腐女子剣聖のBL妄想騎士団

カジキカジキ

文字の大きさ
40 / 43

帝国 x ノルトルンド x アースガルド

しおりを挟む
 パットン卿の屋敷まで移動し、私達はやっとひと息つく事ができた。

 ここまでずっと緊張していたので、疲れがどっと押し寄せる。

「それで……そちらの方々はご紹介頂けるので?」

 パットン卿の言葉に、それぞれがフードを取り顔を見せる。

「初めましてパットン・ノーストリア伯爵。ノルトルンドの第二王子、アポカリオン・エボルス・ノルトルンドです」

 パットン卿の顔が驚きに変わる。

「アースガルドの第一王子、エルヴァシア・アルバス・アースガルド」

 続いて私も名乗る。
 
「まどのあかり『剣聖』……です」

 パットン卿の顔は、驚きを通り越して虚無の顔になっていた。

「姫様は……本気なのですな……」

 パットン卿の言葉に黙って頷くリリアーナ。

 張り詰めた空気の中、可愛らしい音が室内に響いた――
 
 くうぅ。

「姫様……」

 リリアーナが顔を真っ赤に染める。

「せっかく火が使えるのだし、お昼にしましょうか」

 ここまでの旅程では、帝国の兵士に見つからないように極力火を使う事を控えていたので、ここであれば安心して火が使えると思ったのだけれど……。

「かまどで火は使えますが、食材が殆どありません。
 お出しできるのは堅パンに、保存していた酢漬けと……貧乏麦くらいしか……」
 
「貧乏麦?」

 聞きなれない名前に私が反応すると、パットン卿が説明してくれた。
 
 この国どこにでも生えている雑草のような植物で、麦に似た実はつくけれど味が悪く普段は誰も口にしない。
 飢饉の時や、よほど貧乏な者しか手を出さないため「貧乏麦」「最後の麦」とも呼ばれているものでした。

 貧乏麦か……。

 それでも何か引っかかる気がして、食料庫に案内してもらい中へ入ると、ほとんど空の倉庫の端に埃をかぶった袋が山積みになっていた。
 恐々と一つの袋を開けて中の貧乏麦を手にして確かめる。
 
 籾殻がついたままの粒。

 籾殻を指で捻って、中身を取り出す。

 ――っ! これ、お米?

