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「せ、精霊王……様」
「ああ、初めまして、ルビア。私が精霊王、イクス・ストウィックだ」
「は、初めまして」
どこまでも爽やかで優しい笑顔。
それが逆に怖い。
私は生贄としてこの方の元にやって来た。
生贄というのは、一体どういったことなのだろうか。
一体どんなことをさせられるのだろうか。
もしかして食べられるとか?
「…………」
穏やかに笑みを浮かべるイクス様の表情を見ながら、私は手を震わせる。
これから死んでいくと考えると、どうしても震えが止まらない。
「さあ。行こうか」
「は、はい」
イクス様が踵を返し、森の中へと入って行く。
私はガチガチに固まった足をなんとか動かし彼について行った。
胸が破裂しそうなほど心臓が暴れている。
吐き気がし、今にも泣き叫びそうだ。
私は俯きながら、葉っぱだらけの道を歩いていた。
「顔色が悪いみたいだけど、どうかしたのか?」
「い、いいえ……なんでもありません」
イクス様は心配そうに私の方に視線を向ける。
何故顔色が悪いのか、少し考えたら分かるはずだと思うのだけれど。
もしかしてこの方、性格が悪いのだろうか。
だって生贄が怯えているのなんて当然なのだから。
それをどうしただなんて、どうかしているわ。
森の中を沈んだ感情で歩いていると、幻想的な空間が広がっているのに気が付いた。
森の中では色んな色の精霊がフワフワと浮いている。
見た目は小さな宝石のよう。
それが上下左右、あらゆる方向で踊るように規則性のない動きを見せていた。
「……綺麗」
「ははは。気に入ってもらえたようで嬉しいよ」
ハッとする私。
無意識に綺麗だなんて口にしてしまっていた。
ダメよ、私はここで生きていくわけじゃないの。
ここで死んでいくのよ。
しかしこんな幻想的で綺麗な場所で死んでいけるのは、ある意味幸せなのかもしれない。
禍々しい空間で殺されたら、魂までもが呪われそうな気もするから。
せめて魂ぐらいは救われたいもの。
「なあなあ姉ちゃん。姉ちゃんがルビア様だろ?」
「ええっ?」
突然現れた赤髪の少年。
彼は頭の後ろで手を組み、私のことを見上げている。
「レッド。無礼だぞ」
「えー。そうか? 別にいいよな、イクス様?」
「ああ。構わないよ。ただし、彼女が良いと言うのならね」
「ほら。イクス様も別にいいって言ってんじゃん」
ため息をつく緑色の青年。
赤髪のレッドと呼ばれた少年は無邪気な笑みを私に向けている。
「いやー、でも本当に綺麗な人だな。この人がイクス様のお嫁さんなんだ」
「……は?」
お嫁さんって……何?
「ああ、初めまして、ルビア。私が精霊王、イクス・ストウィックだ」
「は、初めまして」
どこまでも爽やかで優しい笑顔。
それが逆に怖い。
私は生贄としてこの方の元にやって来た。
生贄というのは、一体どういったことなのだろうか。
一体どんなことをさせられるのだろうか。
もしかして食べられるとか?
「…………」
穏やかに笑みを浮かべるイクス様の表情を見ながら、私は手を震わせる。
これから死んでいくと考えると、どうしても震えが止まらない。
「さあ。行こうか」
「は、はい」
イクス様が踵を返し、森の中へと入って行く。
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胸が破裂しそうなほど心臓が暴れている。
吐き気がし、今にも泣き叫びそうだ。
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だって生贄が怯えているのなんて当然なのだから。
それをどうしただなんて、どうかしているわ。
森の中を沈んだ感情で歩いていると、幻想的な空間が広がっているのに気が付いた。
森の中では色んな色の精霊がフワフワと浮いている。
見た目は小さな宝石のよう。
それが上下左右、あらゆる方向で踊るように規則性のない動きを見せていた。
「……綺麗」
「ははは。気に入ってもらえたようで嬉しいよ」
ハッとする私。
無意識に綺麗だなんて口にしてしまっていた。
ダメよ、私はここで生きていくわけじゃないの。
ここで死んでいくのよ。
しかしこんな幻想的で綺麗な場所で死んでいけるのは、ある意味幸せなのかもしれない。
禍々しい空間で殺されたら、魂までもが呪われそうな気もするから。
せめて魂ぐらいは救われたいもの。
「なあなあ姉ちゃん。姉ちゃんがルビア様だろ?」
「ええっ?」
突然現れた赤髪の少年。
彼は頭の後ろで手を組み、私のことを見上げている。
「レッド。無礼だぞ」
「えー。そうか? 別にいいよな、イクス様?」
「ああ。構わないよ。ただし、彼女が良いと言うのならね」
「ほら。イクス様も別にいいって言ってんじゃん」
ため息をつく緑色の青年。
赤髪のレッドと呼ばれた少年は無邪気な笑みを私に向けている。
「いやー、でも本当に綺麗な人だな。この人がイクス様のお嫁さんなんだ」
「……は?」
お嫁さんって……何?
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