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2B-霊薬と立証
2B-10 霊薬と圧力の魔導具
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「市村通信だと秘匿と説得には弱いから、私が直接飛んできたの。これがクリスティーヌからの手紙よ」
マジャリスが差し出した封筒を受け取り、パラケル爺さんが眉をひそめる。封蝋を割り、広げられた羊皮紙には、整った筆致でこう記されていた。
######
パラケル・アウレオール男爵閣下
急用の依頼案件が発生しました。
エリス付きのマジャリスを遣わせましたので、受諾かどうかのご判断を早急にお知らせ頂きたく、ご検討をお願いします。
依頼者は近衛騎士ミハエル・ハイデルベル。代々パール家に仕える家臣であり、[界上の賜物]の保護に関しても関わりがあります。案件はエリクシルの作製。患者は彼の息子で、冒険者として活動中に迷宮の氾濫に巻き込まれ、失血と栄養失調で危険な状態にあります。ポーションで命を繋いでいますが、エリクシルの投与がなければ半々の確率で命を落とすでしょう。
報酬はハイデルベル家から金貨五千枚、パール家からの貸付五千枚、息子の冒険者仲間から金貨百枚と迷宮遺構。さらにパール家秘蔵の特殊バニラと凍結オフィキナールを材料として提供します。詳細はマジャリスに託しました。
判断は貴殿らに委ねます。どうかご検討を。
元パーティー クリスティーヌ・パール
追伸:今回は前回と異なり頼りになる助手も居るのでしょう。過去を引きずらず、ここで終止符を打つことを期待しています。
######
「まったく、間がいいのか悪いのか……クリスティーヌめ。また無茶を振ってきおる」
「試作しておいてよかったですね」自分は小声で呟いた。
「いいじゃない♬ ちょうど作ったところだし♪ このまま渡してしまえば♬」ローセアが軽口を叩く。
「エリクシルの値段には届かないけど、関係者からパラケルさんに渡して欲しいものがあるみたいよ」
マジャリスは手紙と共に、預かっていた品を取り出した。特殊バニラと凍結オフィキナール、そして冒険者から託されたという金属板の束。
「冒険者にはコカルスという学院の魔導師が同行していたそうよ。ミハエルの息子は、彼の作るポーションで命を繋いでいたらしいわ。彼によると、この金属板は新規性があるかもしれないから薬代の足しに、と。価値を見極められるのはパラケル師しかいないと熱弁していたわ」
「ふむ……魔導具の金属制御板か。氷、風、火、時間の制御板……構造自体は既知のものに見えるが」
「彼の話だと、風の制御に“700pa”という文字があるから価値があると。分厚い扉を持つ機械で、内部には氷・風・火の魔法陣があったそうよ。火と風で乾燥し、その後凍結させる機械だと」
「700pa? 確かに珍しい組み合わせだ」
「ちょっと見せてください!」
自分は制御板を手に取り、目を凝らした。氷、風、火、時間を示す板。それらを組み合わせ、命令配列を構築する仕組み。以前、浄水魔導具を組んだときにパラケル爺さんから学んだ制御様式と同じ発想だ。
風の制御板に刻まれた“pa”。これは……パスカル。圧力の単位だ。700Paは極めて低圧。火と氷の板には“℃”の文字。修正の跡がある。分厚い扉……まさか。
「パラケル爺さん! これですよ。まさしく冷乾です! 凍結させてから乾燥させる魔導具なんです!」
「オフィキナールの記述にあった、あれか!」
「はい! 試料が溶けないように徐々に温度を上げ、昇華を促す仕組みです!」
「なるほど……paは圧力の単位か」
「そうです。高地ほど空気の層が薄くなり、値が低くなる。700paは相当な低圧。ネル高地での抽出を再現できるのです!」
「小僧が言っていた高地での抽出……繋がったな」
マジャリスは首を傾げる。
「話はよく分からないけど、あなたたちの要望に応えるものなの?」
「現物一式があるなら、対価には十分です。いや、十分すぎる。ミハエル殿とその息子、そしてクリスティーヌ様に伝えてください。制御盤と本体一式の引き渡しがあれば、自分は金貨は不要と。ただし、テオフラス商会が確実に受け取る条件として」
「小僧! いいのか? 白金貨百枚だぞ!?」
「人を救えるのなら、ぜひ活用してもらいましょう。試作品ですし、手放すには良い機会です。魔導具の状態は気になりますが、発想を早めに押さえておく方が得策です」
「ガハハ! そうだな。金銭ではない。その心意気、良いぞ。ミハエルにくれてやろう。パール家から秘蔵の特殊バニラと凍結オフィキナールが手に入れば、いくらでも作れる。手紙はワシが書こう。小僧、助言を頼むぞ」
「了解です」
パラケルの手紙とエリクシルを携えたマジャリスは、妖精二人を伴い、急ぎ城郭都市へと飛び立っていった。
