110 / 236
nosce te ipsum
tres
しおりを挟む
そう言うと、天弥を抱きしめている斎の腕が緩んだ。
「先生?」
小首を傾げ自分を見つめる天弥の髪を、優しく撫でた。
「ちゃんと寝て、起きたら連絡しろ。すぐに迎えに行くから」
天弥は、斎の言葉に頷いた。斎の身体から天弥の腕が離れる。すぐに斎はその手を取り、しっかりと繋ぐ。
冷静になって考えてみれば、天弥とサイラスは話をしていただけだ。何かの情報を欲して、サイラスと接触したのかもしれない。自分を見限るようなことを、何か言われたわけでもない。だが、サイラスの表情が斎の中で不安要素として引っかかる。
繋いだ手を引かれ歩き出すと、天弥は斎の顔を見上げた。改めて、記憶が無い間、自分が何をしているのか不安になる。斎に何をしたのか、何を言ったのか激しく知りたいと思う。斎は、天弥に捨てられたと言っていた。事の真相を聞きたいと思うが、再び怒らせる事になるのではと思い、口を閉ざす。
いつか、こんな自分に厭きれてしまうのかもしれない。そう思うと天弥の中に不安が広がり、繋いだ手に力が入る。すぐに斎の視線が天弥へと向けられた。少し足を速め、天弥は斎に寄り添う。それを確認すると斎は、視線を前方へと戻した。
天弥の家に近づく度に、二人の歩く速度が無意識に鈍りだす。少しでも長く一緒に居たいと二人は同じ願いを持つ。だが時の流れを止めることなど出来ず、目的地へとたどり着いてしまう。
天弥は思わず足を止めた。繋いだ手が引かれ、斎も同じく足を止める。こんな事をしても無駄だという事は、理解している。それでも、ほんの少しでも長く一緒に居たいと思ったのだ。
「先生……」
天弥は斎の顔を見上げた。そしてどうすれば、ずっと一緒に斎と居られるのかと考える。
「どうした?」
斎の問いに、天弥はその繋いだ手を離すと抱きついた。
「天弥?」
強く抱きつく天弥の身体を、斎は抱きしめる。
「どうすれば、ずっと先生と一緒に居られるんですか……?」
天弥は自分の望みを口にする。
「今のままじゃ、嫌か?」
天弥はそれに答えることが出来ずに、ただ斎を見つめる。自分達の関係が、回りに理解されない事は知っている。法的に認められる事も無い。
「天弥はどうしたい?」
答えを返さない天弥に、さらに斎が問いかける。
「どうって?」
質問の意図が分からず、天弥は考え込む。
「ただ一緒に居たいだけなのか、それ以上を望むのかだ」
更なる言葉の意味が分からず、天弥は戸惑いの視線を向ける。
「俺はそれ以上を望んでいるから、どっちにしても天弥に選択権は無いけどな」
斎が少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「それって、どういう事なんですか?」
不思議そうに自分を見つめる天弥に、斎は軽く口付けた。だが、メガネが邪魔になり、すぐに唇を離す。
「天弥は俺のものだって事だ」
天弥が嬉しそうに笑みを浮かべる。それを見て、このままでは帰せなくなりそうで、その身体に回した腕を下ろす。
「晩くなるから、もう家に入れ」
その言葉に天弥は顔を伏せ、斎の身体に回した腕にさらに力を込める。
「天弥」
天弥は顔を上げ、腕を下ろした。
「おやすみなさい……」
就寝の挨拶を告げると、天弥は玄関へと向かう。
「おやすみ」
「先生?」
小首を傾げ自分を見つめる天弥の髪を、優しく撫でた。
「ちゃんと寝て、起きたら連絡しろ。すぐに迎えに行くから」
天弥は、斎の言葉に頷いた。斎の身体から天弥の腕が離れる。すぐに斎はその手を取り、しっかりと繋ぐ。
冷静になって考えてみれば、天弥とサイラスは話をしていただけだ。何かの情報を欲して、サイラスと接触したのかもしれない。自分を見限るようなことを、何か言われたわけでもない。だが、サイラスの表情が斎の中で不安要素として引っかかる。
繋いだ手を引かれ歩き出すと、天弥は斎の顔を見上げた。改めて、記憶が無い間、自分が何をしているのか不安になる。斎に何をしたのか、何を言ったのか激しく知りたいと思う。斎は、天弥に捨てられたと言っていた。事の真相を聞きたいと思うが、再び怒らせる事になるのではと思い、口を閉ざす。
いつか、こんな自分に厭きれてしまうのかもしれない。そう思うと天弥の中に不安が広がり、繋いだ手に力が入る。すぐに斎の視線が天弥へと向けられた。少し足を速め、天弥は斎に寄り添う。それを確認すると斎は、視線を前方へと戻した。
天弥の家に近づく度に、二人の歩く速度が無意識に鈍りだす。少しでも長く一緒に居たいと二人は同じ願いを持つ。だが時の流れを止めることなど出来ず、目的地へとたどり着いてしまう。
天弥は思わず足を止めた。繋いだ手が引かれ、斎も同じく足を止める。こんな事をしても無駄だという事は、理解している。それでも、ほんの少しでも長く一緒に居たいと思ったのだ。
「先生……」
天弥は斎の顔を見上げた。そしてどうすれば、ずっと一緒に斎と居られるのかと考える。
「どうした?」
斎の問いに、天弥はその繋いだ手を離すと抱きついた。
「天弥?」
強く抱きつく天弥の身体を、斎は抱きしめる。
「どうすれば、ずっと先生と一緒に居られるんですか……?」
天弥は自分の望みを口にする。
「今のままじゃ、嫌か?」
天弥はそれに答えることが出来ずに、ただ斎を見つめる。自分達の関係が、回りに理解されない事は知っている。法的に認められる事も無い。
「天弥はどうしたい?」
答えを返さない天弥に、さらに斎が問いかける。
「どうって?」
質問の意図が分からず、天弥は考え込む。
「ただ一緒に居たいだけなのか、それ以上を望むのかだ」
更なる言葉の意味が分からず、天弥は戸惑いの視線を向ける。
「俺はそれ以上を望んでいるから、どっちにしても天弥に選択権は無いけどな」
斎が少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「それって、どういう事なんですか?」
不思議そうに自分を見つめる天弥に、斎は軽く口付けた。だが、メガネが邪魔になり、すぐに唇を離す。
「天弥は俺のものだって事だ」
天弥が嬉しそうに笑みを浮かべる。それを見て、このままでは帰せなくなりそうで、その身体に回した腕を下ろす。
「晩くなるから、もう家に入れ」
その言葉に天弥は顔を伏せ、斎の身体に回した腕にさらに力を込める。
「天弥」
天弥は顔を上げ、腕を下ろした。
「おやすみなさい……」
就寝の挨拶を告げると、天弥は玄関へと向かう。
「おやすみ」
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる