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あかり x ルナ x マリー
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部屋に戻ると、マリーがお茶の準備をしてくれていた。
マリーが淹れてくれる、いつものお茶。
いつものテーブルに、いつもの椅子。
テーブルには、花が生けてある。
いつものマリーの作法に、いつもの笑顔。
僅か十日ばかりの外出だったけれど、初めての外の景色に初めての魔物退治、初めての神との出会い……本当に"初めて"尽くしだったからね。
だからこそ、この穏やかな香りに包まれると、ようやく胸の奥がほっと溶けていく。
ゆっくりとひとくち。
「美味しい……やっと帰って来れたー」
マリーが恥ずかしそうに顔を伏せて微笑んでくれている姿がたまらなく愛おしい。
ルナは、部屋に戻ると何故か女神の姿に戻っていた。何で? 貴女は犬になっとこうね?
ルナが私の顔をじーっとみてくる。
「あかりよ、あかり、あかりさん。貴女は何か忘れてはいませんか?」
お茶を飲みながら「ん~?」と考えるけど、何も分からない? 何か忘れていましたっけ?
「っけ? じゃないわよ! 本よ! 本! あの本の続きが読みたくて私は下界に降りてきたのよ!」
あーっ! そうでした、そして帰れなくなったのでしたね。
「くっ……と、とにかく……本が読みたいの……お願い」
急にしおらしくなった腐女神が可愛すぎて、思わずニヤけてしまう。
仕方ないなぁ。
『ガマぐちポシェットくん』に手を入れて、あの本の続きを取り出す。
「はい、『婚約破棄された転生侯爵令嬢が、腐女子拗らせて王子と王子を全力でカップリングします』第二巻」
「これこれ~♪」
腐女神は早速本を抱えてベッドにダイブ。
そのままページをめくる音だけが部屋に響き、完全に無言モードに突入した。
ベッドの上の腐女神から顔を上げると、マリーと目があった。
「何? マリーも何か欲しいものある?」
マリーはハッとして顔を赤らめ、指をもじもじ……。
おや?
「あの、大変申し上げ難いのですが……先日、あかり様がお忘れになっていた御本を、勝手に読んでしまいました! 申し訳ありません」
そう言って頭を下げる。
「謝らなくて大丈夫よ、あれはマリーに読んで欲しくてわざと置いていったのだから……あれの続き、読む?」
マリーは初めて会った時のように、小さくコクンと頷いた。
きた~、きたよマリーちゃん! 沼へようこそ!
内心でガッツポーズを決めながら、心の中で歓迎会の花火を打ち上げる。
「嬉しい……本当に嬉しいよ、マリー」
マリーちゃんが、私が遠征に出ている間、ずっとあの本を読んでくれていた事。
私の気持ちに気づいて胸を熱くしてくれた事などをポツポツと話してくれた。
これよこれ! 同じ界隈の戦友と語り合うこの時間!
私に足りなかったのは推しカプを語り合えるこの腐の時間だったのよ!
考えたらずっと一人だったんだもの。
何度も騎士団の人達見て一人で脳内補完してた頃は、何かが足りないってずっと思ってた。
そう、腐を分かち合える仲間がいなかったんだ。
私は、寂しかったんだ……!
「う、うううううーっ」
マリーちゃんが慌ててハンカチを差し出してくれる。
ルナ様も起き上がって肩を抱いて慰めてくれた。
泣きじゃくる私を二人で慰めながら、その夜は朝まで――本当に朝まで――推しカプを語り明かした。
「マリーは誰推しなの?」
「まだ、推し? がハッキリわからないのですが……カイルが時々アルを見つめる視線や、同じ同僚と話している時に感じている嫉妬と言うか感情が、アルを愛しているのだなあ、と好ましく思います」
「そうそう! それが尊いと言う感情ね。
そして何より、アルの方がずっとカイルを愛しているって言うのが良いのよねー。
お互いに愛している気持ちはあるのに、それが小出しにされてるのが最高に悶える!」
「あの……実は……」
マリーがそっと文箱から数枚の紙を取り出してきた。
「えっ? なに――」
受け取って目にした瞬間――
私は手にしたお茶のカップを落としそうになった。
だって……。
「えっ……これ……って、マリーが?」
「はい、あの本の挿絵のようには描けませんが、どうしても私も手が止められなくて」
そこには、本の中のキャラと言うより現実の「アルバラード xカイル」を思わせる二人がいた。
訓練後にタオルを差し出すカイル。
少し離れた場所からアルを見つめるカイル。
ただ並んで歩くだけの、でも確かに愛の重さを感じる二人の横顔。
マリーの描きたい"愛"が確かにそこにあった。
「凄いわマリー! 貴女こんな才能があったのね!」
横から覗き込んでいたルナが目を輝かせて叫ぶ!
