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quaecunque sunt vera
undeviginti
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荷物を入れた鞄を手に持つと、斎から渡された鍵を見る。今日は、もう少しだけ一緒にいられる。そう思うと嬉しくて、手の中の鍵を、宝物を扱うかのようにそっと握り締めた。
上機嫌で玄関へ向かい、外へ出る。すぐに、玄関前に立ち尽くすまだ若い女性の姿が目に入った。誰か生徒の父兄だろうかと考え、そのまま足を踏み出す。あまり女性を見つめては失礼かと思い、なるべくその姿を見ないように軽く頭を下げると、その横を通り過ぎた。
駐車場には、斎の車を含めてすでに三台しかなく、大半の教師がすでに帰宅したことを物語っていた。
キーレスのボタンを押し、斎の車の鍵を開ける。助手席のドアを開けると煙草の香りが広がり、天弥を包み込む。
助手席に乗り込み、鞄を足元へと置くと、斎が来る方向に視線を向け見つめた。狭いフロントガラスは視界が悪く、辺りの様子を見渡せる訳ではなかったが、斎の姿を見つけられさえすれば十分なものであった。
ゆっくりと運転席へ向かって手を伸ばした。狭い車内は、お互いの体温や鼓動が分かるのではと思うぐらい、距離が近い。後輪駆動式、いわゆるFR車のため、運転席と助手席の間には隔たりがあるが、お互いの距離が気になるほどでもなかった。
伸ばした手を下ろし、シフトノブに触れる。本当はハンドルに触れたかったが、一度ロックを掛けてしまった事があり、それからは触れない事にした。
斎の事を考えながら外を見ていると、待ちわびたその姿が見え、急いで車外へと飛び出した。
近づいてくる斎に向かって走り出す。それに気がついた斎の足も速まる。
「待ったか?」
お互いの距離が無くなると足を止め、斎が尋ねた。同じく足を止め、すぐに天弥は首を横に振り答える。
「それじゃあ、少しドライブでもして帰るか」
その言葉を合図に、二人は車へと向かって歩き出した。天弥が、手にした鍵を斎に向かって差し出したとたん、強い風が渦巻き辺りの土や小石を巻き上げた。
斎は上半身を屈め、天弥を庇うように腕を上げた。天弥は辺りを見回す。風が吹いているのは分かる。木々が揺れ、土埃が舞い、斎も風に煽られている。だが、天弥は何も感じなかった。天弥だけ、辺りとは切り離されたかのように、風一つない穏やかな状態であった。
天弥は、視線の先に人影を捉えた。遠目ではあるが、女性だということが分かる。それは、先ほど玄関ですれ違った相手の姿だった。
「天弥、大丈夫か?」
視線を斎の元へ戻したとたん、風が止んだ。慌てて先ほどの女性がいた場所へ視線を向けたが、そこにはもう、その姿は無かった。
「天弥?」
何もない場所を見つめる天弥を不思議に思い、呼びかける。
「え?」
斎の声に反応し、天弥は再びその姿を視界に収める。
「どうかしたか?」
「あ、いえ……。凄い風でびっくりしちゃって……」
先ほどの強風が嘘のように、辺りは穏やかで微かにそよぐ風を感じるだけだった。
笑顔を自分に向ける天弥を見て、斎は不安に駆られる。昨夜の事も、風絡みだった。急速な不安に駆られ、天弥の腕を掴み車へと向かって歩き出す。腕を引かれ、天弥もその後に続く。
「先生?」
上機嫌で玄関へ向かい、外へ出る。すぐに、玄関前に立ち尽くすまだ若い女性の姿が目に入った。誰か生徒の父兄だろうかと考え、そのまま足を踏み出す。あまり女性を見つめては失礼かと思い、なるべくその姿を見ないように軽く頭を下げると、その横を通り過ぎた。
駐車場には、斎の車を含めてすでに三台しかなく、大半の教師がすでに帰宅したことを物語っていた。
キーレスのボタンを押し、斎の車の鍵を開ける。助手席のドアを開けると煙草の香りが広がり、天弥を包み込む。
助手席に乗り込み、鞄を足元へと置くと、斎が来る方向に視線を向け見つめた。狭いフロントガラスは視界が悪く、辺りの様子を見渡せる訳ではなかったが、斎の姿を見つけられさえすれば十分なものであった。
ゆっくりと運転席へ向かって手を伸ばした。狭い車内は、お互いの体温や鼓動が分かるのではと思うぐらい、距離が近い。後輪駆動式、いわゆるFR車のため、運転席と助手席の間には隔たりがあるが、お互いの距離が気になるほどでもなかった。
伸ばした手を下ろし、シフトノブに触れる。本当はハンドルに触れたかったが、一度ロックを掛けてしまった事があり、それからは触れない事にした。
斎の事を考えながら外を見ていると、待ちわびたその姿が見え、急いで車外へと飛び出した。
近づいてくる斎に向かって走り出す。それに気がついた斎の足も速まる。
「待ったか?」
お互いの距離が無くなると足を止め、斎が尋ねた。同じく足を止め、すぐに天弥は首を横に振り答える。
「それじゃあ、少しドライブでもして帰るか」
その言葉を合図に、二人は車へと向かって歩き出した。天弥が、手にした鍵を斎に向かって差し出したとたん、強い風が渦巻き辺りの土や小石を巻き上げた。
斎は上半身を屈め、天弥を庇うように腕を上げた。天弥は辺りを見回す。風が吹いているのは分かる。木々が揺れ、土埃が舞い、斎も風に煽られている。だが、天弥は何も感じなかった。天弥だけ、辺りとは切り離されたかのように、風一つない穏やかな状態であった。
天弥は、視線の先に人影を捉えた。遠目ではあるが、女性だということが分かる。それは、先ほど玄関ですれ違った相手の姿だった。
「天弥、大丈夫か?」
視線を斎の元へ戻したとたん、風が止んだ。慌てて先ほどの女性がいた場所へ視線を向けたが、そこにはもう、その姿は無かった。
「天弥?」
何もない場所を見つめる天弥を不思議に思い、呼びかける。
「え?」
斎の声に反応し、天弥は再びその姿を視界に収める。
「どうかしたか?」
「あ、いえ……。凄い風でびっくりしちゃって……」
先ほどの強風が嘘のように、辺りは穏やかで微かにそよぐ風を感じるだけだった。
笑顔を自分に向ける天弥を見て、斎は不安に駆られる。昨夜の事も、風絡みだった。急速な不安に駆られ、天弥の腕を掴み車へと向かって歩き出す。腕を引かれ、天弥もその後に続く。
「先生?」
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