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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第105話 ホブゴブリンとの遭遇
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健太の知識によって一際大きなゴブリンがホブゴブリンであることがわかった。当然、そのようなモンスターを目にした子どもたちには動揺が走っていた。
「何だか怖いよぉ」
「お家に帰りたい」
「ママ――」
子どもたちの中には涙目になっている子もいた。森下は子どもたちの様子に不味いと思いながらも、それも仕方がないという気持ちもあった。
寧ろこれまでが順調に行き過ぎていた。ゴブリン相手に、何の力も持たない森下と子どもたちだけでここまで無事だったのだから。
勿論これは途中で助けに入ってくれたゴブや、子どもとは思えない程に頼りになる紅葉の力も大きいわけだが、それでもホブゴブリンのような恐ろしい相手を目にしては恐怖を覚えてしまう。それが当たり前だと森下は思っているが、ここで健太が口を開いた。
「ホブゴブリンはきっと僕たちにまだ気がついていない。大丈夫だよそっと逃げればきっと」
この状況でも取り乱さない健太のことを森下は純粋に凄いと思った。健太だけではない紅葉や桜にしても諦めたり嘆いたりといった様子は感じられない。
「皆、心を一つにして、大丈夫だよ。これまでだって上手く言っていたもん」
「うん。とにかくここを離れよう」
「ゴブゥ~」
皆の意見にゴブも賛同していた。やはりあれだけの体格を有するホブゴブリン相手では分が悪いのだろう。巨体な上にホブゴブリンは原始人が持ち歩いていたような棍棒を手にしている。
あんなものを振り回されでもしたら子どもたちなど一溜まりもない。
「皆で一旦引き返すのよ」
森下の合図で全員が後退を始めた。大丈夫よ、上手くいく、と森下は心で言い聞かせた。音を立てず気づかれなければいいだけの話だと。
「キィ!」
だが、甘かった。森下と子どもたちが引き返そうとしたその時、獣の鳴き声が聞こえた。見ると天井にコウモリがぶら下がっていてコチラを見ながら鳴き声を上げていたのだ。
「そんな、ゴブリンだけじゃなかったの?」
「キィキィキィキィキィ!」
『グオォッォォォォォォォォオオオ!』
「「キャァ!」」
更にホブゴブリンが雄叫びを上げると、それに呼応するように天井からコウモリが子どもたちに襲いかかった。しかもホブゴブリンが視線を向けズシズシッと重苦しい足音を立てながら近づいてきた。
「見つかった!」
健太の声で子どもたちが更にパニックに陥った。
「皆落ち着いて!」
「ゴブッ!」
紅葉がコウモリを振り払いながら叫んだ。ゴブもブラックジャックでコウモリを叩き落としている。
どうやらコウモリの戦闘力はそれほど高くないようだ。侵入者を見つける役割の方が大きいのかもしれない。
だが最悪なのはホブゴブリンに気づかれたことだ。その上ホブゴブリンと行動を共にしていたのであろうゴブリンも引き連れている。
「みんな! 石を出して!」
そう叫びつつ、森下はブラックジャックにしていた包を広げ石を手にしてゴブリンに向けて投げつけた。
アレだけの相手ではこちらから近づくわけにはいかない。それならば投石で少しでも怯ませられたらと考えたのだ。
実際ゴブリンはそれで上手くいった。だがホブゴブリンはそうはいかない。近づくその姿はまるで重戦車だ。巨体な分、歩幅も大きいため、見た目よりもスピードがある。
「ゴブッ!」
ゴブがスリングシュートで鉄球を撃った。それはホブゴブリンの額に辺りその動きが一旦止まる。
「効いたの!」
森下が懇願するように叫んだ。だがホブゴブリンは鉄球の当たった額を軽くさすり、ニヤリと口角を吊り上げた。それがどうしたと言わんばかりの挑発的な表情だった。
「ダメ、全然効いてない。こんなのどうするのよ」
森下は逃げるしかないと考えはしたが、子どもたちの足ではとても逃げ切れるとは思えなかった。まして子どもたちは完全にホブゴブリンの圧に呑まれている。
「私が、私が!」
「ダメ! 紅葉ちゃん!」
距離を縮めてくるホブゴブリンに立ち向かったのは紅葉だった。小さいながらもこの中で一番戦えるのは自分だと直感的に思ったのだろう。実際これまでもゴブリン相手に奮闘してきた。
「ハァアアァアア!」
紅葉は手にしたブラックジャックを振った。ホブゴブリンの股間目掛けて――
「‰★‡♂Å仝♯ッ!?」
その一撃は予想以上に効いたようだった。ホブゴブリンは棍棒を手放し股間を押さえ声にならない声を上げる。それはオスならば誰もが恐れる攻撃だった。
「今よ! みんな逃げるのよ」
その隙に森下が子どもたちに指示を出した。だがホブゴブリンは片手で股間を押さえながらも紅葉を睨みつけ、もう片方の手で殴りかかってきた。
「紅葉ちゃん!」
「「キャ~~~~!」」
桜が声を上げ、子どもたちも悲鳴を上げた。幾ら紅葉といえホブゴブリンの拳を受けては無事では済まないだろう。
「ゴブゥゥゥゥ!」
その時、横からゴブが飛びつきホブゴブリンの一撃から紅葉を救った。
「あ、ありがとうゴブちゃん!」
