親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

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第四章 モンスターバトル編

第184話 関西弁の子の見立て

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「うおおおっ!」

 チャレンジが始まり中山が気合を込めて伊達に殴りかかる。豪快なストレート、回し蹴り、さらに両腕での抱え込みを狙ったが――そのどれもが空を切った。

 伊達はほんの半歩、あるいはわずかな体のひねりだけで攻撃をかわしていく。観客からは「おおっ!」とどよめきが起き、同時に「当たらねぇ!」という笑い混じりの声も飛んだ。

「むぅぅぅ! この筋肉が通じないだと!?」

 中山が歯を食いしばり、さらに突っ込む。だがやはり当たらない。力はあっても、決定打には遠い。

「ありゃ厳しいなぁ。パワーはあるけど、ぜんぶ空振りや」

 隣で腕を組んでいた眼鏡の少女が、ぽつりと関西訛りで呟いた。

「君、伊達って男を知ってるのか?」

 俺が尋ねると、少女は目を細めて笑う。

「知り合いやないで。うちは神奈っちゅうんや。ただ……やり取り見てたらわかるやろ。あの人、自信あるで」
「自信?」

 愛川が小首を傾げて問い返す。神奈は顎に手を当てて、舞台の上の伊達を指さした。

「理由のひとつは“身代わりの石”やな。あれ、最低でも百万円はする代物やで。時期によってはもっと高いこともある」
「「「「「――えぇっ!?」」」」」

 俺も秋月も、熊谷も愛川も同時に声を上げた。モコたちも驚いたようにこちらを見て「ワン!?」「ピキィ!?」「モグゥ!?」「マァ~!?」「ゴブッ!?」と次々鳴き、観客のざわめきに混じって場を賑わせる。

「ひゃ、百万円!? 一回五千円のチャレンジで!?」
「そんな値段の物を、こんなイベントで?」
「市場でもめったに出回らないし、安くてもそれぐらいや。普通は使うの躊躇するで」

 神奈は肩を竦める。

「けどな、あの人はそれを持ってる上で、まるで気にしてへん顔しとる。つまり――使わんでも済む自信があるっちゅうことや」
「なるほど……そういうことか」

 俺は思わず唸った。秋月も「確かに、それは相当な実力だね」と頷いている。モコは小さく「ワン……」と呟き、ラムは体を震わせながら舞台を凝視していた。まるで伊達の強さを本能的に感じ取っているかのようだ。

 舞台上では制限時間が告げられ、中山はその場に膝をついた。

「くっ……あと一歩だったのに!」
「惜しかったな。だがいい筋肉だったぜ」

 肩で息をする中山。伊達が中山を労い観客からは「惜しい!」と同情混じりの声も飛んでいたが、結果は敗北だ。モグとマールが「モグゥ……」「マァ~……」と心配そうに鳴き、ゴブも小さく手を合わせる仕草をしていた。

「おう、風間!」

 隣で熊谷が俺の肩を叩く。

「次は俺たちの番だ! 一緒に挑もうぜ!」
「えっ……いや、その……」

 熊谷の勢いに押されつつも、俺は苦笑いを浮かべた。

「神奈さんの言う通りなら、やっても無駄かもしれないだろ?」
「確かに厳しそうだけど、ちょっと手合わせしてみたい気も……」

 秋月はさっきの説明を思い返しつつも、チャレンジには興味ありそうだ。

 モコたちも「ワン!」「ピキィ!」と何故かやる気になっている。

 すると神奈がこちらに歩み寄り、モンスターたちを順に見やった。モコもラムもマールもじっと見つめ返し、モグは小さく首を傾げる。ゴブは一歩前に出て、礼儀正しく会釈した。

「……あんた、この子ら全部テイムしてるんやろ?」
「え、まぁ……そうだけど」

 俺が戸惑いながら答えると、神奈は不敵に口元を歪めた。

「ふふ……もしかしたら、勝てるかもしれへんで」
「な、何だって?」

 思わず聞き返す俺。秋月や熊谷も目を丸くして神奈を見つめていた。

「どういう意味だ……?」

 その問いの答えが返ってくる前に、舞台上で次のチャレンジャー募集の声が響いた。
 俺たちは思わず神奈の言葉の続きを待ちながら、その場に立ち尽くす――
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