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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第144話 議員事務所にて
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「大黒くん。ちょっといいかな?」
帰り支度をしていた大黒 賢治を呼び止めたのは、議員の安房 黒光だ。
賢治は安房の秘書を務めている。その為、家庭の事情なども包み隠さず話していた。
「はい。大丈夫です。もしかしてやり残した業務が残ってましたか?」
「いや、それは問題ないのだが、大丈夫なのかなと思ってね。泰子さんの事もあって大変なのだろう?」
「え、えぇ。それは確かに――」
安房の気遣いに、賢治は申し訳無さ気な表情を見せる。
「妻が本当に申し訳ありません」
「いや、君が謝ることじゃないさ」
「ですが、秘書の身としては、妻が事件を起こしたことは一大事と考えております」
そう言った賢治の表情には、覚悟の色が滲んでいた。安房の政治生命に悪影響を及ぼすというなら、秘書を辞するつもりなのだろう。
「事件を起こしたのは君じゃないんだ。気にする必要はない」
賢治の心配を他所に、安房は彼の肩を叩き労いの言葉をかけた。
「私が心配なのは君の体調だよ。精神面などは大丈夫かい?」
「それは、はい。迷惑は掛けないよう頑張ります」
「頑張り過ぎも禁物だ。ところで、泰子さんから連絡は?」
「ありません。警察からも逃げている身ですし、一体どこで何をしているのか。どちらにしても覚悟は出来ています」
「覚悟、か。それはやはり」
「はい。泰子とは別れるつもりです」
賢治がハッキリと宣言した。その気持ちに迷いはなさそうである。
「そうか――子どもの事もあって大変だとは思うが、気をしっかりな。必要な事があれば協力するから言ってくれ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
そこまで話した後、賢治は改めて安房に頭を下げ事務所を出た。その後姿を見送った後、安房がスマフォを取り出し耳に当てた。
『あぁ、私だ。予定通りに事は進んでいる。対象は今夜にでもポイントに移動し目覚める筈だ。そこを狙うといいだろう――』
そこまで話し、安房の通話は終わった。誰もいない事務所で、安房は一人ほくそ笑むのだった――。
◆◇◆
色々と誤解はあったけど、俺達は道着に着替えて楓の指導を受けることになった。
「ゴブちゃんだ~!」
「ワウワウ!」
ゴブも道着に着替えて気合が入ったところで、道場に飛び込んできたのは大型犬の菊郎に跨った紅葉だった。
ゴブに近づくと菊郎から飛び降りて手を取り合って再会を分かち合っている。
「あらあら、随分と可愛らしい仲間が増えたみたいですね」
紅葉の後に道場に入ってきた月見が穏やかな笑みを浮かべて言った。増えたというのはモグの事を言っているのだろうな。
「モグラちゃんも可愛い! 名前は何ていうの?」
「モグって言うんだよ」
紅葉の質問に秋月が優しく答えた。紅葉がモグの頭を撫でると、モグも心地よさそうにしているよ。
「本当に賑やかになったもんだねぇ」
「うむ。これは鍛え甲斐があるな!」
鬼姫の言葉に楓が反応する。そして俺達への稽古が始まった。熊谷はナイフを使った戦いを教わっている。中山は月見から手ほどきを受けストレッチを中心なメニューをこなしていた。中山の筋肉にはもう少し柔軟さが欲しいという考えからか、ピラティスを中心とした動きも取り入れてるようだ。
俺は鍬の扱いも受けつつ、新武器の大鎌の扱いについても指導を受けていた。モコを含めた皆も特性にあった指導を受け、それぞれが稽古を続けている中――秋月側にも動きがあった。
「ねぇ、アキちゃん。よかったら私と手合わせしない?」
「えっと、手合わせ、ですか?」
