ゲーム世界のキャンセラー~不遇なキャンセルスキルが実はあらゆるものをキャンセル出来る万能スキルだった件~

空地大乃

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第40話 罠

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「まさか落とし穴に引っかかるなんてな……メリッサ大丈夫かい?」
「は、はい、その、少し恥ずかしいですが……」
「あ、ごめん」

 ヒットはメリッサを地面に下ろした。穴に落ちた時、ヒットは咄嗟にメリッサを抱きかかえ、お姫様抱っこをするような状態になったのだ。
  
 そのまま着地したわけだが、やはりこういう行為はあまり好ましく思われないのかもしれないと少し反省するヒットだが。

「そんな、謝らないでください。私を守ろうとしてくれたんだし、それに、普通に嬉しかったので……」
「メリッサ、声を潜めて」
「え?」

 最後の言葉が耳に届く前に、ヒットは周囲の異様さに気がついた。そもそもこの落とし穴にしてもそれだけで2人にダメージを与えるようなものではなかった。

 そこから推測するなら、落とし穴は下の階層に導く為の罠だったと考えるべきだ。尤も導くと言ってもいい意味ではなく、そして現れた連中からすれば良い餌を得るためのものなのだろう。

 その証拠に大量の掛けてくる足音が聞こえてきている。それが近づいてくるのが見えた時にはもう遅かった。みるみるうちに大量のゴブリンが周囲に集まりだす。

「ヤバいな、どうやらモンスターハウス的な場所に導く罠だったようだ」
「え? モンスターハウス?」

 モンスターハウスはヒットのいた世界のゲーム用語だがこの世界では通じなかったようだ。
 ある特定の場所にモンスターここでは魔物となるがそういった敵が大量に配置されている状況のことだ。

 この状況はまさにそれと言えるだろう。

「ゴブリン、ゴブリンシャーマン、それにホブゴブリン……全部で50体はいるな。しかも一際大きいのが奥にも」
「た、大変ヒット! あの大きいのはゴブリンロードだよ! こんなの、普通は大規模な討伐依頼クラスな筈……」

 メリッサが鑑定してくれたようだ。ゴブリンロードはいわゆるゴブリンの親玉だ。ゴブリンの最上位で当然ホブゴブリンやシャーマンよりも遥かに手強い。

 それはメリッサの様子からもよくわかった。声も震えているし瞳も小刻みに揺れていた。

「「「「「ギャギャッ! ギャッ!」」」」」

 ゴブリン共がわめき出した。歓喜の声にも思えるが、非常に耳障りだ。
 正直逃げられるものなら逃げ出したいが、数が多く逃げ道も完全に防がれている。ゴブリンには弓持ちもいる。そう簡単に逃げ出せる状態じゃないだろう。

 そうなるとここにいるゴブリン共を倒すしかないということになるが多勢に無勢が過ぎる。ヒットにしてもメリッサにしても、大量の敵を相手にするような技や魔法を持ち合わせてはいない。

「ヒット……」
 
 メリッサが不安そうにヒットに寄り添ってきた。思わずした行動なのだろう。多くのゴブリンの視線はメリッサに向けられていた。

 おそらくヒットなど眼中にはなく、排除すべき害虫程度にしか思われていないだろう。この状況でもし破れた場合、メリッサがどうなるかなど火を見るより明らかだった。

 ヒットはここでやられるわけにはいかない。かといって無策で突っ込んでも死に急ぐようなものだ。

 ただ、ヒットには1つだけ考えがあった。というよりも現状を打破するにはこれしか考えられない。

「メリッサ、鑑定の結果を簡単に教えてもらっても?」
「は、はい」

ゴブリンロード
生命力100%体力100%魔力100%精神力100%
攻B++防B++敏D器E魔H護E 
武術
斧術(5)
武技
パワーアックス(4)暴乱斧(3)
魔法
スキル
皮膚強化(4)威嚇の雄叫び(4)小鬼の統率(5)
称号
生殖狂い、荒ぶりしもの、子鬼の頭領

 メリッサが教えてくれた結果がこれだった。
 確かにロードだけあってかなりの強さだ。しかもスキルや称号の効果で周囲のゴブリンも強化されており統率も取れている。

 だが、手も足も出ないと言える程ではないと考える。敏捷値に関して言えばヒットに分がある。ヒットの作戦を考えればこれは重要だ。

 そしてこの手を狙うには1つだけ問題がある。それを思うと非常に難しい状況だが、四の五の言っている場合でもない。

「メリッサ。この戦いで勝利する方法が一つだけある。確実とは言えないが、しかしおそらくこれしか手がない。だが、そのためにはここで一旦メリッサから俺が離れないといけないし、メリッサには少しの間耐え抜いてもらう必要がある……」

 そう、この作戦はヒットが単独で動かなければ成立しない。だが、それは逆に言えばメリッサがゴブリンの群れの真っ只中に1人取り残されるということでもある。

 これは普通ならありえないとも言える。だが、レリックの店でヒットたちは色々薬も買っておいた。防御力を上げる薬があればメリッサでもそう簡単にやられることはないし、ミラージュドレスの効果で矢では狙われにくい。

