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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第140話 ランクアップ
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「おう、よく来たな――って、おお!? な、なんだその可愛いモグラはぁああああッ!?」
部屋に入るや否や、小澤マスターが身を乗り出しモグを凝視。瞳がハート形になりかけている。
「えっと、今朝ダンジョンに迷い込んでまして。腹を空かせてたから畑の作物をやったら懐いちゃったんです」
畑でテイム――例によって“公式設定”を強調して説明する。実際は残り物の食材で料理した結果だけど、そこはご愛敬だ。
「ほう! さすが農民のジョブだな。畑産でテイムとは実に理にかなっている!」
「……妙に説明口調ですね」
香川が眼鏡を押し上げながら鋭くツッコむ。マスターは咳払いで誤魔化した。
「しかし可愛いモンスターが次から次へと。例の放置ダンジョン、実はとんでもない秘密が眠ってるんじゃないか?」
「え、いや……特に怪しい所は見当たりませんでしたけど」
俺が首を傾げると、モンスターたちも揃って首を傾げる。
「ワン?」
「ピキィ?」
「マァ?」
「ゴブゥ?」
「モグゥ?」
――うん、全員ポカン顔。怪しさゼロだ。
「ところでこの子の名前は?」
「モグって言います」
「モグか、いい名だ。よろしくな!」
マスターに撫でられ、モグは「モグゥ♪」と上機嫌。見た目は強面でもモンスター愛だけは天下一品らしい。
「マスター、モンスターばかり構っていないで本題を」
「わかっとるさ。まったく香川は堅いなぁ」
マスターが着席し、真顔に切り替わる。モグは淹れたての紅茶の匂いにクンクンしながら卓上で丸くなる。
「まずは、今回のダンジョン災害での奮闘に礼を言わせてくれ。教師も生徒も大きな被害が出なかったのは、君たちのおかげだ」
称賛のことばに、仲間たちは誇らしげな表情を浮かべた。俺も思わず背筋が伸びる。
「だが同時に、危険行動だったのも事実だ。感情に任せるだけでなく、冷静な判断を常に心がけてほしい」
「うむ。慢心は禁物、筋肉も同じだ。無理ばかりでは断裂する」
「中山は何でも筋肉基準だな……でも、言われてみれば納得だ」
そう言って熊谷が苦笑した。
「私も肝に銘じます。もう二度と同じ負傷者は出したくないです」
愛川が真剣に頷く。
マスターは満足げに頷き、重ねて告げた。
「とはいえ、G級でありながらこれだけのミッションを成し遂げた功績は大きい。ランク外で挑んだ点を差し引いても、G級以上の実力なのは明らかだ。――そこで、俺の権限で全員をF級に昇格させる。香川、手続きを頼む」
思わず椅子から腰が浮いた。
「昇格!? そんな、もうですか?」
「やったぜ、F級!」
思わず声を上げてしまったが、熊谷は拳を突き上げ喜んでいた。
「俺の筋肉も飛躍的ランクアップだ!」
中山はポージングを決め。
「しょ、昇格……! 精進しなきゃ……!」
愛川は嬉しさと不安で顔を真っ赤に。
「ワンワン♪」
「ピキィ~♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ♪」
モンスターたちは円陣を組んでくるくるダンス。モグは小澤マスターの横でぴょんぴょん跳ねる。
皆して嬉しそうだな。でも、放置ダンジョンでゆるく活動するつもりだったのに……本当にいいのか?
心のどこかで恐縮する気持ちもある。それでも仲間たちの弾む声を聞けば、素直に喜びたいと思えた。
「ありがとうございます。……F級に恥じない冒険者になります」
胸に手を当てて頭を下げると、マスターは満面の笑みで親指を立てた。
「それでこそ風間だ!」
これで晴れてF級冒険者へランクアップ――新しい肩書に少しだけ背筋がくすぐったかった。
部屋に入るや否や、小澤マスターが身を乗り出しモグを凝視。瞳がハート形になりかけている。
「えっと、今朝ダンジョンに迷い込んでまして。腹を空かせてたから畑の作物をやったら懐いちゃったんです」
畑でテイム――例によって“公式設定”を強調して説明する。実際は残り物の食材で料理した結果だけど、そこはご愛敬だ。
「ほう! さすが農民のジョブだな。畑産でテイムとは実に理にかなっている!」
「……妙に説明口調ですね」
香川が眼鏡を押し上げながら鋭くツッコむ。マスターは咳払いで誤魔化した。
「しかし可愛いモンスターが次から次へと。例の放置ダンジョン、実はとんでもない秘密が眠ってるんじゃないか?」
「え、いや……特に怪しい所は見当たりませんでしたけど」
俺が首を傾げると、モンスターたちも揃って首を傾げる。
「ワン?」
「ピキィ?」
「マァ?」
「ゴブゥ?」
「モグゥ?」
――うん、全員ポカン顔。怪しさゼロだ。
「ところでこの子の名前は?」
「モグって言います」
「モグか、いい名だ。よろしくな!」
マスターに撫でられ、モグは「モグゥ♪」と上機嫌。見た目は強面でもモンスター愛だけは天下一品らしい。
「マスター、モンスターばかり構っていないで本題を」
「わかっとるさ。まったく香川は堅いなぁ」
マスターが着席し、真顔に切り替わる。モグは淹れたての紅茶の匂いにクンクンしながら卓上で丸くなる。
「まずは、今回のダンジョン災害での奮闘に礼を言わせてくれ。教師も生徒も大きな被害が出なかったのは、君たちのおかげだ」
称賛のことばに、仲間たちは誇らしげな表情を浮かべた。俺も思わず背筋が伸びる。
「だが同時に、危険行動だったのも事実だ。感情に任せるだけでなく、冷静な判断を常に心がけてほしい」
「うむ。慢心は禁物、筋肉も同じだ。無理ばかりでは断裂する」
「中山は何でも筋肉基準だな……でも、言われてみれば納得だ」
そう言って熊谷が苦笑した。
「私も肝に銘じます。もう二度と同じ負傷者は出したくないです」
愛川が真剣に頷く。
マスターは満足げに頷き、重ねて告げた。
「とはいえ、G級でありながらこれだけのミッションを成し遂げた功績は大きい。ランク外で挑んだ点を差し引いても、G級以上の実力なのは明らかだ。――そこで、俺の権限で全員をF級に昇格させる。香川、手続きを頼む」
思わず椅子から腰が浮いた。
「昇格!? そんな、もうですか?」
「やったぜ、F級!」
思わず声を上げてしまったが、熊谷は拳を突き上げ喜んでいた。
「俺の筋肉も飛躍的ランクアップだ!」
中山はポージングを決め。
「しょ、昇格……! 精進しなきゃ……!」
愛川は嬉しさと不安で顔を真っ赤に。
「ワンワン♪」
「ピキィ~♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ♪」
モンスターたちは円陣を組んでくるくるダンス。モグは小澤マスターの横でぴょんぴょん跳ねる。
皆して嬉しそうだな。でも、放置ダンジョンでゆるく活動するつもりだったのに……本当にいいのか?
心のどこかで恐縮する気持ちもある。それでも仲間たちの弾む声を聞けば、素直に喜びたいと思えた。
「ありがとうございます。……F級に恥じない冒険者になります」
胸に手を当てて頭を下げると、マスターは満面の笑みで親指を立てた。
「それでこそ風間だ!」
これで晴れてF級冒険者へランクアップ――新しい肩書に少しだけ背筋がくすぐったかった。
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