1 / 13
1
しおりを挟む
「ねえ、お茶が冷めてるのだけれど」
「申し訳ございません、お嬢様」
「申し訳ございません。じゃなくて冷めてるって言ってるの。謝罪する前に熱い物を用意しなさいよ」
カシャーンとカップの割れる音が食堂に響き渡る。
侍女たちが割れたカップを回収し、掃除をする中、それを酷い笑みで眺める女性が一人。
それはソフィア・アンフォール。
私と同じウェーブのかかった金色の髪と青い瞳。
性格が出ているのか、口元は少し曲がっているようにも見える。
傲慢で我儘で、どうしようもない妹だ。
「あらマリアお姉様。一緒にお茶でもいかが?」
「いいえ。私は一人でいただくわ」
「私と一緒じゃ嫌かしら?」
「ええ。人を大事にしない人なんかとは飲みたくないわ」
妹は私の言葉に舌打ちをする。
私はそんな妹を無視して侍女たちの掃除の手伝いを始めた。
「マ、マリアお嬢様、そんなことしなくとも……」
「いいのよ。私が好きでしていることなのだから」
「……ありがとうございます」
「あなたたちこそ、我儘な妹の相手をしてくれていつもありがとう」
私が笑みを向けると、侍女たちはうっすらと涙を目元に浮かべていた。
その様子を見ていたソフィアはまた舌打ちをし、食堂を出て行ってしまう。
侍女たちの緊張は解け、少し笑みをこぼす。
「おおマリア。何をしておるのだ?」
「お父様。ソフィアの後始末をしていますの」
「ソフィア……本当にどうしようもない娘だ」
お父様とお母さまがやって来て、この状況を聞いて深くため息をついている。
二人もソフィアの性格には悩まされているらしくどうしたものかといつも悩んでいるようだ。
「しかしソフィアと比べて、マリアは出来たいい子だわ」
「そんなことありませんわ、お母さま」
「いいえ。マリアお嬢様は素晴らしい人でございます! 私たちにも分け隔てなく接してくれて、皆マリア様をお慕いしております」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
侍女たちはそれが事実だと真剣な表情で私に伝えてくる。
その温かさが伝播し、私は胸を熱くさせていた。
「これだけいい子に育ったんだ。ルーファウス殿もさぞかし喜んでくれているだろう」
ルーファウス・エルレガーダ。
エルレガーダ侯爵家の跡取りで私の婚約者。
彼との婚約が決まった時、両親はとても喜び、あの時の表情を今でも忘れられない。
私はそんな両親、そして侍女に囲まれ温かい毎日を送っていた。
ソフィア以外には何も言うことは無い、順風満帆な日々であった。
「申し訳ございません、お嬢様」
「申し訳ございません。じゃなくて冷めてるって言ってるの。謝罪する前に熱い物を用意しなさいよ」
カシャーンとカップの割れる音が食堂に響き渡る。
侍女たちが割れたカップを回収し、掃除をする中、それを酷い笑みで眺める女性が一人。
それはソフィア・アンフォール。
私と同じウェーブのかかった金色の髪と青い瞳。
性格が出ているのか、口元は少し曲がっているようにも見える。
傲慢で我儘で、どうしようもない妹だ。
「あらマリアお姉様。一緒にお茶でもいかが?」
「いいえ。私は一人でいただくわ」
「私と一緒じゃ嫌かしら?」
「ええ。人を大事にしない人なんかとは飲みたくないわ」
妹は私の言葉に舌打ちをする。
私はそんな妹を無視して侍女たちの掃除の手伝いを始めた。
「マ、マリアお嬢様、そんなことしなくとも……」
「いいのよ。私が好きでしていることなのだから」
「……ありがとうございます」
「あなたたちこそ、我儘な妹の相手をしてくれていつもありがとう」
私が笑みを向けると、侍女たちはうっすらと涙を目元に浮かべていた。
その様子を見ていたソフィアはまた舌打ちをし、食堂を出て行ってしまう。
侍女たちの緊張は解け、少し笑みをこぼす。
「おおマリア。何をしておるのだ?」
「お父様。ソフィアの後始末をしていますの」
「ソフィア……本当にどうしようもない娘だ」
お父様とお母さまがやって来て、この状況を聞いて深くため息をついている。
二人もソフィアの性格には悩まされているらしくどうしたものかといつも悩んでいるようだ。
「しかしソフィアと比べて、マリアは出来たいい子だわ」
「そんなことありませんわ、お母さま」
「いいえ。マリアお嬢様は素晴らしい人でございます! 私たちにも分け隔てなく接してくれて、皆マリア様をお慕いしております」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
侍女たちはそれが事実だと真剣な表情で私に伝えてくる。
その温かさが伝播し、私は胸を熱くさせていた。
「これだけいい子に育ったんだ。ルーファウス殿もさぞかし喜んでくれているだろう」
ルーファウス・エルレガーダ。
エルレガーダ侯爵家の跡取りで私の婚約者。
彼との婚約が決まった時、両親はとても喜び、あの時の表情を今でも忘れられない。
私はそんな両親、そして侍女に囲まれ温かい毎日を送っていた。
ソフィア以外には何も言うことは無い、順風満帆な日々であった。
54
あなたにおすすめの小説
殿下をくださいな、お姉さま~欲しがり過ぎた妹に、姉が最後に贈ったのは死の呪いだった~
和泉鷹央
恋愛
忌み子と呼ばれ、幼い頃から実家のなかに閉じ込められたいた少女――コンラッド伯爵の長女オリビア。
彼女は生まれながらにして、ある呪いを受け継いだ魔女だった。
本当ならば死ぬまで屋敷から出ることを許されないオリビアだったが、欲深い国王はその呪いを利用して更に国を豊かにしようと考え、第四王子との婚約を命じる。
この頃からだ。
姉のオリビアに婚約者が出来た頃から、妹のサンドラの様子がおかしくなった。
あれが欲しい、これが欲しいとわがままを言い出したのだ。
それまではとても物わかりのよい子だったのに。
半年後――。
