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45(イライザ)
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「な、なんですって……!?」
耳を疑う。
目を疑う。
息子が本気で、あの雌猫を愛し続けていると言い出した。
「母上も見たんでしょう?リディは泣きながら命懸けで僕を守ろうと立ち向かってくれたんです。死を覚悟した瞬間も、切なそうに僕を見つめ、静かに僕との愛の人生を振り返っていた。最期の瞬間まで僕を見ていようと……あの直向で熱い愛に僕は胸打たれましたよ。僕の妻はリディです。それにリディはジェームズの母親です」
「あなた……」
殺そう。
殺してやろう。
あのリディとかいう雌猫が生きている限り、息子の目は覚めない。
その確信が芽生えはしたものの、私にはとても命を奪うなんて大罪は犯せないとわかっていた。あのリディそのものが呪いなのだと、私は諦めるしかないようだった。
「それに母上。母上の孫は王になりますよ。だってあの村に僕が建国するんですから。エヴァンズ伯領を継げなくてもジェームズは困りません。私生児扱いなら丁度いいんじゃないですか?」
「あなた……まだそんなことを……!」
眩暈がして、私は壁に手をついて体を支えなければならなかった。
動悸が激しく乱れ、目の前で光が点滅する。
まるで悪夢のようだった。
「あの村は、焼き払ったでしょう……!もうないのよ……!」
「ああ、畑を焼いたのは正解です。僕は恨みを買ったから、村人はそっくり入れ替えないといけない。畑があれじゃあ出て行くしかないでしょう。ありがとうございます。頑固で反抗的な蛮族を懐柔するより、更地に人を入れて一からやった方が建設的だ」
それに、と、息子は笑顔で続けた。
「あの村で僕は運命の人に出会ったんです」
「は……!?」
息子は、何を言っているのだろうか。
今さっきリディという呪われた雌猫への愚かな愛を声高らかに主張したばかりだというのに。
「ヒルダというシスターなんですがね、意地っ張りで可愛いんです」
「……」
「彼女を何処か適当な貴族の養女にして、それで結婚すれば文句ないですよね?」
「妻を二人持つつもり?」
他に問い質すべきことが多すぎて、私の口から一番簡単な疑問が滑り出る。
サディアスは笑顔で答えた。
「愛する人がたくさんいた方が幸せじゃないですか。リディは母上が認めないから貴族になれない。爵位を継がせるには──」
「そのヒルダとかいう罰当たりだって認めません」
「じゃあ、ジャクリーンでいいんじゃないですか?」
「は?」
もう訳が分からない。
「今は形式上、僕の妹ですよね?僕は甥に爵位を継がせるのでも全然かまいません。ジャクリーンを実家に帰してから形式上の妻として娶ってもいいです。いとこ同士の結婚を認めている国は多くありますからね」
息子が化物に見えた。悪魔に見えた。
その言葉の範囲がどれだけのものであるか問い質す必要はない。
「私の姪に手をつけたらいくらあなたでも許しませんよ。そんな、悍ましい」
「とりあえず、あなたに言われたくない。僕はわかりましたよ。あなたに愛なんてないんだ。息子にも、夫にも。愛しているのは自分だけ。あなたは自分が生き延びる為に父上にしがみついていただけの野良猫だ」
私は息子の襟首を掴みその頬を打った。
息子は勢いで横を向いたが、笑っていた。
「まあ、ジャクリーンはやめておきましょう。老いて母上そっくりの妻が横にいるなんて、それこそ悍ましいですからね」
私は息を荒げ叫び声をあげながら息子を打ち続けたが、激情の陰でやっと現実に気が付き始めていた。
ブラインは死んだ。
ブラインが死んだ時、私の人生は終わったのだ。
ブラインのいないこの世界はもう私の生きるべき場所じゃない。
耳を疑う。
目を疑う。
息子が本気で、あの雌猫を愛し続けていると言い出した。
「母上も見たんでしょう?リディは泣きながら命懸けで僕を守ろうと立ち向かってくれたんです。死を覚悟した瞬間も、切なそうに僕を見つめ、静かに僕との愛の人生を振り返っていた。最期の瞬間まで僕を見ていようと……あの直向で熱い愛に僕は胸打たれましたよ。僕の妻はリディです。それにリディはジェームズの母親です」
「あなた……」
殺そう。
殺してやろう。
あのリディとかいう雌猫が生きている限り、息子の目は覚めない。
その確信が芽生えはしたものの、私にはとても命を奪うなんて大罪は犯せないとわかっていた。あのリディそのものが呪いなのだと、私は諦めるしかないようだった。
「それに母上。母上の孫は王になりますよ。だってあの村に僕が建国するんですから。エヴァンズ伯領を継げなくてもジェームズは困りません。私生児扱いなら丁度いいんじゃないですか?」
「あなた……まだそんなことを……!」
眩暈がして、私は壁に手をついて体を支えなければならなかった。
動悸が激しく乱れ、目の前で光が点滅する。
まるで悪夢のようだった。
「あの村は、焼き払ったでしょう……!もうないのよ……!」
「ああ、畑を焼いたのは正解です。僕は恨みを買ったから、村人はそっくり入れ替えないといけない。畑があれじゃあ出て行くしかないでしょう。ありがとうございます。頑固で反抗的な蛮族を懐柔するより、更地に人を入れて一からやった方が建設的だ」
それに、と、息子は笑顔で続けた。
「あの村で僕は運命の人に出会ったんです」
「は……!?」
息子は、何を言っているのだろうか。
今さっきリディという呪われた雌猫への愚かな愛を声高らかに主張したばかりだというのに。
「ヒルダというシスターなんですがね、意地っ張りで可愛いんです」
「……」
「彼女を何処か適当な貴族の養女にして、それで結婚すれば文句ないですよね?」
「妻を二人持つつもり?」
他に問い質すべきことが多すぎて、私の口から一番簡単な疑問が滑り出る。
サディアスは笑顔で答えた。
「愛する人がたくさんいた方が幸せじゃないですか。リディは母上が認めないから貴族になれない。爵位を継がせるには──」
「そのヒルダとかいう罰当たりだって認めません」
「じゃあ、ジャクリーンでいいんじゃないですか?」
「は?」
もう訳が分からない。
「今は形式上、僕の妹ですよね?僕は甥に爵位を継がせるのでも全然かまいません。ジャクリーンを実家に帰してから形式上の妻として娶ってもいいです。いとこ同士の結婚を認めている国は多くありますからね」
息子が化物に見えた。悪魔に見えた。
その言葉の範囲がどれだけのものであるか問い質す必要はない。
「私の姪に手をつけたらいくらあなたでも許しませんよ。そんな、悍ましい」
「とりあえず、あなたに言われたくない。僕はわかりましたよ。あなたに愛なんてないんだ。息子にも、夫にも。愛しているのは自分だけ。あなたは自分が生き延びる為に父上にしがみついていただけの野良猫だ」
私は息子の襟首を掴みその頬を打った。
息子は勢いで横を向いたが、笑っていた。
「まあ、ジャクリーンはやめておきましょう。老いて母上そっくりの妻が横にいるなんて、それこそ悍ましいですからね」
私は息を荒げ叫び声をあげながら息子を打ち続けたが、激情の陰でやっと現実に気が付き始めていた。
ブラインは死んだ。
ブラインが死んだ時、私の人生は終わったのだ。
ブラインのいないこの世界はもう私の生きるべき場所じゃない。
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