没落令嬢の子育て記。12世紀ドイツに似た異世界で、拾った子犬がイケメン精霊犬になりまして

ねこまんまる

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21 リネンの布

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建物の出入り口にいた私の存在に気づき、鍛冶屋の主人……肩幅の広い壮年の男・スラフさんが、すすだらけの顔で笑った。

「おや、アーデル嬢か。昨日の具合はどうだい? こいつらがえらく心配してたよ」

「こんにちは、スラフさん。うちの子たちがお世話になってます」
 
「あの子たちは筋がいい。鉄の“音”をよく聞いてるよ」 
  
鍛冶場の奥では、アオが革のふいごを踏んで、炉に空気を送り込んでいた。
 
規則正しく空気を送り続けることで、炉は火力が安定する。
炉の温度の変化を観察し、火の色を正確に見分けていた。
「まだ温度足りないな、もう一回踏むしかないか」と職人顔負けの口ぶり。

アカは、ふだんよりいっそう真剣な眼差しで鉄を打っていた。
赤く焼けた鉄を金床に置き、ハンマーで勢いよく叩いている。
叩くたびに、カンッ! と火花が散り、鉄の形が少しずつ変わっていく。

ギンは削り台に向かい、金槌と軽いノミで鉄片のバリ取りをしていた。

バリ取りは、金属を切ったり叩いたりしたときにできる、ギザギザ・トゲ状の出っ張り(=バリ)を削って整える作業だ。

削りカスが床に散ると、ギンは手早くほうきで掃除し、工具を丁寧に並べ替えていた。

コハクは少し離れた作業台で、仕上げ前の農具――くわの刃を磨いていた。
体は小さいのに、腕をまっすぐ伸ばして、革の磨き布で丁寧にこすり、光沢が出てくると嬉しそうに尻尾が揺れている。

「みて、アーデルさん! 刃がつるつるになったよ!」

無邪気な声に、つい私は鍛冶屋の主人と一緒に笑ってしまう。

私が入口に立って見ていると、アカがハンマーを振り上げたまま、ちら、とこちらを見る。
つられてアオも、ギンも、コハクも、落ち着かない様子で体の向きを変える。

……あ、完全にそわそわしてる。

鍛冶屋の主人のスラフが、そんな四人を見て大きくため息をついた。

「おい、おまえら。そんな調子じゃ作業にならんだろうが。しょうがない、今から休憩にしちまおう。それだけそわそわされちゃ、鉄が泣く」

スラフの低い声が鍛冶場に響くと、四人は一斉に動きを止めた。

アオは、革のふいごを踏む足をそっと止める。
炉から送られる風がやむと、火の勢いが少し落ちていく。
「今なら大丈夫だ」と小さくつぶやき、炉の温度が安定したのを確かめる。

ふいごの取っ手をきちんと閉じてから、私のもとにやってきた。

アカは、叩きかけの鉄を金床から持ち上げ、ゆっくり炉の端へ戻した。
まだ赤い鉄が、ジュウ…と音をたてている。
アカは火ばさみを置き、深呼吸をひとつ。

「いいところだったけど……また後で続けるか」
そう言いながらも、私のもとに走ってくる。

ギンは工具のノミを置き、削りカスが飛び散らないよう手で押さえたあと、掃き寄せて一か所に集めた。

工具を丁寧に並べ直すと、すぐに私のもとに小走りで来る。

コハクは磨き布を離し、仕上げ途中の鍬の刃を布でそっと覆った。
「ほこりがつかないようにしないとね!」と尻尾を揺らす。
 
磨き布を折りたたんで台に置くと、小走りで私の側に来て「準備おわり!」と胸を張った。

スラフは四人の動作を確認し、炉の火が暴れていないか最後にちらりと見てから、にやりと笑った。

「安全確認よし。じゃあ休憩だ。アーデル嬢と会話してこい」

「「「「はい!!」」」」

四人は嬉しさを隠しきれない様子で、元気よく返事をした。

さっそく、私は抱えてきた包みをそっと開いた。
 
「昨日は心配かけちゃって、ごめんね。助けにきてくれてありがとう。お礼に……汗ふき用のリネンを買ってきたの」

コハクは目をキラキラと輝かせる。
「わぁ! いい匂い! 新しい布だ!」

ギンはそっと布を手に取り、指先で感触を確かめる。
「……すごく上等な布。ほんとにもらっていいの?」

アオは控えめに頭を下げた。
「作業のとき、助かるよ。ありがとう」

アカは照れを隠すようにそっぽをむく。
「ありがとな。汗が目にしみて、困っていたところだったんだ」
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