マジャリスが差し出した封筒を受け取り、パラケル爺さんが眉をひそめる。封蝋を割り、広げられた羊皮紙には、整った筆致でこう記されていた。
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パラケル・アウレオール男爵閣下
急用の依頼案件が発生しました。
エリス付きのマジャリスを遣わせましたので、受諾かどうかのご判断を早急にお知らせ頂きたく、ご検討をお願いします。
依頼者は近衛騎士ミハエル・ハイデルベル。代々パール家に仕える家臣であり、[界上の賜物]の保護に関しても関わりがあります。案件はエリクシルの作製。患者は彼の息子で、冒険者として活動中に迷宮の氾濫に巻き込まれ、失血と栄養失調で危険な状態にあります。ポーションで命を繋いでいますが、エリクシルの投与がなければ半々の確率で命を落とすでしょう。
報酬はハイデルベル家から金貨五千枚、パール家からの貸付五千枚、息子の冒険者仲間から金貨百枚と迷宮遺構。さらにパール家秘蔵の特殊バニラと凍結オフィキナールを材料として提供します。詳細はマジャリスに託しました。
判断は貴殿らに委ねます。どうかご検討を。
元パーティー クリスティーヌ・パール
追伸:今回は前回と異なり頼りになる助手も居るのでしょう。過去を引きずらず、ここで終止符を打つことを期待しています。
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「まったく、間がいいのか悪いのか……クリスティーヌめ。また無茶を振ってきおる」
「試作しておいてよかったですね」自分は小声で呟いた。
「いいじゃない♬ ちょうど作ったところだし♪ このまま渡してしまえば♬」ローセアが軽口を叩く。
「エリクシルの値段には届かないけど、関係者からパラケルさんに渡して欲しいものがあるみたいよ」
マジャリスは手紙と共に、預かっていた品を取り出した。特殊バニラと凍結オフィキナール、そして冒険者から託されたという金属板の束。
「冒険者にはコカルスという学院の魔導師が同行していたそうよ。ミハエルの息子は、彼の作るポーションで命を繋いでいたらしいわ。彼によると、この金属板は新規性があるかもしれないから薬代の足しに、と。価値を見極められるのはパラケル師しかいないと熱弁していたわ」
「ふむ……魔導具の金属制御板か。氷、風、火、時間の制御板……構造自体は既知のものに見えるが」
「彼の話だと、風の制御に“700pa”という文字があるから価値があると。分厚い扉を持つ機械で、内部には氷・風・火の魔法陣があったそうよ。火と風で乾燥し、その後凍結させる機械だと」
「700pa? 確かに珍しい組み合わせだ」
「ちょっと見せてください!」
自分は制御板を手に取り、目を凝らした。氷、風、火、時間を示す板。それらを組み合わせ、命令配列を構築する仕組み。以前、浄水魔導具を組んだときにパラケル爺さんから学んだ制御様式と同じ発想だ。
風の制御板に刻まれた“pa”。これは……パスカル。圧力の単位だ。700Paは極めて低圧。火と氷の板には“℃”の文字。修正の跡がある。分厚い扉……まさか。
「パラケル爺さん! これですよ。まさしく冷乾です! 凍結させてから乾燥させる魔導具なんです!」
「オフィキナールの記述にあった、あれか!」
「はい! 試料が溶けないように徐々に温度を上げ、昇華を促す仕組みです!」
「なるほど……paは圧力の単位か」
「そうです。高地ほど空気の層が薄くなり、値が低くなる。700paは相当な低圧。ネル高地での抽出を再現できるのです!」
「小僧が言っていた高地での抽出……繋がったな」
マジャリスは首を傾げる。
「話はよく分からないけど、あなたたちの要望に応えるものなの?」
「現物一式があるなら、対価には十分です。いや、十分すぎる。ミハエル殿とその息子、そしてクリスティーヌ様に伝えてください。制御盤と本体一式の引き渡しがあれば、自分は金貨は不要と。ただし、テオフラス商会が確実に受け取る条件として」
「小僧! いいのか? 白金貨百枚だぞ!?」
「人を救えるのなら、ぜひ活用してもらいましょう。試作品ですし、手放すには良い機会です。魔導具の状態は気になりますが、発想を早めに押さえておく方が得策です」
「ガハハ! そうだな。金銭ではない。その心意気、良いぞ。ミハエルにくれてやろう。パール家から秘蔵の特殊バニラと凍結オフィキナールが手に入れば、いくらでも作れる。手紙はワシが書こう。小僧、助言を頼むぞ」
「了解です」
パラケルの手紙とエリクシルを携えたマジャリスは、妖精二人を伴い、急ぎ城郭都市へと飛び立っていった。
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