「貴女……やるわね、こうなったら私も負けてられないわ!
この胸に渦巻く無限の妄想を、今すぐ文字にする!
私の脳内にある物語を、貴女達にも読ませてあげるわよ!」
女神からまさかの二次創作宣言キター!
ルナが書いて、マリーが挿絵? この世界でも誕生するの? 薄い本が?!
私達は、その後も腐女子トークを満喫。
やっぱり語り合える戦友がいるってこんなに楽しいんだ!
これからは、三人でカップリング会議や押し活したり……考えるだけでワクワクが止まらない。
……っ、そうだ。
私はマジックバッグから『スマホ』を取り出した。
こっちに来て直ぐに、新着アイコンが消えるのが寂しくて見ていなかったスマホだけれど――
でも今日からは違う。
新しい仲間とコッチの世界の腐活動を始められる。
私はスマホの電源ボタンを長押しして電源を切ると、マジックバッグの奥深くへと優しく仕舞い込んだ。
これからは、ここが私の居場所。
推しを語れる、大切な戦友たちがいる場所。
「ねえ、次はどのカプを深掘りしようか?」
私の言葉に、二人がにこりと笑った。
窓の外では新しい朝が昇り始めていたけど――
私たちの腐女子トーク会は、まだまだ終わりそうにない。
マリーが淹れてくれる、いつものお茶。
いつものテーブルに、いつもの椅子。
テーブルには、花が生けてある。
いつものマリーの作法に、いつもの笑顔。
僅か十日ばかりの外出だったけれど、初めての外の景色に初めての魔物退治、初めての神との出会い……本当に"初めて"尽くしだったからね。
だからこそ、この穏やかな香りに包まれると、ようやく胸の奥がほっと溶けていく。
ゆっくりとひとくち。
「美味しい……やっと帰って来れたー」
マリーが恥ずかしそうに顔を伏せて微笑んでくれている姿がたまらなく愛おしい。
ルナは、部屋に戻ると何故か女神の姿に戻っていた。何で? 貴女は犬になっとこうね?
ルナが私の顔をじーっとみてくる。
「あかりよ、あかり、あかりさん。貴女は何か忘れてはいませんか?」
お茶を飲みながら「ん~?」と考えるけど、何も分からない? 何か忘れていましたっけ?
「っけ? じゃないわよ! 本よ! 本! あの本の続きが読みたくて私は下界に降りてきたのよ!」
あーっ! そうでした、そして帰れなくなったのでしたね。
「くっ……と、とにかく……本が読みたいの……お願い」
急にしおらしくなった腐女神が可愛すぎて、思わずニヤけてしまう。
仕方ないなぁ。
『ガマぐちポシェットくん』に手を入れて、あの本の続きを取り出す。
「はい、『婚約破棄された転生侯爵令嬢が、腐女子拗らせて王子と王子を全力でカップリングします』第二巻」
「これこれ~♪」
腐女神は早速本を抱えてベッドにダイブ。
そのままページをめくる音だけが部屋に響き、完全に無言モードに突入した。
ベッドの上の腐女神から顔を上げると、マリーと目があった。
「何? マリーも何か欲しいものある?」
マリーはハッとして顔を赤らめ、指をもじもじ……。
おや?
