爵を名乗るのは私生児ではなく、正統な後継者だけですよ」
「それは?」
どうやら聞く耳を持つ気のようだ。
領主の椅子が息子の心を整えるか、入れ替えてくれたのだろう。
私は安堵し、この機に全てを打ち明けることにした。
忽ち気分は晴れやかになり、笑みが零れる。
「フェルネの子です。フェルネは今もあなたを想って操を立てているのです」
「……はい?」
息子は呆気に取られているようだ。無理もない。こんなに素晴らしい奇跡は身に余るほど光栄で、とても信じられないだろう。
だが私は知っている。
「いいですか?フェルネはあの後すぐに結婚しましたが、それは仕方なく所縁のある男に嫁いだに過ぎません。フェルネは新婚時代からずっと旅行三昧で、あなたを忘れられずに放浪しているのです。未だに子どもが産まれないのがその証拠です」
「気は確かですか?」
「フェルネの現在の身分は関係ありません。フェルネがあなたを愛しているから離婚したいと言えば相手は応じるしかありませんよ。何と言ってもフェルネには王家の血が流れているのですから!」
「母上……」
「あなたは全て取り戻すのです!あなたの息子、私の孫、未来のエヴァンズ伯爵は王家の末裔となるのです!!」
私が幸福感に包まれた次の瞬間、息子が吐き捨てた。
「馬鹿を言わないでください。僕の妻はリディ只一人です」
「まだ決定したわけではありませんよ、サディアス」
私は息子への恐れを隠し、極めて理性的になろうと努める。
これは私の息子であり、手続き上は未だ勘当さえ解いておらずブラインの席に座る資格のない者。私の気持ち一つで再び城の外へと放り出せる存在。
でも……
「でも、あなたはこれを望んでいた。そうですね、母上?」
「……ええ」
息子サディアスに此処エヴァンズ伯領を統治してもらわなければ困る。
そして私の息子サディアスこそがエヴァンズ伯爵に相応しい只一人の相続人なのだ。
私は認めざるを得なかった。
例え息子の性格が恐ろしく傲慢な形で捻くれて結婚という重大な場面で選択を誤るような愚か者でも、それは二の次。
息子はブラインのような人格者には育たなかった。
そうだとしても、在るべき形に収まってくれさえすればいいのだ。
「では、母上」
組んだ指の上に顎を乗せ息子サディアスが悪魔的な笑みを浮かべる。
内心ぎくりとしたが、私はそれを上手く隠したつもりだ。
しかし、続く言葉に私は不甲斐なく動揺する。
「あなたは追放だ」
「な……!」
在り得ないことではない。
こちらが先に息子を勘当し、その愛する女を追放したのだから。
あの雌猫を愛しているというその神経は未だに軽蔑に値するが、だからこそ私を、実の母親である私を追放するなどと言えるのだから油断できない。
「あはは!冗談ですよ母上!」
息子が仰のいて笑った。
「嫌だなぁ、真に受けて。僕が母上を追放なんてするわけないじゃありませんか!あなたじゃないんだから!」
「……」
恐い。
私はもしかして、息子の皮を被った恐ろしい悪魔を連れて来てしまったのだろうか。
そんな馬鹿げた考えが浮かぶほど、息子は手に負えない存在となっていた。
「サディアス……」
「ああ、可笑しい」
サディアスが目尻を拭う。
私を涙が浮かぶ程に嘲笑った息子が次に発する言葉が何であるか、事実、私は気が気ではなかった。
しかしそれは杞憂となる。
「冗談はさておき、教えてください。ジェームズを何処に隠したんです?」
息子は愚かなままだった。
私は溜息をつき、その実肩を撫で下ろした。
「何を人聞きの悪い。母親と一緒に、相応しい寝床を与えています」
「まあ、いくら僕に冷たかろうと人間ですからね。あなたは自分の孫に非道な仕打ちができるような人ではない。そこは心配していませんが、会いたいんですよ。顔が見たい」
私は虫唾が走るような違和感を無視できなかった。
サディアスが息子の名を口にした瞬間の目つきは、ブラインがサディアスの名を口にするときとはまるで別物だった。
ブラインはサディアスの愚かな選択を生涯許さず、勘当を解かなかった。
それはサディアスを愛していたからだ。深く愛していたからこそ、裏切りを許さず、許さないという痛みによってけじめをつけた。
しかしサディアスはまるで取り上げられたお気に入りの玩具を強請るような目つきで息子を語る。
呆れた。
人の親になりながらも、息子には父親の人格が備わっていない。
でもこれで有利になった。
私は息子の宝物を掌握しているのだ。恐れるには至らない。
「サディアス。はっきり言っておきますが、ジェームズは私生児です。私はあなたの主張する結婚を認めたわけではありません」
「そうですか」
存外、息子は素直に頷いた。
私は息子の真意を探りながら続ける。
「当然、あなたの次にエヴァンズ伯爵を名乗るのは私生児ではなく、正統な後継者だけですよ」
「それは?」
どうやら聞く耳を持つ気のようだ。
領主の椅子が息子の心を整えるか、入れ替えてくれたのだろう。
私は安堵し、この機に全てを打ち明けることにした。
忽ち気分は晴れやかになり、笑みが零れる。
「フェルネの子です。フェルネは今もあなたを想って操を立てているのです」
「……はい?」
息子は呆気に取られているようだ。無理もない。こんなに素晴らしい奇跡は身に余るほど光栄で、とても信じられないだろう。
だが私は知っている。
「いいですか?フェルネはあの後すぐに結婚しましたが、それは仕方なく所縁のある男に嫁いだに過ぎません。フェルネは新婚時代からずっと旅行三昧で、あなたを忘れられずに放浪しているのです。未だに子どもが産まれないのがその証拠です」
「気は確かですか?」
「フェルネの現在の身分は関係ありません。フェルネがあなたを愛しているから離婚したいと言えば相手は応じるしかありませんよ。何と言ってもフェルネには王家の血が流れているのですから!」
「母上……」
「あなたは全て取り戻すのです!あなたの息子、私の孫、未来のエヴァンズ伯爵は王家の末裔となるのです!!」
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