 まさか……まさか、ね……。

 許可を貰って袋を一つ、調理場まで運ぶ。

 両手いっぱい程の籾殻付きの稲、両手で擦り合わせて籾殻を取ると大きな瓶に米粒を入れ、棒で突いて糠を落とす。
 
 昔、田舎の祖母から教わった方法だ。
 手が痛くなるほど突き続け、ようやく白っぽい米が現れた。
 
 次に、鍋で水洗い。
 土や埃を丁寧に落とす。
 そして、適量の水を加えて火にかける。
 
「初めチョロチョロ、中パッパ。赤子泣いても蓋取るな」日本の米炊きの呪文を呟きながら、火加減を調整した。
 
 薪の火がパチパチと音を立て、部屋に甘い香りが広がり始める。
 
 やがて、蓋を開けた瞬間――。

「おおーっ! 米だ! 本物のご飯だ!」

 湯気が立ち上り、ふっくらとした白米が輝いていた。
 
 涙が自然と溢れてきた。
 
 この異世界で、こんな奇跡が起こるなんて。
 
 私は構わず一口頬張った。
 懐かしい味。

 不味いと言われる貧乏麦を頬張って涙する私を、不思議な目でみるみんな。

「あかり? もしかしてそれが米なのか?」

 アルバス王子には米のことを話していたので、涙する私を見てそうだと思ったらしい。

「そうです! お米! こんな所にあったなんて!
 それに、これだけあれば皆が食べる分までまかなえるかも!」

 とりあえず炊き上がったご飯を小さめのおにぎりにして皆に配る。
 
 味付けは塩のみ。

 皆が恐々と食べる中、私はおにぎりをひと口食べると涙腺崩壊――

 床に座りこんで大泣きする私を、オロオロしながら介抱してくれるマリーとリリアーナ。

「お母さん! お母さん! みんな……」

 これまで意識しないようにしていた思いが一気に溢れた。

 日本での生活が、思い出が、懐かしい塩おにぎりの味で嫌でも思い出される。

 ・
 ・
 ・

 どのくらい泣いていたのだろう。

 肩を抱いてくれていたマリーの手。

 心配そうに覗き込むリリアーナ。

 いつの間にか姿を表していたルナ。

 男の人たちは少し離れた場所で見ていてくれた。

「ごめんね、ありがと。もう大丈夫」

 マリーがハンカチで涙を拭いてくれる。

 私はこの世界でも心配してくれる友達がいる。

 腐女子を楽しんでくれる仲間がいる。

 笑顔で話せる相手がいる。

 日本に帰れるか分からないけれど、今はこの世界をもう少しだけ見てみよう。

 せっかくここまで来たのだし、お米も見つけた。

 次は、皇帝に会ってギタギタにしてやるんだから!

「よし! 戦の前に腹ごしらえだ!」

 男の人達にはお米を白米にしてもらう。

 マジックバッグからジャガイモ、ニンジン、玉ねぎと肉、それと今回は……。

  横濱舶来亭 + グリコ ZEPPIN

 深いコクと強い香り、スパイシーさがカレー本来の美味さを醸し出します(byりゅ◯じ)

 黒い箱をみてルナの口からヨダレが……。

 ルナはこの組み合わせ好きだものね。

 玉ねぎを炒め、ジャガイモとニンジンが色が変わるまで炒めたら肉を投入――ジュワッと脂が焼ける音と匂いが部屋を包む。

 パットン卿や屋敷の使用人達は、この時点でお腹がぐーぐー鳴っている。

 もう少し待って下さいね、最後にもうひと押しありますから。

 肉に焼け色が付いたら、沸かしていた湯を入れてアクを取りながら丁寧に煮込む。

 ジャガイモやニンジンが十分に柔らかくなったところで。

 カレールウの投入――

「はっ!?」

 一瞬、気を失ったかと思うほどの暴力的な香りが部屋中を満たす。
 
 そこにいた人達の鼻腔から脳を直撃、彼らはいったい何の夢を見たのだろうか……。

 炊き上がったご飯にカレーをよそい。

「いただきます!」
 
 はぁ……これこれ!

 気がつくと、皆はまだ立ったまま私を見ていた。
 
「は、早く食べないと冷めちゃうよ! みんな、座って座って!」私が促すと、ようやく皆が我に返ったようにテーブルに着く。

 白いご飯の上に、トロトロの野菜と肉が絡んだカレー。

 スプーンを口に運んだ瞬間――。

「…………っ!!」

 パットン卿の目が見開かれる。

「こ、これは……何という味わいだ……! この辛味、しかし優しくコク深く……肉の旨味と野菜の甘みが……!」

 使用人たちも次々と声を上げる。

「伯爵様! こんな美味しいものは生まれて初めてです!」
 
「貧乏麦が……こんなにふっくらと……美味しくなるなんて……!」

 アルバス王子は無言で二杯目をよそい始め、エボルス王子も「貧乏麦……これが我が国でも育てられたら」と本気で呟いている。

 リリアーナ嬢は頰を赤らめながら、小さく「お、お代わり……」と手を挙げ、マリーは目をキラキラさせて「これがあかり様が言っていた本当のカレーの味なんですね! すごい、すごいです!」と興奮気味。

 ルナはもう皿を舐め回す勢いで平らげて、私の皿を狙っている。

 全員がカレーを食べ終え、未だ夢醒めぬまどろみの中。

 貧乏麦は何処にでも生える雑草だと言っていた。

 これをしっかり管理した畑、出来れば田んぼを作って育てる事が出来れば。

 この国の独自の作物、新しい産業として持っていければ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜が明けなければいいのに(洋風)

万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。 しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。 そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。 長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。 「名誉ある生贄」。 それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。 部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。 黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。 本当は、別れが怖くてたまらない。 けれど、その弱さを見せることができない。 「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」 心にもない言葉を吐き捨てる。 カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。 だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。 「……おめでとうございます、殿下」 恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。 その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。 ――おめでとうなんて、言わないでほしかった。 ――本当は、行きたくなんてないのに。 和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。 お楽しみいただければ幸いです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

祖国に棄てられた少年は賢者に愛される

結衣可
BL
 祖国に棄てられた少年――ユリアン。  彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。  その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。  絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。  誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。   棄てられた少年と、孤独な賢者。  陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。

【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……?     光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。  攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...