オリビアと婚約者、王太子ジョシュアの結婚式が間近に迫ったある日。
サンドラは呆れたことに、王太子が欲しいと言い出した。
オリビアの我慢はとうとう限界に達してしまい……
最後はハッピーエンドです。
別の投稿サイトでも掲載しています。
妹よりも劣っていると指摘され、ついでに婚約破棄までされた私は修行の旅に出ます
キョウキョウ
恋愛
回復魔法を得意としている、姉妹の貴族令嬢が居た。
姉のマリアンヌと、妹のルイーゼ。
マクシミリアン王子は、姉のマリアンヌと婚約関係を結んでおり、妹のルイーゼとも面識があった。
ある日、妹のルイーゼが回復魔法で怪我人を治療している場面に遭遇したマクシミリアン王子。それを見て、姉のマリアンヌよりも能力が高いと思った彼は、今の婚約関係を破棄しようと思い立った。
優秀な妹の方が、婚約者に相応しいと考えたから。自分のパートナーは優秀な人物であるべきだと、そう思っていた。
マクシミリアン王子は、大きな勘違いをしていた。見た目が派手な魔法を扱っていたから、ルイーゼの事を優秀な魔法使いだと思い込んでいたのだ。それに比べて、マリアンヌの魔法は地味だった。
しかし実際は、マリアンヌの回復魔法のほうが効果が高い。それは、見た目では分からない実力。回復魔法についての知識がなければ、分からないこと。ルイーゼよりもマリアンヌに任せたほうが確実で、完璧に治る。
だが、それを知らないマクシミリアン王子は、マリアンヌではなくルイーゼを選んだ。
婚約を破棄されたマリアンヌは、もっと魔法の腕を磨くため修行の旅に出ることにした。国を離れて、まだ見ぬ世界へ飛び込んでいく。
マリアンヌが居なくなってから、マクシミリアン王子は後悔することになる。その事実に気付くのは、マリアンヌが居なくなってしばらく経ってから。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を
柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。
みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。
虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
私の元婚約者は、新しく婚約した妹の酷さを知らなかった
天宮有
恋愛
公爵貴族ジェードが、侯爵令嬢の私アイリスとの婚約破棄を言い渡す。
私の妹クーナスを新しく婚約者にするようだけど、ジェードはクーナスの酷さを知らない。
私が忠告するけど聞き入れず、ジェードは後悔することとなる。
その後、私に新たな婚約者が決まった頃に、謝罪に来たジェードが再び婚約して欲しいとやって来た。
ジェードは必死に頼むけど、私がジェードと婚約することはなかった。
ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。
ねお
恋愛
ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。
そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。
「そんなこと、私はしておりません!」
そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。
そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。
そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。
旦那様が遊び呆けている間に、家を取り仕切っていた私が権力を握っているのは、当然のことではありませんか。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるフェレーナは、同じく伯爵家の令息であり幼馴染でもあるラヴァイルの元に嫁いだ。
しかし彼は、それからすぐに伯爵家の屋敷から姿を消した。ラヴァイルは、フェレーナに家のことを押し付けて逃げ出したのである。
それに彼女は当然腹を立てたが、その状況で自分までいなくなってしまえば、領地の民達が混乱し苦しむということに気付いた。
そこで彼女は嫁いだ伯爵家に残り、義理の父とともになんとか執務を行っていたのである。
それは、長年の苦労が祟った義理の父が亡くなった後も続いていた。
フェレーナは正当なる血統がいない状況でも、家を存続させていたのである。
そんな彼女の努力は周囲に認められていき、いつしか彼女は義理の父が築いた関係も含めて、安定した基盤を築けるようになっていた。
そんな折、ラヴァイルが伯爵家の屋敷に戻って来た。
彼は未だに自分に権力が残っていると勘違いしており、家を開けていたことも問題ではないと捉えていたのである。
しかし既に、彼に居場所などというものはなかった。既にラヴァイルの味方はおらず、むしろフェレーナに全てを押し付けて遊び呆けていた愚夫としてしか見られていなかったのである。
婚約破棄からの復讐~私を捨てたことを後悔してください
satomi
恋愛
私、公爵令嬢のフィオナ=バークレイはアールディクス王国の第2王子、ルード様と婚約をしていましたが、かなりの大規模な夜会で婚約破棄を宣言されました。ルード様の母君(ご実家?)が切望しての婚約だったはずですが?その夜会で、私はキョウディッシュ王国の王太子殿下から婚約を打診されました。
私としては、婚約を破棄された時点でキズモノとなったわけで、隣国王太子殿下からの婚約話は魅力的です。さらに、王太子殿下は私がルード殿下に復讐する手助けをしてくれるようで…
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる