132 / 371
【第三部:とらわれの舞姫】第七章
サリの兄
しおりを挟む
その日も、エルシャたちは何の手がかりもつかめずに宿へ帰ることになった。食事が終われば、エルシャとフェランだけ町の酒場へ行くことになっている。そこで、さまざまな土地から訪れる旅人たちの話を聞き、情報を得ようというのだ。しかし、少なくともこの二日間は、それも徒労に終わっていた。
食事をしながら、エルシャは考えた。いつであったか、ディオネがいっていた――サラマ・アンギュースたちは不思議な糸で結ばれていて、自然に集まるのではないか、と。これまでのところは、そのとおりだった。ナイシェもディオネも、ゼムズやショーも、フェランに至ってはもっとも奇妙だがまったく自然な形で、こちらから近づくことなく吸い寄せれるようにサラマ・アンギュースたちが集まった。これが神の思し召しであるなら、自分がいかに努力しようと、出会いは遅かれ早かれやってくるのではないか。
しかし、そんな出会いを信じるのは非常に勇気のいることだった。自ら働きかけても、見つかるとも知れない神の民たち。フェランやナイシェたちを道連れに先の知れない旅に出、あげくに身動きが取れなくなってしまったら?
一瞬、暗闇と責任という恐怖が、エルシャの体を駆け抜ける。しかし、エルシャは目を閉じて思い浮かべた――緑の木々に囲まれた、白い建物。白は、無――恐怖や邪念に自らを支配されそうになったときには、心を無にして、神にすべてをゆだねなさい。そう教えられた、神官の館。母の死をきっかけに不純な動機で志した神官の道だったが、今ではその神が、エルシャの生き方の指針となっていた。神の意志により、自分は今ここにいる――そう考えると、エルシャにはどんな恐怖や不安にも立ち向かえるように思えた。
食事が終わるころ、それまでずっと口を閉ざしていたサリが、静かにフォークを食卓に置いて口を開いた。
「……サラマ・アンギュースを探してるって、いったよね」
みな、食事の手を止めてサリのほうへ注意を注ぐ。サリは目を上げて、しっかりとみなの顔を見回した。
「みんな……そうなの?」
しばらくの間のあと、エルシャが答えた。
「俺以外は、みんなそうだよ。ナイシェは創造の、ディオネは破壊の、フェランは予見の民だ」
サリは名前の挙がった三人の顔を順に見ると、少しだけうつむいた。
「ごめん……あたし、勝手に決めつけてたみたい。三人を見て、思った。ナイシェやディオネやフェランのことを……人殺し呼ばわりするなんて……ひどいこといったと思う」
そして、顔を上げた。
「あたしにも、協力させて。人探しは多いほうがいいもの」
ナイシェが満面の笑みでそれに応えた。
「助かるわ、サリ」
サリが照れたように笑う。
「ほら、あたしも探したい人がいるし。話したよね、あたしの兄貴」
「数年前から連絡がとれないんだろう? いろんな町を回れば、きっと見つかるよ。一緒に探そう」
サリがうれしそうにうなずいた。
「うん、ありがとう。あたしの自慢の兄貴でさ、見つかったらエルシャたちとも絶対仲良くなるよ。ショーっていうんだけど、すごく剣の腕がよくてね、よく腕試しっていいながらいろんな町の悪党どもと渡り合ってるらしいんだけど……」
しかし、みなサリの話を最後までは聞いていなかった。頬を紅潮させてさも嬉しそうに話をするサリの言葉の中にただひとつ、全員を硬直させるものがあったのだ。
「ショー……だって……?」
そう呟いたのはエルシャだった。
「うん。ショーっていう名前だけど……」
サリが身を乗り出す。
「もしかして、知ってるの!?」
エルシャは言葉を詰まらせた。
「あ……あ、ショーは――」
しかし興奮したサリが次々と質問を浴びせかける。
「知ってるのね!? 会ったの? どこで、いつ? 兄貴、元気だった? 今どうしてるのかな、あたしのことは何かいってなかった?」
「ま……待ってくれ、サリ。ショーとは二か月ほど前に会ったんだ。そのことで、話が――」
声を荒げるサリを押しとどめながら、エルシャは話の切り出し方を考えあぐねていた。ショーの妹を探していたとはいえ、それはあまりにも唐突な出会いだった。妹を見つけ出したら、真実を告げなければ――その思いは、みな同じだった。しかし、兄の所在を知る人物と巡り合い再会の望みに胸を躍らせる少女を前に、真実を告げる最良の術がいったい何なのか、エルシャにはわからなくなっていた。
「兄貴は今どこにいるの? どこに行けば会えるの?」
必死に詰め寄るサリに、エルシャは体中が締めつけられる思いで答えた。
「ショーには……もう、会えないよ」
食事をしながら、エルシャは考えた。いつであったか、ディオネがいっていた――サラマ・アンギュースたちは不思議な糸で結ばれていて、自然に集まるのではないか、と。これまでのところは、そのとおりだった。ナイシェもディオネも、ゼムズやショーも、フェランに至ってはもっとも奇妙だがまったく自然な形で、こちらから近づくことなく吸い寄せれるようにサラマ・アンギュースたちが集まった。これが神の思し召しであるなら、自分がいかに努力しようと、出会いは遅かれ早かれやってくるのではないか。
しかし、そんな出会いを信じるのは非常に勇気のいることだった。自ら働きかけても、見つかるとも知れない神の民たち。フェランやナイシェたちを道連れに先の知れない旅に出、あげくに身動きが取れなくなってしまったら?
