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斎は、天弥の言葉に掴んでいたその腕を振り払った。
「何を言ってるんだ? お前が、俺を捨てたんだろ!」
耳を疑うような言葉に、天弥は驚倒する。
「なんで? 僕、先生の事が好きなのに……」
無言で自分へと視線を向ける斎を見ながら、絶対にそんな事は有り得ないと思う。斎に捨てられる事はあっても、自ら斎を手放す事などあるはずがない。
「僕、先生が好きです。お願いです。信じてください」
その言葉に斎は、手を伸ばし天弥の顎を掴むと、ジッと目の前の美しい顔に視線を向ける。
「なら、今すぐ俺のものになるか?」
天弥は、真っ直ぐに迷いのない瞳を向け、ゆっくりと口を開いた。
「はい」
何のためらいもない返事を聞くと、斎はメガネを外した。天弥の顎を掴んでいた手がその頬へと移動すると、その形の良い唇に激しく貪るように、自らの唇を重ねた。すぐに、天弥の腕が斎の身体へと回される。
斎の腕が天弥の身体に回され、きつく抱きしめた。唇は何度も重ね合わされ、深く、激しく、角度を変えてはお互いを求めあう。
天弥は、何の迷いもためらいもなく斎を好きだと言った。あの時、自分を見限りサイラスを選んだのだと思っていた。
息も出来ぬほど、きつく抱きしめられているせいなのか、激しい口付けによる快楽のせいなのか、天弥の意識が濁りだす。斎の背中に回された手が、崩れ落ちる身体を支えようと必死にすがりつく。
唇が離れると、天弥は斎の胸に顔を埋めた。斎は天弥の総てを抱え込むかのように抱きしめる。
斎にとっての総ては天弥なのだと、嫌というほど思い知った。悋気というものも、初めて知った。とにかくあの場所に居たくなくて、あの二人を見ていたくなくて、どこでも良いから逃げ出すように車を走らせた。気がついたら、列島を横断する高速道の、全長十一キロ弱というトンネルの中だった。
よく、そこまで無事に走ったものだと、今更ながら少し慄然とする。それに、その地点にたどり着くまで、自動速度違反取締装置、通称オービスが二ヶ所にあったと記憶している。下手をしたら一発で免停ということもありえる。だがそれは、自業自得なので仕方がないと思う。
「天弥」
いつもと変わらぬ声音で名を呼ばれ、天弥は斎の顔を見上げた。すぐに唇が重ねられ、天弥は目を閉じる。今度は、先程とは違い優しい口付けだった。
片道、約三百キロ、往復で約六百キロを走る間、斎の中には天弥しかなかった。家にたどり着いた時、すでに日付は変わっており身も心も疲労を抱えていた。
ガレージに車を停め玄関へと向かう途中、身を隠すように小さくなっている天弥の姿を見つけた。すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られたが、自分は天弥に見限られたのだと思いとどまった。
「先生、好きです」
唇が離れると天弥は、斎を見つめ自分の想いを告げる。
「俺もだ」
斎の言葉を聞き、天弥は嬉しそうに微笑んだ。斎はメガネをかけると腕時計に視線をやり、時間を確認する。日付が変わってから二時間以上が経過していた。
「もう晩いから、家まで送る」
「何を言ってるんだ? お前が、俺を捨てたんだろ!」
耳を疑うような言葉に、天弥は驚倒する。
「なんで? 僕、先生の事が好きなのに……」
無言で自分へと視線を向ける斎を見ながら、絶対にそんな事は有り得ないと思う。斎に捨てられる事はあっても、自ら斎を手放す事などあるはずがない。
「僕、先生が好きです。お願いです。信じてください」
その言葉に斎は、手を伸ばし天弥の顎を掴むと、ジッと目の前の美しい顔に視線を向ける。
「なら、今すぐ俺のものになるか?」
天弥は、真っ直ぐに迷いのない瞳を向け、ゆっくりと口を開いた。
「はい」
何のためらいもない返事を聞くと、斎はメガネを外した。天弥の顎を掴んでいた手がその頬へと移動すると、その形の良い唇に激しく貪るように、自らの唇を重ねた。すぐに、天弥の腕が斎の身体へと回される。
斎の腕が天弥の身体に回され、きつく抱きしめた。唇は何度も重ね合わされ、深く、激しく、角度を変えてはお互いを求めあう。
天弥は、何の迷いもためらいもなく斎を好きだと言った。あの時、自分を見限りサイラスを選んだのだと思っていた。
息も出来ぬほど、きつく抱きしめられているせいなのか、激しい口付けによる快楽のせいなのか、天弥の意識が濁りだす。斎の背中に回された手が、崩れ落ちる身体を支えようと必死にすがりつく。
唇が離れると、天弥は斎の胸に顔を埋めた。斎は天弥の総てを抱え込むかのように抱きしめる。
斎にとっての総ては天弥なのだと、嫌というほど思い知った。悋気というものも、初めて知った。とにかくあの場所に居たくなくて、あの二人を見ていたくなくて、どこでも良いから逃げ出すように車を走らせた。気がついたら、列島を横断する高速道の、全長十一キロ弱というトンネルの中だった。
よく、そこまで無事に走ったものだと、今更ながら少し慄然とする。それに、その地点にたどり着くまで、自動速度違反取締装置、通称オービスが二ヶ所にあったと記憶している。下手をしたら一発で免停ということもありえる。だがそれは、自業自得なので仕方がないと思う。
「天弥」
いつもと変わらぬ声音で名を呼ばれ、天弥は斎の顔を見上げた。すぐに唇が重ねられ、天弥は目を閉じる。今度は、先程とは違い優しい口付けだった。
片道、約三百キロ、往復で約六百キロを走る間、斎の中には天弥しかなかった。家にたどり着いた時、すでに日付は変わっており身も心も疲労を抱えていた。
ガレージに車を停め玄関へと向かう途中、身を隠すように小さくなっている天弥の姿を見つけた。すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られたが、自分は天弥に見限られたのだと思いとどまった。
「先生、好きです」
唇が離れると天弥は、斎を見つめ自分の想いを告げる。
「俺もだ」
斎の言葉を聞き、天弥は嬉しそうに微笑んだ。斎はメガネをかけると腕時計に視線をやり、時間を確認する。日付が変わってから二時間以上が経過していた。
「もう晩いから、家まで送る」
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