「ゴブゥ~」
「やった凄いよゴブ!」
「ゴブちゃん偉い!」
ホブゴブリンから紅葉を救ったゴブを皆が称えた。ゴブは少し照れくさそうだったが、しかし戦いはまだ終わったわけではない――
「何だか怖いよぉ」
「お家に帰りたい」
「ママ――」
子どもたちの中には涙目になっている子もいた。森下は子どもたちの様子に不味いと思いながらも、それも仕方がないという気持ちもあった。
寧ろこれまでが順調に行き過ぎていた。ゴブリン相手に、何の力も持たない森下と子どもたちだけでここまで無事だったのだから。
勿論これは途中で助けに入ってくれたゴブや、子どもとは思えない程に頼りになる紅葉の力も大きいわけだが、それでもホブゴブリンのような恐ろしい相手を目にしては恐怖を覚えてしまう。それが当たり前だと森下は思っているが、ここで健太が口を開いた。
「ホブゴブリンはきっと僕たちにまだ気がついていない。大丈夫だよそっと逃げればきっと」
この状況でも取り乱さない健太のことを森下は純粋に凄いと思った。健太だけではない紅葉や桜にしても諦めたり嘆いたりといった様子は感じられない。
「皆、心を一つにして、大丈夫だよ。これまでだって上手く言っていたもん」
「うん。とにかくここを離れよう」
「ゴブゥ~」
皆の意見にゴブも賛同していた。やはりあれだけの体格を有するホブゴブリン相手では分が悪いのだろう。巨体な上にホブゴブリンは原始人が持ち歩いていたような棍棒を手にしている。
あんなものを振り回されでもしたら子どもたちなど一溜まりもない。
「皆で一旦引き返すのよ」
森下の合図で全員が後退を始めた。大丈夫よ、上手くいく、と森下は心で言い聞かせた。音を立てず気づかれなければいいだけの話だと。
「キィ!」
だが、甘かった。森下と子どもたちが引き返そうとしたその時、獣の鳴き声が聞こえた。見ると天井にコウモリがぶら下がっていてコチラを見ながら鳴き声を上げていたのだ。
「そんな、ゴブリンだけじゃなかったの?」
「キィキィキィキィキィ!」
『グオォッォォォォォォォォオオオ!』
「「キャァ!」」
更にホブゴブリンが雄叫びを上げると、それに呼応するように天井からコウモリが子どもたちに襲いかかった。しかもホブゴブリンが視線を向けズシズシッと重苦しい足音を立てながら近づいてきた。
「見つかった!」
健太の声で子どもたちが更にパニックに陥った。
「皆落ち着いて!」
「ゴブッ!」
紅葉がコウモリを振り払いながら叫んだ。ゴブもブラックジャックでコウモリを叩き落としている。
どうやらコウモリの戦闘力はそれほど高くないようだ。侵入者を見つける役割の方が大きいのかもしれない。
だが最悪なのはホブゴブリンに気づかれたことだ。その上ホブゴブリンと行動を共にしていたのであろうゴブリンも引き連れている。
「みんな! 石を出して!」
そう叫びつつ、森下はブラックジャックにしていた包を広げ石を手にしてゴブリンに向けて投げつけた。
アレだけの相手ではこちらから近づくわけにはいかない。それならば投石で少しでも怯ませられたらと考えたのだ。
実際ゴブリンはそれで上手くいった。だがホブゴブリンはそうはいかない。近づくその姿はまるで重戦車だ。巨体な分、歩幅も大きいため、見た目よりもスピードがある。
「ゴブッ!」
ゴブがスリングシュートで鉄球を撃った。それはホブゴブリンの額に辺りその動きが一旦止まる。
「効いたの!」
森下が懇願するように叫んだ。だがホブゴブリンは鉄球の当たった額を軽くさすり、ニヤリと口角を吊り上げた。それがどうしたと言わんばかりの挑発的な表情だった。
「ダメ、全然効いてない。こんなのどうするのよ」
森下は逃げるしかないと考えはしたが、子どもたちの足ではとても逃げ切れるとは思えなかった。まして子どもたちは完全にホブゴブリンの圧に呑まれている。
「私が、私が!」
「ダメ! 紅葉ちゃん!」
距離を縮めてくるホブゴブリンに立ち向かったのは紅葉だった。小さいながらもこの中で一番戦えるのは自分だと直感的に思ったのだろう。実際これまでもゴブリン相手に奮闘してきた。
「ハァアアァアア!」
紅葉は手にしたブラックジャックを振った。ホブゴブリンの股間目掛けて――
「‰★‡♂Å仝♯ッ!?」
その一撃は予想以上に効いたようだった。ホブゴブリンは棍棒を手放し股間を押さえ声にならない声を上げる。それはオスならば誰もが恐れる攻撃だった。
「今よ! みんな逃げるのよ」
その隙に森下が子どもたちに指示を出した。だがホブゴブリンは片手で股間を押さえながらも紅葉を睨みつけ、もう片方の手で殴りかかってきた。
「紅葉ちゃん!」
「「キャ~~~~!」」
桜が声を上げ、子どもたちも悲鳴を上げた。幾ら紅葉といえホブゴブリンの拳を受けては無事では済まないだろう。
「ゴブゥゥゥゥ!」
その時、横からゴブが飛びつきホブゴブリンの一撃から紅葉を救った。
「あ、ありがとうゴブちゃん!」
「ゴブゥ~」
「やった凄いよゴブ!」
「ゴブちゃん偉い!」
ホブゴブリンから紅葉を救ったゴブを皆が称えた。ゴブは少し照れくさそうだったが、しかし戦いはまだ終わったわけではない――
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