サラマ・アンギュース~王位継承者

若山ゆう

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【第五部:聖なる村】第四章

目利き

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 初仕事で予想外の訪問者がいたことは、ゼムズにとっては幸運だったようだ。的確な仕事ぶりはデューカンへ報告されたようで、それからたびたび声がかかるようになった。何度か仕事をするうちに、キーロイが少しずつ内情を話すようになっていた。

 デューカンの一味は、二つのグループに分かれて盗みを働いている。チームワークを駆使するため、固定したメンバーで行動するのだ。それぞれの持ち場も、適性を見て判断されていた。

「なるほど。いつまでたっても外の見張りをしている俺は、この先もずっと見張りなわけだな」
 不満ともとれるいい方で、ゼムズがキーロイのほうを見やる。
「まあ確かに、おまえは小柄だからな、見張りをするには心もとない」

 そういって笑うと、キーロイは表情を変えずゼムズを一瞥し、やがて手元の革袋から何かを取り出した。

「これを見てみろ」

 キーロイが手のひらを広げると、そこには透明の丸い玉がいくつか乗っていた。手を握ればすっぽり隠れてしまうほどの、小さな玉だ。キーロイはそれをゼムズの目の前に置いた。

「これは何だか当ててみろ」
「何?」
「売りさばく価値があるものかどうか、見極めてみろ」

 突然のキーロイの指示に、ゼムズは困惑しながらもとりあえず玉のうちのひとつを手に取った。表面の滑らかな、無色透明の球体だ。宝石か何かだろうか。物が小さいせいか、それほどの重みは感じない。ゼムズは二本の指で玉を摘まむと、目の前にかざしてみた。よくわからないが、不純物などは混ざっていない……ように見える。
 ゼムズはしばらくの間それらしく観察してみたが、はっきりいってそれが何なのか、皆目見当がつかなかった。とりあえず、透明な玉で思いつくものを何とか口にしてみる。

「これは……ガラス玉か? ガラス玉なら安いんだろ。あとは、何だ……何ていったっけ、高級な腕輪とかに使うやつなら、高いんだろ……」

 堪えきれずにキーロイが笑い出す。

「話にならねえな、おまえ」
 そしてゼムズの手元から玉を奪い返すと、再び袋にしまった。
「今のは水晶だ。おまえがいうところの、『高級な腕輪とかに使うやつ』だよ」

「なんだ、惜しかったじゃねえか」

 さらにキーロイが声を上げて笑った。

「馬鹿か、おまえ。見分けがつくどころか、水晶の名前すら出てこないんじゃあ、目利きは無理だな。そんなんじゃあ、盗みに入っても見当違いのもんを盗ってくるか、運よく本物を掴んでも、散々安く買い取られて終わりだ」

 ゼムズはむっとしていい返した。

「なんだよ、今まで盗みなんてしたこともないし、家が金持ちなわけでもねえ。わからなくて当然じゃないかよ」

 キーロイはやっと笑い終えると、今度は嫌味のない笑顔を浮かべた。

「だからな、役割にも向き不向きがあるっていってんだよ。おまえは用心棒として生きてきて、腕っぷしには自信がある。見張りに向いている。盗みに入る人間は、腕っぷしなんかより目利きができなくちゃ始まらねえ。こっちのほうが、よっぽど難しいんだよ。訓練や、もともとの嗅覚も必要だ。盗みに入り、手際よく物色して効率よく盗むのはな、俺にしかできねえんだよ」
「けっ、かっこつけやがって」

 いうに事欠いて捨て台詞を吐いてみたが、その声音から予想以上に敗北感がにじみ出てしまい、ゼムズはバツが悪くなった。居心地の悪さを払拭しようと、ゼムズは言葉を継いだ。

「目利きがおまえだけだったらよお、もうひとつのグループは誰が主導してるんだ」
「今は、デューカンだな」
「今は……?」

 キーロイがうなずいた。

「以前は、ジャン・ガールがやっていた。前にも話したか? あいつの腕は誰もが一目置いていた」

 久々にゼムズの胸が高鳴った。ジャン・ガール。それこそ、ゼムズが情報を聞き出したい男の名だ。自然な流れで話題に上ったのだから、何とかもっと多くを引き出さねば。
 ゼムズが言葉を見つける前に、キーロイが続けた。

「あいつがいなくなるまでは、デューカンはもう引退していて、完全に奴に任せていたんだ。今は、デューカンが指揮を執りながら、見込みのありそうな奴に目利きを教えている」

 このままでは話題が変わってしまう。ゼムズはなるべく自然に話を戻した。

「ジャン・ガールは、そんなに腕がよかったのか?」
「ああ。まだグループがひとつしかなかったころは、俺が二番手の目利きとして、一緒に働いていた。なんせ短時間に的確に判断していたし、きわどい事態になっても絶対捕まらず、逃げ足も速かった」
「……だが、例の紋章事件のときは、逃げられなかったわけだろ」

 すると、キーロイの眼光が鋭く光った。

「だから、あいつは嵌められたんだ。不意打ちでも食らわない限り、あいつがやられるわけがない」
「だが、まんまと宮殿の警吏に捕まり、そのあと誰かに襲われて……二回もやられてるじゃないか」

 ゼムズの反論に、キーロイは幾分冷静さを取り戻して首を横に振った。

「警吏には、わざと捕まったんだよ。恐らくは、自分は無実だからすぐ釈放されると思っていたか、途中で逃げられる自信があったか」

 確かに……。

 ゼムズは思い返していた。

 俺を捕まえたって、意味はない。そんなようなことを、自信たっぷりにいっていた気がする。だが、仮に濡れ衣だとしても、あの状況で無罪放免なんて到底確信できなかったはずだし、国内一の警吏部を相手に簡単に逃げられると考えるのも、いくらなんでもおこがましいだろう。

 いくら考えても、やはりそこには不自然さが付きまとうのだった。ゼムズは思い切って訊いてみることにした。

「いくら逃げ足が速くったって、お縄になっちゃそう簡単には逃げられないだろう。何か、特別な技でもあるのか?」

 すると、キーロイは振り向いてゼムズの目をまっすぐ見つめた。
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