親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

第161話 皆で締めのお風呂へ

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 獅王とのやり取りも終わり、どこか微妙な気分が残っていた。

「なんだか水を差されちゃった感じだな」
「うん……せっかく皆で楽しかったのに」
「クゥ~ン……」
「ピキュ~……」
「ゴブゥ……」
「マァ……」

 愛川も、モコたちもどこか元気をなくしていた。たしかにあんな横暴な奴に振り回されたら、気分が沈むのも無理はない。

「モグゥ~?」

 そんな中、俺が寝ていた横で丸まっていたモグが、ぱちりと目を覚ました。寝ぼけ眼を前肢でこすりながら、ぽやんとした顔をこちらに向けてくる。

「プッ……ハハッ。なんだモグ、お前のんきだな。よく眠れたか?」
「モグ~♪」

 ご機嫌な鳴き声とともに、モグが俺の胸に飛び込んでくる。その丸く柔らかな感触に、思わず笑みがこぼれる。

「モグちゃんの顔見てたら、さっきのことがどうでもよくなってきたよ」
「ワンワン!」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ~♪」

 愛川の一言に、モコたちも次第に元気を取り戻していく。やっぱりモグの癒し効果は抜群だ。

「……うちの子もモンスターが好きで、撫でさせてもらっても?」

 そう話しかけてきたのは、あの動画を見せてくれた父親だった。もちろん俺は快諾した。小さな男の子はモンスターたちと嬉しそうに触れ合い、モコたちもそれに応じてじゃれていた。

「さて、そろそろ出ようか」
「うん♪」

 プールを後にした俺たちは、更衣室で着替えを済ませ、汗を流すために【モンスポ!】自慢の大浴場へと向かった。

 男湯に入ったのは俺と、モコ、ラム、モグ、ゴブ。マールは愛川とともに女湯へ行った。

「よし、まずはしっかり身体を洗うぞー」
「モグ~♪」
「ゴブッ!」
「ピキィ♪」
「ワンワン!」

 湯気に包まれた脱衣所から浴場へ。そこには多種多様な風呂が広がっていた。湯船の名前にもひと工夫されていて、モンスターをテーマにしたものが多い。

 たとえば、頭上から湯が滝のように流れ落ちる「竜湯」。竜の口から流れ出るお湯が心地よく、モコとゴブはそこに並んで座り、豪快に湯を浴びていた。

 丸い甲羅のような湯船で泡が吹き出る「ジェットタートル風呂」では、モグが「モグ~♪」と鼻歌交じりにくつろいでいる。

 電気風呂をベースにした「サンダーラビット風呂」では、ラムがプルプルと震えながらも楽しそうに浸かっていた。あの反応が妙に可愛い。

「ん? 『筋肉とモンスターをこよなく愛するギルドマスター小澤 勇公認! マッスル風呂』……?」

 まさかの公式コラボに驚く。小澤マスターが監修した薬湯らしく、筋肉疲労に効く成分が豊富だという。面白半分で俺も入ってみたが、じんわりと芯から温まって悪くない。

 一通り風呂を楽しんだあとは、仕上げにサウナへ。

「よし、次は……イフリートの釜か」

 名前だけ聞くとヤバそうだが、要するにサウナだ。中は木製の座面と熱気に包まれた空間で、壁際には熱石が積まれていた。そこからじんわりと立ち上る蒸気が、心地よく肌を包み込む。

 中には先客の姿が一人。隣には赤い鱗を持つトカゲのようなモンスターが座っていた。

 モンスター連れの客が多いのも、【モンスポ!】ならではだろう。そう思っていたところ、先客がふいにこちらへ顔を向け、静かに口を開いた。

「あなたも……モンスターと一緒に来てるんですね」

 その声に、思わず身体が跳ねた。見上げれば、艶やかな黒髪に白い肌。どこからどう見ても女性にしか見えなかった。

「し、失礼しました!」
「ワオン!?」
「モグゥ!」
「ピキィ!」
「ゴブッ!?」

 俺たちは大慌てで立ち上がり、サウナを飛び出しかけたが――

「待ってください! 違うんです、僕……男ですからっ!」

 その必死な否定に、俺はようやく立ち止まった。

 確かにここは男湯だ。それなら……? しかし、改めて見るとその細い体と顔立ちはどう見ても――

(あれで男って……まじか)

 新たな人物の登場に、俺は驚きながらもサウナの熱気に包まれたまま、次の言葉を探していた――
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