 尤もそれでも30秒持たすのが限度と言ったところかもしれない。ヒットは何が何でもそれまでに決着を付ける必要がある。あとはメリッサの意思だ。

「……やります、私耐えきってみせます!」

 ヒットから体を離し、決意の篭った表情で頷いた。正直、この状況でメリッサに単独行動させるのはヒットとしても不安が残る。

 だが、それしか方法がないのだ。ヒットはメリッサに向かって頷き。

「すぐに、決めてやる!」

 そう言い残して地面を蹴った。メリッサはすぐさま防御力を強化する薬を服用する。

 ゴブリンの荒振る声が聞こえた。邪魔者がいなくなったとメリッサに迫るのがわかる。
 
 メリッサはマージクロスボウを連射してゴブリンに抗おうとしている。ウィンドカッターを装填し連射と組み合わせて手数を増やし弾幕で寄せ付けないようにしているようだ。

 そしてヒットはというと、その目はゴブリンロードのみに向けられていた。
 そうヒットの作戦は単純明快であった。真っ先に頭を倒すことである。何故ならこのゴブリンはすべてロードのスキルによって統率が取れている状態だ。

 だが、逆に言えばロードが倒されればスキルの効果が切れて恐慌状態に陥るということでもある。

 だからこそヒットはロードのみに集中する。そして確実に倒すために必要なことがある。ヒットは出ると同時にクリティカクテルを飲んでいた。

 これによりヒットはもう他のゴブリンに攻撃はできない。元々ゴブリンを構う気はない。ゴブリンからヒットに向けられた攻撃は避けるか盾で受け止め、動線を塞ぎそうな相手はキャンセルする。

 意識を集中し、少しのミスも許されない。ゴブリンの攻撃を掻い潜り、淀みなく疾駆した結果、目の前に迫るゴブリンロードの巨体。

『グォオオ――』
「キャンセル!」
「オ?」

 ゴブリンロードが使おうとしたのは威嚇の雄叫びだ。熟練度4な上、実力差のある状態でこれを行使されては間違いなくヒットの意識が飛ぶ。

 だから潰す。ヒットにとって僥倖だったのは、キャンセルしたことで相手が完全に無防備になったこと。

 精神安定薬を一気飲みし、精神力を回復しつつヒットは闘気剣で攻撃力を上げ、そこから挟双剣を行使。様々な武技を覚えているが、一撃の威力が高いのは間違いなくこれだ。熟練度も3と最も高い。

 ヒットの一撃は見事にゴブリンロードのガラ空きになった脇腹を挟み込んだ。相手の動きがヒットより鈍重だったのも幸いした。薬の効果でこの一撃はクリティカルが確定している。

「グォォオオォオオォオオォオ!」

 敵のスキルではない。痛みからくる悲鳴だ。クリティカルヒットは相手の防御力も無視した上で更に大きなダメージを与える。

 だが、これだけでは終わらない。

「キャンセル――からの挟双剣!」
「――ッ!?」

 ゴブリンロードは何が起きたから理解出来てないだろう。おそらく二度目の強烈な痛みを覚えたはずである。あまりのことに声も出ないようだ。

「これで終わりじゃない、キャンセル!」

 そう、しかしこの繰り返しはなおも続く。これはヒットがゲーム内で知った裏技、カウンターキャンセルをクリティカルに置き換えたものだ。

 つまりクリティカルヒットが発動した直後にキャンセルすることで、クリティカルが発生したという事実はキャンセルされることになり、同時に次の攻撃がクリティカルになるという事実だけ残されているのである。

 これを繰り返すことで、ゴブリンロードは連続でクリティカルヒットの挟双剣を喰らい続けることとなり――

「キャンセル挟双剣キャンセル挟双剣キャンセル挟双剣キャンセル――挟双剣!」
 
 後はゴブリンロードにどれだけのクリティカルを決めたら倒れるかだったが――その効果は予想以上に大きかったようである。
 
 とは言え、精神力的にはギリギリだったが――とにかくゴブリンロードは繰り返されるクリティカルヒットの乗ったキャンセル挟双剣に耐えきれず倒れ重苦しい音を耳に残した。

「よしメリッサ!」

 ヒットが振り返る。メリッサはかなりギリギリに思えたが、なんとか近づいてきていたゴブリンを迎え撃っていた。

 その上、ゴブリンロードが死んだことで、スキルの効果がなくなり、その反動でヒットが予想したとおりゴブリン共が恐慌状態に陥った。

 多くのゴブリンが蜘蛛の子を散らすように逃げていき、ホブゴブリンやシャーマンなど一部残っていたのもいたが、動揺は隠しきれず、メリッサと協力し全員打ち倒す。

 こうしてこの危機を乗り越えた2人。メリッサが安堵し、そしてどこか驚きに満ちた表情で口を開いた。

「し、信じられません……本当にゴブリンロードを倒したんですね」
「あぁ、これもレリックの薬のおかげだけどな――」

 そう、これはクリティカクテルの効果によるところが大きい。この魔法薬がなければカウンターキャンセルに頼らざるを得なかったが、それだと与えるダメージが足りなかった可能性が高いのである。

 とは言え、これはあくまで自分たちの生き残りを優先させた方法だ。全体としてみれば逃走したゴブリンの方が多い。

 今後のことを考えたならギルドにもどって残存したゴブリンを討伐するよう求めるべきだろう。ヒットたちだけでは流石に今すぐそこまで乗り出す気にはなれない。

「……さて、問題はこれからだが――」

 ヒットがそうつぶやく。問題、モンスターハウスは乗り切った。ゴブリンに関しては一旦は安心していいだろう。

 では何が問題かと言えば、当然彼らを嵌めたあの連中のことであり。

「……驚いたな。ゴブリンがやたら落ち着かない様子で逃げ回っていたからよもやと思ったが、まさかまだ生きているなんてな」

 そして、その大きな問題は、ヒットたちが考えるまでもなく、向こうから姿を見せてきたのだった――
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