一瞬、暗闇と責任という恐怖が、エルシャの体を駆け抜ける。しかし、エルシャは目を閉じて思い浮かべた――緑の木々に囲まれた、白い建物。白は、無――恐怖や邪念に自らを支配されそうになったときには、心を無にして、神にすべてをゆだねなさい。そう教えられた、神官の館。母の死をきっかけに不純な動機で志した神官の道だったが、今ではその神が、エルシャの生き方の指針となっていた。神の意志により、自分は今ここにいる――そう考えると、エルシャにはどんな恐怖や不安にも立ち向かえるように思えた。
食事が終わるころ、それまでずっと口を閉ざしていたサリが、静かにフォークを食卓に置いて口を開いた。
「……サラマ・アンギュースを探してるって、いったよね」
みな、食事の手を止めてサリのほうへ注意を注ぐ。サリは目を上げて、しっかりとみなの顔を見回した。
「みんな……そうなの?」
しばらくの間のあと、エルシャが答えた。
「俺以外は、みんなそうだよ。ナイシェは創造の、ディオネは破壊の、フェランは予見の民だ」
サリは名前の挙がった三人の顔を順に見ると、少しだけうつむいた。
「ごめん……あたし、勝手に決めつけてたみたい。三人を見て、思った。ナイシェやディオネやフェランのことを……人殺し呼ばわりするなんて……ひどいこといったと思う」
そして、顔を上げた。
「あたしにも、協力させて。人探しは多いほうがいいもの」
ナイシェが満面の笑みでそれに応えた。
「助かるわ、サリ」
サリが照れたように笑う。
「ほら、あたしも探したい人がいるし。話したよね、あたしの兄貴」
「数年前から連絡がとれないんだろう? いろんな町を回れば、きっと見つかるよ。一緒に探そう」
サリがうれしそうにうなずいた。
「うん、ありがとう。あたしの自慢の兄貴でさ、見つかったらエルシャたちとも絶対仲良くなるよ。ショーっていうんだけど、すごく剣の腕がよくてね、よく腕試しっていいながらいろんな町の悪党どもと渡り合ってるらしいんだけど……」
しかし、みなサリの話を最後までは聞いていなかった。頬を紅潮させてさも嬉しそうに話をするサリの言葉の中にただひとつ、全員を硬直させるものがあったのだ。
「ショー……だって……?」
そう呟いたのはエルシャだった。
「うん。ショーっていう名前だけど……」
サリが身を乗り出す。
「もしかして、知ってるの!?」
エルシャは言葉を詰まらせた。
「あ……あ、ショーは――」
しかし興奮したサリが次々と質問を浴びせかける。
「知ってるのね!? 会ったの? どこで、いつ? 兄貴、元気だった? 今どうしてるのかな、あたしのことは何かいってなかった?」
「ま……待ってくれ、サリ。ショーとは二か月ほど前に会ったんだ。そのことで、話が――」
声を荒げるサリを押しとどめながら、エルシャは話の切り出し方を考えあぐねていた。ショーの妹を探していたとはいえ、それはあまりにも唐突な出会いだった。妹を見つけ出したら、真実を告げなければ――その思いは、みな同じだった。しかし、兄の所在を知る人物と巡り合い再会の望みに胸を躍らせる少女を前に、真実を告げる最良の術がいったい何なのか、エルシャにはわからなくなっていた。
「兄貴は今どこにいるの? どこに行けば会えるの?」
必死に詰め寄るサリに、エルシャは体中が締めつけられる思いで答えた。
「ショーには……もう、会えないよ」
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる