婚約者は私より親友を選ぶようです。親友の身代わりに精霊王の生贄になった私は幸せになり、国は滅ぶようです。

22

　イクス様と結婚をして、四十年もの月日が流れていた。

　レイはあれから完全に気が狂ってしまったらしく、ラース様は相当苦労しているようだ。
　これも全ては彼が選んだ選択肢の結果。
　自分が蒔いた種なのだ。

　私は私の選択をした。
　イクス様との結婚……それはとても穏やかで幸せな日々である。
　精霊たちに囲まれた、素敵な毎日だ。

　私たちの間には子供も生まれ、これ以上ないぐらいに幸せだった。

「いい。あなたにはあなたの運命の人がいる。それは無理に探す必要はないの。きっと運命があなたの元にその女性を運んできてくれるはずだから」
「……父上の元に、母上が現れたようにですか？」

　父親と同じ白い髪をした私たちの息子は、父親とそっくりな笑顔を向けてそう言う。
　私は頷く。

「最初は生贄なんて不幸だと思っていたけれど……結局のところとても幸せだったわ」
「父上と母上の顔を見ていたら分かります。真の伴侶とはこんなにも素晴らしいものなのだと」
「ええ。いつになるかは分からないけれど、あなたはその人を待っていれば出逢えるはずよ」
「はい」

　力強く頷く息子。
　すると私の肩に柔らかい手が回される。

「お前も幸せになるんだよ。例えそれが人間であろうと、精霊の王だろうと同じことなんだ。幸せになるのが生まれてきた者の使命なのだから」

　息子にそう言ったのはイクス様。
　あの頃と全く変わらない美しい顔。
　歳をとって変わり続ける私。
　だけどイクス様は変わり続ける私を変わらず愛し続けてくれている。

　彼の綺麗な手に触れる。
　いつものようにイクス様は優しい笑みを私に向けてくれた。

「君が来た頃とは条件も色々と変わってしまった。だけど君の言う通り、運命の相手はきっと現れるに違いない。道から外れたことはせず、大きな流れに従っていればね」
「ええ。きっとこの子は大丈夫ですわ」

　イクス様と私は笑顔を向け合う。

「だってこの子は……私たちの息子なのですから」

　今日も森の中には優しい風が吹く。
　精霊たちは踊り、森の外にいる人々の楽し気な声が聞こえてくるようだ。

　私の残りの人生はどれぐらい残されているのかは分からない。
　でも確かなことが一つだけ。
　それは、きっと私は死ぬまで幸せなのだろうということだ。

　それはきっとこの世で一番大切なこと。
　私はイクス様と共に、幸せな生涯を送っていくのだ。

　おわり