秋月に手合わせを申し出たのは蓬莱だった。秋月はアキちゃんと呼ばれた事と、手合わせを申し込まれたことの両方に戸惑っているようでもある。
それにしても、鬼輝夜の中で回復担当の蓬莱が秋月に手合わせを願うなんてね――。
帰り支度をしていた大黒 賢治を呼び止めたのは、議員の安房 黒光だ。
賢治は安房の秘書を務めている。その為、家庭の事情なども包み隠さず話していた。
「はい。大丈夫です。もしかしてやり残した業務が残ってましたか?」
「いや、それは問題ないのだが、大丈夫なのかなと思ってね。泰子さんの事もあって大変なのだろう?」
「え、えぇ。それは確かに――」
安房の気遣いに、賢治は申し訳無さ気な表情を見せる。
「妻が本当に申し訳ありません」
「いや、君が謝ることじゃないさ」
「ですが、秘書の身としては、妻が事件を起こしたことは一大事と考えております」
そう言った賢治の表情には、覚悟の色が滲んでいた。安房の政治生命に悪影響を及ぼすというなら、秘書を辞するつもりなのだろう。
「事件を起こしたのは君じゃないんだ。気にする必要はない」
賢治の心配を他所に、安房は彼の肩を叩き労いの言葉をかけた。
「私が心配なのは君の体調だよ。精神面などは大丈夫かい?」
「それは、はい。迷惑は掛けないよう頑張ります」
「頑張り過ぎも禁物だ。ところで、泰子さんから連絡は?」
「ありません。警察からも逃げている身ですし、一体どこで何をしているのか。どちらにしても覚悟は出来ています」
「覚悟、か。それはやはり」
「はい。泰子とは別れるつもりです」
賢治がハッキリと宣言した。その気持ちに迷いはなさそうである。
「そうか――子どもの事もあって大変だとは思うが、気をしっかりな。必要な事があれば協力するから言ってくれ」
「はい。お気遣いありがとうございます」
そこまで話した後、賢治は改めて安房に頭を下げ事務所を出た。その後姿を見送った後、安房がスマフォを取り出し耳に当てた。
『あぁ、私だ。予定通りに事は進んでいる。対象は今夜にでもポイントに移動し目覚める筈だ。そこを狙うといいだろう――』
そこまで話し、安房の通話は終わった。誰もいない事務所で、安房は一人ほくそ笑むのだった――。
◆◇◆
色々と誤解はあったけど、俺達は道着に着替えて楓の指導を受けることになった。
「ゴブちゃんだ~!」
「ワウワウ!」
ゴブも道着に着替えて気合が入ったところで、道場に飛び込んできたのは大型犬の菊郎に跨った紅葉だった。
ゴブに近づくと菊郎から飛び降りて手を取り合って再会を分かち合っている。
「あらあら、随分と可愛らしい仲間が増えたみたいですね」
紅葉の後に道場に入ってきた月見が穏やかな笑みを浮かべて言った。増えたというのはモグの事を言っているのだろうな。
「モグラちゃんも可愛い! 名前は何ていうの?」
「モグって言うんだよ」
紅葉の質問に秋月が優しく答えた。紅葉がモグの頭を撫でると、モグも心地よさそうにしているよ。
「本当に賑やかになったもんだねぇ」
「うむ。これは鍛え甲斐があるな!」
鬼姫の言葉に楓が反応する。そして俺達への稽古が始まった。熊谷はナイフを使った戦いを教わっている。中山は月見から手ほどきを受けストレッチを中心なメニューをこなしていた。中山の筋肉にはもう少し柔軟さが欲しいという考えからか、ピラティスを中心とした動きも取り入れてるようだ。
俺は鍬の扱いも受けつつ、新武器の大鎌の扱いについても指導を受けていた。モコを含めた皆も特性にあった指導を受け、それぞれが稽古を続けている中――秋月側にも動きがあった。
「ねぇ、アキちゃん。よかったら私と手合わせしない?」
「えっと、手合わせ、ですか?」
秋月に手合わせを申し出たのは蓬莱だった。秋月はアキちゃんと呼ばれた事と、手合わせを申し込まれたことの両方に戸惑っているようでもある。
それにしても、鬼輝夜の中で回復担当の蓬莱が秋月に手合わせを願うなんてね――。
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