「あの、大変申し上げ難いのですが……先日、あかり様がお忘れになっていた御本を、勝手に読んでしまいました! 申し訳ありません」
そう言って頭を下げる。
「謝らなくて大丈夫よ、あれはマリーに読んで欲しくてわざと置いていったのだから……あれの続き、読む?」
マリーは初めて会った時のように、小さくコクンと頷いた。
きた~、きたよマリーちゃん! 沼へようこそ!
内心でガッツポーズを決めながら、心の中で歓迎会の花火を打ち上げる。
「嬉しい……本当に嬉しいよ、マリー」
マリーちゃんが、私が遠征に出ている間、ずっとあの本を読んでくれていた事。
私の気持ちに気づいて胸を熱くしてくれた事などをポツポツと話してくれた。
これよこれ! 同じ界隈の戦友と語り合うこの時間!
私に足りなかったのは推しカプを語り合えるこの腐の時間だったのよ!
考えたらずっと一人だったんだもの。
何度も騎士団の人達見て一人で脳内補完してた頃は、何かが足りないってずっと思ってた。
そう、腐を分かち合える仲間がいなかったんだ。
私は、寂しかったんだ……!
「う、うううううーっ」
マリーちゃんが慌ててハンカチを差し出してくれる。
ルナ様も起き上がって肩を抱いて慰めてくれた。
泣きじゃくる私を二人で慰めながら、その夜は朝まで――本当に朝まで――推しカプを語り明かした。
「マリーは誰推しなの?」
「まだ、推し? がハッキリわからないのですが……カイルが時々アルを見つめる視線や、同じ同僚と話している時に感じている嫉妬と言うか感情が、アルを愛しているのだなあ、と好ましく思います」
「そうそう! それが尊いと言う感情ね。
そして何より、アルの方がずっとカイルを愛しているって言うのが良いのよねー。
お互いに愛している気持ちはあるのに、それが小出しにされてるのが最高に悶える!」
「あの……実は……」
マリーがそっと文箱から数枚の紙を取り出してきた。
「えっ? なに――」
受け取って目にした瞬間――
私は手にしたお茶のカップを落としそうになった。
だって……。
「えっ……これ……って、マリーが?」
「はい、あの本の挿絵のようには描けませんが、どうしても私も手が止められなくて」
そこには、本の中のキャラと言うより現実の「アルバラード xカイル」を思わせる二人がいた。
訓練後にタオルを差し出すカイル。
少し離れた場所からアルを見つめるカイル。
ただ並んで歩くだけの、でも確かに愛の重さを感じる二人の横顔。
マリーの描きたい"愛"が確かにそこにあった。
「凄いわマリー! 貴女こんな才能があったのね!」
横から覗き込んでいたルナが目を輝かせて叫ぶ!
「貴女……やるわね、こうなったら私も負けてられないわ!
この胸に渦巻く無限の妄想を、今すぐ文字にする!
私の脳内にある物語を、貴女達にも読ませてあげるわよ!」
女神からまさかの二次創作宣言キター!
ルナが書いて、マリーが挿絵? この世界でも誕生するの? 薄い本が?!
私達は、その後も腐女子トークを満喫。
やっぱり語り合える戦友がいるってこんなに楽しいんだ!
これからは、三人でカップリング会議や押し活したり……考えるだけでワクワクが止まらない。
……っ、そうだ。
私はマジックバッグから『スマホ』を取り出した。
こっちに来て直ぐに、新着アイコンが消えるのが寂しくて見ていなかったスマホだけれど――
でも今日からは違う。
新しい仲間とコッチの世界の腐活動を始められる。
私はスマホの電源ボタンを長押しして電源を切ると、マジックバッグの奥深くへと優しく仕舞い込んだ。
これからは、ここが私の居場所。
推しを語れる、大切な戦友たちがいる場所。
「ねえ、次はどのカプを深掘りしようか?」
私の言葉に、二人がにこりと笑った。
窓の外では新しい朝が昇り始めていたけど――
私たちの腐女子トーク会は、まだまだ終わりそうにない。
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