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【第五部:聖なる村】第一章
占い師
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つややかな黒い髪の毛を腰まで長く伸ばしたその女は、通りの交差する広場の一画で、胡坐をかいて道行く人々を眺めていた。中央の円い噴水ではしゃぐ小さな子供やそれを見守る母親、それに足早に広場を横切る男性や、早朝にも関わらず酒に飲まれて足元のおぼつかない男の二人連れ。
ひとりひとりを凝視しながら、彼女はため息をついた。
今日は調子が悪いらしい。
気を取り直して、目の前に置いてあったカードを手に取る。目を閉じ、大きく深呼吸してからカードを切り混ぜる。全神経を集中させてしばらく混ぜたあと、彼女は投げやりに手元にカードを茣蓙の上に放り出して天を仰いだ。
だめだ、調子の悪いときにカードを使ったって、ろくな結果が出やしない。
そのとき、目の前を通り過ぎたひとりの老人が彼女の目を引いた。
「ちょっとあんた!」
女のよく通る声に、呼び止められた老人がびくっとして振り返る。改めて彼の全身を眺めると、彼女は体の奥のほうからピリピリした毛のそばだつような興奮を覚えた。調子がいいと必ず訪れる、独特の感覚だ。目を丸くしている老人に、女はにっこりと微笑みかけた。
「あんた、落ち込んでるね」
老人は猜疑心に満ちた目で女を頭から足の先まで眺め回す。
「それくらい、見たらわかるだろう。それっぽっちで金をとる気か、インチキ占い師め」
立ち去ろうとする老人に、女は続けていった。
「探し物がいくら探しても見つからないから、落ち込んでるんでしょ」
男は足を止めた。
「俺のあとでもつけてたのか。その手には乗らんぞ」
女はにやりと笑うと、今度は無駄のない機敏な動きで、無造作に散りばめられたカードを手に取った。客の足が止まればほぼ確実にモノにできることを、彼女は知っていた。
「とんでもない。あたしは何時間も前からここに座ってるんだよ。でもわかるんだ。あたしは本物の占い師だからね」
そして手際よくカードを切り始める。
「あんた、大事な奥さんへの贈り物を探してるんだろ? でも、何軒回ってもお目当てのものが見つからないから、諦めて家へ帰ろうとしてる」
老人はまだ半信半疑な面持ちで、しかしゆっくり女のもとへ近寄ってきた。
「何軒どころじゃない。心当たりを十軒は回ったぞ。……あんた、俺の探し物が当てられるのか」
女は肩をすくめた。
「何かまではわからない」
「わからないだと! やっぱり口から出まかせのインチキか。仲間でも使ってやってるんだな!」
しかし女性は余裕の表情でいった。
「いったでしょ、あたしは本物の占い師なの。わからないことまででっちあげるのがインチキってもんでしょ。あたしは、あたしにわかることしか伝えない。でも、あんたの役には立つと思うわよ。これから、その探し物の在り処を教えてやろうってんだから」
男は女の前にしゃがみこんだ。
「当たらなかったらいいふらしてやるぞ」
女はカードを混ぜ合わせながら目を閉じた。
「どうぞご自由に。それより集中するからしゃべらないで」
男は再び憤慨したように何か言おうとしたが、突然無口になった女の様子に思わず固唾を飲んでいた。女は丹念にカードを混ぜ合わせたあと、不規則に並んでいるように見えるカードの中から丁寧に一枚、また一枚とめくっていった。その絵模様は、人や動物、物がかたどられたものから、抽象的な幾何学模様まで様々で、女がこれらのカードの何を見ているのか、男には皆目見当がつかなかった。
男が何もいえずに沈黙していると、カードを四枚めくったところで、女が目を開けた。
ひとりひとりを凝視しながら、彼女はため息をついた。
今日は調子が悪いらしい。
気を取り直して、目の前に置いてあったカードを手に取る。目を閉じ、大きく深呼吸してからカードを切り混ぜる。全神経を集中させてしばらく混ぜたあと、彼女は投げやりに手元にカードを茣蓙の上に放り出して天を仰いだ。
だめだ、調子の悪いときにカードを使ったって、ろくな結果が出やしない。
そのとき、目の前を通り過ぎたひとりの老人が彼女の目を引いた。
「ちょっとあんた!」
女のよく通る声に、呼び止められた老人がびくっとして振り返る。改めて彼の全身を眺めると、彼女は体の奥のほうからピリピリした毛のそばだつような興奮を覚えた。調子がいいと必ず訪れる、独特の感覚だ。目を丸くしている老人に、女はにっこりと微笑みかけた。
「あんた、落ち込んでるね」
老人は猜疑心に満ちた目で女を頭から足の先まで眺め回す。
「それくらい、見たらわかるだろう。それっぽっちで金をとる気か、インチキ占い師め」
立ち去ろうとする老人に、女は続けていった。
「探し物がいくら探しても見つからないから、落ち込んでるんでしょ」
男は足を止めた。
「俺のあとでもつけてたのか。その手には乗らんぞ」
女はにやりと笑うと、今度は無駄のない機敏な動きで、無造作に散りばめられたカードを手に取った。客の足が止まればほぼ確実にモノにできることを、彼女は知っていた。
「とんでもない。あたしは何時間も前からここに座ってるんだよ。でもわかるんだ。あたしは本物の占い師だからね」
そして手際よくカードを切り始める。
「あんた、大事な奥さんへの贈り物を探してるんだろ? でも、何軒回ってもお目当てのものが見つからないから、諦めて家へ帰ろうとしてる」
老人はまだ半信半疑な面持ちで、しかしゆっくり女のもとへ近寄ってきた。
「何軒どころじゃない。心当たりを十軒は回ったぞ。……あんた、俺の探し物が当てられるのか」
女は肩をすくめた。
「何かまではわからない」
「わからないだと! やっぱり口から出まかせのインチキか。仲間でも使ってやってるんだな!」
しかし女性は余裕の表情でいった。
「いったでしょ、あたしは本物の占い師なの。わからないことまででっちあげるのがインチキってもんでしょ。あたしは、あたしにわかることしか伝えない。でも、あんたの役には立つと思うわよ。これから、その探し物の在り処を教えてやろうってんだから」
男は女の前にしゃがみこんだ。
「当たらなかったらいいふらしてやるぞ」
女はカードを混ぜ合わせながら目を閉じた。
「どうぞご自由に。それより集中するからしゃべらないで」
男は再び憤慨したように何か言おうとしたが、突然無口になった女の様子に思わず固唾を飲んでいた。女は丹念にカードを混ぜ合わせたあと、不規則に並んでいるように見えるカードの中から丁寧に一枚、また一枚とめくっていった。その絵模様は、人や動物、物がかたどられたものから、抽象的な幾何学模様まで様々で、女がこれらのカードの何を見ているのか、男には皆目見当がつかなかった。
男が何もいえずに沈黙していると、カードを四枚めくったところで、女が目を開けた。
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