162 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第161話 皆で締めのお風呂へ
しおりを挟む
獅王とのやり取りも終わり、どこか微妙な気分が残っていた。
「なんだか水を差されちゃった感じだな」
「うん……せっかく皆で楽しかったのに」
「クゥ~ン……」
「ピキュ~……」
「ゴブゥ……」
「マァ……」
愛川も、モコたちもどこか元気をなくしていた。たしかにあんな横暴な奴に振り回されたら、気分が沈むのも無理はない。
「モグゥ~?」
そんな中、俺が寝ていた横で丸まっていたモグが、ぱちりと目を覚ました。寝ぼけ眼を前肢でこすりながら、ぽやんとした顔をこちらに向けてくる。
「プッ……ハハッ。なんだモグ、お前のんきだな。よく眠れたか?」
「モグ~♪」
ご機嫌な鳴き声とともに、モグが俺の胸に飛び込んでくる。その丸く柔らかな感触に、思わず笑みがこぼれる。
「モグちゃんの顔見てたら、さっきのことがどうでもよくなってきたよ」
「ワンワン!」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ~♪」
愛川の一言に、モコたちも次第に元気を取り戻していく。やっぱりモグの癒し効果は抜群だ。
「……うちの子もモンスターが好きで、撫でさせてもらっても?」
そう話しかけてきたのは、あの動画を見せてくれた父親だった。もちろん俺は快諾した。小さな男の子はモンスターたちと嬉しそうに触れ合い、モコたちもそれに応じてじゃれていた。
「さて、そろそろ出ようか」
「うん♪」
プールを後にした俺たちは、更衣室で着替えを済ませ、汗を流すために【モンスポ!】自慢の大浴場へと向かった。
男湯に入ったのは俺と、モコ、ラム、モグ、ゴブ。マールは愛川とともに女湯へ行った。
「よし、まずはしっかり身体を洗うぞー」
「モグ~♪」
「ゴブッ!」
「ピキィ♪」
「ワンワン!」
湯気に包まれた脱衣所から浴場へ。そこには多種多様な風呂が広がっていた。湯船の名前にもひと工夫されていて、モンスターをテーマにしたものが多い。
たとえば、頭上から湯が滝のように流れ落ちる「竜湯」。竜の口から流れ出るお湯が心地よく、モコとゴブはそこに並んで座り、豪快に湯を浴びていた。
丸い甲羅のような湯船で泡が吹き出る「ジェットタートル風呂」では、モグが「モグ~♪」と鼻歌交じりにくつろいでいる。
電気風呂をベースにした「サンダーラビット風呂」では、ラムがプルプルと震えながらも楽しそうに浸かっていた。あの反応が妙に可愛い。
「ん? 『筋肉とモンスターをこよなく愛するギルドマスター小澤 勇公認! マッスル風呂』……?」
まさかの公式コラボに驚く。小澤マスターが監修した薬湯らしく、筋肉疲労に効く成分が豊富だという。面白半分で俺も入ってみたが、じんわりと芯から温まって悪くない。
一通り風呂を楽しんだあとは、仕上げにサウナへ。
「よし、次は……イフリートの釜か」
名前だけ聞くとヤバそうだが、要するにサウナだ。中は木製の座面と熱気に包まれた空間で、壁際には熱石が積まれていた。そこからじんわりと立ち上る蒸気が、心地よく肌を包み込む。
中には先客の姿が一人。隣には赤い鱗を持つトカゲのようなモンスターが座っていた。
モンスター連れの客が多いのも、【モンスポ!】ならではだろう。そう思っていたところ、先客がふいにこちらへ顔を向け、静かに口を開いた。
「あなたも……モンスターと一緒に来てるんですね」
その声に、思わず身体が跳ねた。見上げれば、艶やかな黒髪に白い肌。どこからどう見ても女性にしか見えなかった。
「し、失礼しました!」
「ワオン!?」
「モグゥ!」
「ピキィ!」
「ゴブッ!?」
俺たちは大慌てで立ち上がり、サウナを飛び出しかけたが――
「待ってください! 違うんです、僕……男ですからっ!」
その必死な否定に、俺はようやく立ち止まった。
確かにここは男湯だ。それなら……? しかし、改めて見るとその細い体と顔立ちはどう見ても――
(あれで男って……まじか)
新たな人物の登場に、俺は驚きながらもサウナの熱気に包まれたまま、次の言葉を探していた――
「なんだか水を差されちゃった感じだな」
「うん……せっかく皆で楽しかったのに」
「クゥ~ン……」
「ピキュ~……」
「ゴブゥ……」
「マァ……」
愛川も、モコたちもどこか元気をなくしていた。たしかにあんな横暴な奴に振り回されたら、気分が沈むのも無理はない。
「モグゥ~?」
そんな中、俺が寝ていた横で丸まっていたモグが、ぱちりと目を覚ました。寝ぼけ眼を前肢でこすりながら、ぽやんとした顔をこちらに向けてくる。
「プッ……ハハッ。なんだモグ、お前のんきだな。よく眠れたか?」
「モグ~♪」
ご機嫌な鳴き声とともに、モグが俺の胸に飛び込んでくる。その丸く柔らかな感触に、思わず笑みがこぼれる。
「モグちゃんの顔見てたら、さっきのことがどうでもよくなってきたよ」
「ワンワン!」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ~♪」
愛川の一言に、モコたちも次第に元気を取り戻していく。やっぱりモグの癒し効果は抜群だ。
「……うちの子もモンスターが好きで、撫でさせてもらっても?」
そう話しかけてきたのは、あの動画を見せてくれた父親だった。もちろん俺は快諾した。小さな男の子はモンスターたちと嬉しそうに触れ合い、モコたちもそれに応じてじゃれていた。
「さて、そろそろ出ようか」
「うん♪」
プールを後にした俺たちは、更衣室で着替えを済ませ、汗を流すために【モンスポ!】自慢の大浴場へと向かった。
男湯に入ったのは俺と、モコ、ラム、モグ、ゴブ。マールは愛川とともに女湯へ行った。
「よし、まずはしっかり身体を洗うぞー」
「モグ~♪」
「ゴブッ!」
「ピキィ♪」
「ワンワン!」
湯気に包まれた脱衣所から浴場へ。そこには多種多様な風呂が広がっていた。湯船の名前にもひと工夫されていて、モンスターをテーマにしたものが多い。
たとえば、頭上から湯が滝のように流れ落ちる「竜湯」。竜の口から流れ出るお湯が心地よく、モコとゴブはそこに並んで座り、豪快に湯を浴びていた。
丸い甲羅のような湯船で泡が吹き出る「ジェットタートル風呂」では、モグが「モグ~♪」と鼻歌交じりにくつろいでいる。
電気風呂をベースにした「サンダーラビット風呂」では、ラムがプルプルと震えながらも楽しそうに浸かっていた。あの反応が妙に可愛い。
「ん? 『筋肉とモンスターをこよなく愛するギルドマスター小澤 勇公認! マッスル風呂』……?」
まさかの公式コラボに驚く。小澤マスターが監修した薬湯らしく、筋肉疲労に効く成分が豊富だという。面白半分で俺も入ってみたが、じんわりと芯から温まって悪くない。
一通り風呂を楽しんだあとは、仕上げにサウナへ。
「よし、次は……イフリートの釜か」
名前だけ聞くとヤバそうだが、要するにサウナだ。中は木製の座面と熱気に包まれた空間で、壁際には熱石が積まれていた。そこからじんわりと立ち上る蒸気が、心地よく肌を包み込む。
中には先客の姿が一人。隣には赤い鱗を持つトカゲのようなモンスターが座っていた。
モンスター連れの客が多いのも、【モンスポ!】ならではだろう。そう思っていたところ、先客がふいにこちらへ顔を向け、静かに口を開いた。
「あなたも……モンスターと一緒に来てるんですね」
その声に、思わず身体が跳ねた。見上げれば、艶やかな黒髪に白い肌。どこからどう見ても女性にしか見えなかった。
「し、失礼しました!」
「ワオン!?」
「モグゥ!」
「ピキィ!」
「ゴブッ!?」
俺たちは大慌てで立ち上がり、サウナを飛び出しかけたが――
「待ってください! 違うんです、僕……男ですからっ!」
その必死な否定に、俺はようやく立ち止まった。
確かにここは男湯だ。それなら……? しかし、改めて見るとその細い体と顔立ちはどう見ても――
(あれで男って……まじか)
新たな人物の登場に、俺は驚きながらもサウナの熱気に包まれたまま、次の言葉を探していた――
136
あなたにおすすめの小説
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。
imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。
今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。
あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。
「—っ⁉︎」
私の体は、眩い光に包まれた。
次に目覚めた時、そこは、
「どこ…、ここ……。」
何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。
借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~
わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」
現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。
渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。
私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル!
「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」
提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。
家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。
裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。
錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。
主人公無双×のんびり錬金スローライフ!
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる