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22 争奪戦
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四人は、私があげた布を抱きしめるように持って、うれしそうに笑う。
その姿を見て、胸がじんと温かくなった。
私は四人の頭を順に撫でた。
鍛冶場の熱で温まった髪が、指先にやさしく触れる。
「たくさん働いたんだもの。汗をふいて、風邪をひかないようにね」
四人は顔を見合わせ、声をそろえて笑った。
「ありがとう、アーデルさん!」
鍛冶炉の赤い光が、その笑顔をいっそう明るく照らす。
それを見て、スラフが苦笑した。
「まったく……あの子犬ども、どんだけアーデル嬢になついてんだか」
鍛冶場の熱と煙の上に、柔らかな笑いが広がっていった。
四人に新しい汗ふきリネンを渡したあと、私は小さく笑った。
「じつはね、私の分も買ったの。せっかくだから」
包みから淡い灰色のリネンを取り出してみせる。
まだ麻の繊維が固く、洗うほどに柔らかくなるタイプの、庶民がよく使う中等質の布だ。
すると、アオが首をかしげた。
「え……前に使ってた布はどうしたの? アーデルさん、いつも腰の袋に入れてたやつ」
「もう古くなって糸がゆるんできたから、雑巾にしようと思って。鍋のすす落としにも使えるし」
布が貴重なこの時代では、古布は必ず再利用される。
雑巾、鍋つかみ、床の拭き布、冬の隙間風よけ……用途はいくらでもある。
ところが——
「えっ、処分しちゃうの!?」
最初に声を上げたのはコハクだった。
つぎに、「ちょっとまってよ!」と、ギンが慌てた様子で前に出る。
アカが、「ぼろぼろにする前に、俺にくれよ!」と真剣な顔で言う。
「精霊犬は、大事な人のにおいがしみついたものをお守りにすることがあるんだぜ」
「そうなの?」
中世の人々は、魂や徳は“物に宿る”と考えている。
だから、『大切な人の持ち物=その人の加護や祈りが染みついたもの』として、お守りにすることがあった。
現代の感覚で言うと、写真を財布に入れたりするようなもの。
精霊犬にも、そういった習慣があるらしい。
アオも、「アーデルさんが使ってたやつを、お守りにしたい」と耳を赤くしながら言った。
「あんな古い布なのに、いいの?」
私が戸惑う間に、四人はすでに火花が散りそうな勢いで睨み合っていた。
「俺がもらうべきだろ!」
「アーデルさんのにおいがしみた布だよ!? 僕が持つ!」
「僕だって欲しい!!」
「公平に四等分すればいいんじゃないか?!」
すると、それを見ていた鍛冶屋の主人スラフが、腕を組んで大笑いした。
「おいおい、古布ひとつでそんなに盛り上がる家族があるか」
私は慌てて両手を広げた。
「わ、わかったから! ケンカしないで!
布はまだ使える部分もあるし……ちゃんと全員にわけてあげるから!」
「ほんと!?」
「やった!」
「約束だからな!」
「うれしい!」
四人の尻尾が、ブンブンと大きく揺れる。
古い布1枚でこんなによろこんでくれるなんて。
中世ヨーロッパは、カメラがまだ存在せず、写真がない時代だ。
だからこそ、大切な人を思い出せる物が必要なのだ。
私が彼らにとって『大切』だと思われているという事実は、とてもうれしいことではあった。
コハクが「あ、そうだ!」と声を上げる。
「ぼくたちね、アーデルさんをもっと守れるように、この鍛治屋の工房で武器作りもしているんだよ!」
そう言って、煤で黒くなったしっぽをぱたぱたさせながら、得意げに私へ向き直る。
すかさずアカが、汗をぬぐいながらニヤッと笑った。
「俺は剣を作ってんだぜ!」
鍛冶台のそばには、まだ粗熱を帯びた鉄塊が横たわっていた。
炉の火で真っ赤に焼かれたばかりの鉄は、表面が黒く酸化しつつも、まだ熱そうだ。
その姿を見て、胸がじんと温かくなった。
私は四人の頭を順に撫でた。
鍛冶場の熱で温まった髪が、指先にやさしく触れる。
「たくさん働いたんだもの。汗をふいて、風邪をひかないようにね」
四人は顔を見合わせ、声をそろえて笑った。
「ありがとう、アーデルさん!」
鍛冶炉の赤い光が、その笑顔をいっそう明るく照らす。
それを見て、スラフが苦笑した。
「まったく……あの子犬ども、どんだけアーデル嬢になついてんだか」
鍛冶場の熱と煙の上に、柔らかな笑いが広がっていった。
四人に新しい汗ふきリネンを渡したあと、私は小さく笑った。
「じつはね、私の分も買ったの。せっかくだから」
包みから淡い灰色のリネンを取り出してみせる。
まだ麻の繊維が固く、洗うほどに柔らかくなるタイプの、庶民がよく使う中等質の布だ。
すると、アオが首をかしげた。
「え……前に使ってた布はどうしたの? アーデルさん、いつも腰の袋に入れてたやつ」
「もう古くなって糸がゆるんできたから、雑巾にしようと思って。鍋のすす落としにも使えるし」
布が貴重なこの時代では、古布は必ず再利用される。
雑巾、鍋つかみ、床の拭き布、冬の隙間風よけ……用途はいくらでもある。
ところが——
「えっ、処分しちゃうの!?」
最初に声を上げたのはコハクだった。
つぎに、「ちょっとまってよ!」と、ギンが慌てた様子で前に出る。
アカが、「ぼろぼろにする前に、俺にくれよ!」と真剣な顔で言う。
「精霊犬は、大事な人のにおいがしみついたものをお守りにすることがあるんだぜ」
「そうなの?」
中世の人々は、魂や徳は“物に宿る”と考えている。
だから、『大切な人の持ち物=その人の加護や祈りが染みついたもの』として、お守りにすることがあった。
現代の感覚で言うと、写真を財布に入れたりするようなもの。
精霊犬にも、そういった習慣があるらしい。
アオも、「アーデルさんが使ってたやつを、お守りにしたい」と耳を赤くしながら言った。
「あんな古い布なのに、いいの?」
私が戸惑う間に、四人はすでに火花が散りそうな勢いで睨み合っていた。
「俺がもらうべきだろ!」
「アーデルさんのにおいがしみた布だよ!? 僕が持つ!」
「僕だって欲しい!!」
「公平に四等分すればいいんじゃないか?!」
すると、それを見ていた鍛冶屋の主人スラフが、腕を組んで大笑いした。
「おいおい、古布ひとつでそんなに盛り上がる家族があるか」
私は慌てて両手を広げた。
「わ、わかったから! ケンカしないで!
布はまだ使える部分もあるし……ちゃんと全員にわけてあげるから!」
「ほんと!?」
「やった!」
「約束だからな!」
「うれしい!」
四人の尻尾が、ブンブンと大きく揺れる。
古い布1枚でこんなによろこんでくれるなんて。
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だからこそ、大切な人を思い出せる物が必要なのだ。
私が彼らにとって『大切』だと思われているという事実は、とてもうれしいことではあった。
コハクが「あ、そうだ!」と声を上げる。
「ぼくたちね、アーデルさんをもっと守れるように、この鍛治屋の工房で武器作りもしているんだよ!」
そう言って、煤で黒くなったしっぽをぱたぱたさせながら、得意げに私へ向き直る。
すかさずアカが、汗をぬぐいながらニヤッと笑った。
「俺は剣を作ってんだぜ!」
鍛冶台のそばには、まだ粗熱を帯びた鉄塊が横たわっていた。
炉の火で真っ赤に焼かれたばかりの鉄は、表面が黒く酸化しつつも、まだ熱そうだ。
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