『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』

佐伯かなた

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エラル・デュオニス公爵夫人編

三話

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「……どうして」

 きょとんとした表情をした後……彼女にしては珍しく、大きな声で笑いながら話し始める。

「どうしてって……このわたくしもコンバシオ王立学園の入学試験で上位の成績を収めたからに決まっているでしょう?」

「で、ではなくロー……ヴェルツィヘン嬢は何故──」

「──ああ! 貴女とは付き合いの浅いはずの公爵と名前で呼び合うなんて烏滸がましいけれど、私となら不快な噂を立てられることもないですわねぇ~! どうぞ、以降私の事はローゼリア・・・・・とお呼びになって?」

「たしかに、ヴェルツィヘン嬢との付き合いはそれなりにありますが……」

「──なるほど、この学園なら大丈夫だと思ったんすけどねぇ~……流石にダメかぁ~! じゃ、俺は先に教室に向かってるっすね! また後でッ!」

 伸びをするように腕を自身の頭上まで動かすと、そのまま大講堂のある校舎へと歩いていくデュオニス公爵。『ダメ』というのは、一体何に対しての言葉なのだろうか。

「……ええ、また」

 その後ろ姿にゆっくりとお辞儀をする私の背に、何やら視線が突き刺さっている。おそらくヴェルツィヘン嬢に無言で見つめ続けられているのだろう。

「えっと、ヴェルツィヘン嬢……まだ何か?」

 正門を抜けて校舎へと歩く生徒たちがいる中……彼女は不敵な笑みのまま、視線を合わせてくる。全くもって意図が分からない──沈黙がとても気まずい。

「──嫌いな人間を名前で呼びたくはない……かしら?」

 ──ああ、先ほどの話はまだ続いていらしたんですね。

「いえ、そういう訳ではないですが……私はもう、ただの公爵令嬢ですので」

 ローゼリア・ヴェルツィヘン公爵令嬢──『王立魔導学園中等部』に隣国のアルセルトス国から越境して通っていた当時の同級生だ。やたらと私に突っかかってきてはわざわざ耳元で嫌味ばかりを吐いてくるため、正直二度と会いたくはなかったし……そもそも実家が別の国にある彼女と会うことはそうそうないだろうと思っていた。
 
「……はぁ──クリスタに家を移したのは失敗でしたわね」

「──え?」

 当時──中央都市クリスタに存在する四つの地区の中で……最も中心部に近い第一地区に家を持っていたエルモード候爵家。他の国では考えられないだろうが、私は公爵家よりも権力を持つ候爵令息と婚約していた。
 アルセルトス国から来ていた彼女だけは、私に対して良くも悪くも壁を作らずに接してきたのは覚えている。しかし彼女は、三ヶ月前に私が婚約破棄を言い渡されたあの時──私がリリシア嬢を突き飛ばしていないというアリバイを証明できたのにもかかわらず、先ほどのように不敵に笑っているだけだった。あの場所にはエルモード侯爵の息がかかっていない貴族がいくらか居たらしい。だが彼女だけは確実に私を嘲笑う側の勢力であったと確信できる。
 風の噂でアルセルトス国では王族と婚約していたはずの彼女が、都市内の貴族と婚約したという話を聞いてはいたが、先ほどの発言から察するにどうやらそれは事実のようだ。

「──まさかまた貴女と学園生活を送らないといけないなんて……」

「あら、私はレーズワース公爵令嬢と同級生になれて嬉しいですわよ? あのような事があった後ですから……ううっ、私はレーズワース公爵令嬢のことが心配で心配で──でも、何食わぬ顔で登校している貴女を見て安心しましたわ」

 彼女は口元を左手で隠しながら優雅に微笑んでいる。何故かは分からないが、吐き出された言葉にあるような棘は──彼女の表情や仕草からは感じられない。

「エルモード侯爵令息とつるんでいる貴族は戯言たわごとしか言えないんですね、彼と同じように」

「戯言? ふふ……いいえ、仲良くなりたいというのは本当ですのよ? あの伯爵令嬢のように階段から突き飛ばされるほど嫌われてしまうのはごめんですもの~! ──では、ごきげんよう」

 エルモード侯爵と同一勢力であるはずの彼女は──この学園に入学した私が、今後成し遂げようとしているある目的に気付けば……必ず阻もうとしてくるだろう。

 ──でも、絶対にそんなことはさせない。私の復讐は誰にも邪魔させない。

 デュオニス公爵と同じように校舎へと向かう背中が、私の視界から消えるまでを見届ける。そして静かに、入学式が行われる大講堂へと歩みを進めることにした。
 
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