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エラル・デュオニス公爵夫人編
二話
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ここ、コンバシオ王立学園は──セントラル王国に存在する全ての教育機関を凌駕するほどの教育水準を誇る全寮制の学園だ。入学条件に身分は含まれておらず、厳しい試験を突破した中でも特に優秀な者のみが入学することを許されているため、上級貴族であっても容赦なくふるいにかけられる。
「うわぁ~、全っ然知らない子ばっかりっすねぇ~! 一応、顔が広い方だって自信はあったんすけど……やっぱり周辺諸国から集まった優等生達はオーラが違うなぁ」
セントラル王国──中央都市クリスタに住む貴族には本邸が都市の中心部に近ければ近いほど権威を持てるという共通のルールのようなものがある。
例えば……都市の中心部に家を持つ伯爵と、都市外に住む公爵では──前者の方が大きな権力を持つ、という風に。
この学園を卒業することさえできれば、セントラル王国内外の生徒関係なしに、この都市に移住することを許可される。平民であれば職に困ることなどなくなり、貴族であれば家が安泰どころか更に上の爵位を持つことができるかもしれない。
「うんうん、美しいご令嬢もたくさんッ! ワクワクが止まらないっすねぇ!」
そして、あそこでペラペラと独り言をつぶやいている赤髪のチャラ男──ローグ・デュオニス様は第一地区に住む大貴族。中央都市のみならず、セントラル王国に家を持つ貴族であれば大体が彼と顔を合わせたことがあるだろう。かく言う私もその一人だ。
──正門で堂々と貴族令嬢達にいやらしい視線を向けるところ以外は完璧な人間だと思う。
「そこのご令じょ……ん? おお! レーズワース公爵令嬢じゃないっすか!」
「……どうも公爵、ご無沙汰しております。三ヶ月前の社交界以来ですね」
「堅っ! ……う~ん、同級生になった今ならもっと気楽に話しかけて貰えると思ったんすけどね~」
「……お戯れを」
気楽に話しかけるなど──できるわけがない。
いくら呼ばれる本人がファーストネームで呼んで良いと許可したからといえどダメだ。
彼と私は爵位だけを見れば、同じ『公爵』ではあるのだが……そこには都市外に家を持つ者と都市内に家を持つ者という格差が存在する。それを無視するには『コンバシオ王立学園の同級生』という肩書きだけでは足りないのだ。
「いやいやいや、本気っすよ! ……てかこの学園の校風にもあるじゃないっすか!」
コンバシオ王立学園では貴族や平民、階級の隔たりをなくした学園生活を送れるという校風を謳っているが……実際の生徒は入学時の平民が二割ほどでその他はすべて貴族だ。卒業時に残っていられる平民は一割も満たないだろう。
理由は単純、教育に掛けられる資金の差がとてつもないから。
貴族はあらゆる教材や専門の講師に大金をはたくことで学力を身につける。対して平民は独力でそれを補わなければならないという圧倒的不利な条件を持ったまま入学し、卒業を迎えなければならない。
各学期末の試験で定められた数値以上の点数を獲得し続けられれば、卒業はできると入学者用の冊子には記載されていた。しかし、この学園を卒業した知り合いの話によると……どうやらそんな単純な話ではないらしい。
「だからほら、試しにッ! 試しにでいいから……ローグ公爵とでも呼んでみてほしいっす! なんなら気軽に名前で呼び合う仲にまでなれたら万々歳!」
眼前の眩しい笑顔を冷めた心で見つめながら思う。私には何が原因で足元を掬われるかが分からない。三ヶ月前と同じ轍を踏まないためには、私を陥れるという謀略に使われてしまうような行動は避け続けなければならない。
──彼には結婚相手がいるはず、軽率に振舞えば彼女の恨みを買ってしまう。
「……『同級生』というだけで公爵とそのような仲になるなど、畏れ多い」
私はそのまま丁重にお断りをしつつ、深くお辞儀をする。
「そこを何とかッ! チョロっとで良いっすから!」
……く、くどい。
勢いに押されて、思わず後ずさりをしてしまう私の元へ更に詰め寄るデュオニス公爵。
ふと、耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。
「──そうそう、アナタのような性悪が他人と下の名前で呼び合うなんて……考えただけでも気分が悪くなってしまいますわ~?」
私の肩に──私より高い位置から垂れる薄紅色の髪が掛かる。
「おや? はは……こりゃ驚きっすねぇ!」
「……ッ! 貴女は──ヴェルツィヘン公爵令嬢!」
至近距離に見える彼女の切れ長な目元。長い睫毛から覗かせるその瞳は、私の反応を無視したまま意味深げにデュオニス公爵へと向けられていた。
「うわぁ~、全っ然知らない子ばっかりっすねぇ~! 一応、顔が広い方だって自信はあったんすけど……やっぱり周辺諸国から集まった優等生達はオーラが違うなぁ」
セントラル王国──中央都市クリスタに住む貴族には本邸が都市の中心部に近ければ近いほど権威を持てるという共通のルールのようなものがある。
例えば……都市の中心部に家を持つ伯爵と、都市外に住む公爵では──前者の方が大きな権力を持つ、という風に。
この学園を卒業することさえできれば、セントラル王国内外の生徒関係なしに、この都市に移住することを許可される。平民であれば職に困ることなどなくなり、貴族であれば家が安泰どころか更に上の爵位を持つことができるかもしれない。
「うんうん、美しいご令嬢もたくさんッ! ワクワクが止まらないっすねぇ!」
そして、あそこでペラペラと独り言をつぶやいている赤髪のチャラ男──ローグ・デュオニス様は第一地区に住む大貴族。中央都市のみならず、セントラル王国に家を持つ貴族であれば大体が彼と顔を合わせたことがあるだろう。かく言う私もその一人だ。
──正門で堂々と貴族令嬢達にいやらしい視線を向けるところ以外は完璧な人間だと思う。
「そこのご令じょ……ん? おお! レーズワース公爵令嬢じゃないっすか!」
「……どうも公爵、ご無沙汰しております。三ヶ月前の社交界以来ですね」
「堅っ! ……う~ん、同級生になった今ならもっと気楽に話しかけて貰えると思ったんすけどね~」
「……お戯れを」
気楽に話しかけるなど──できるわけがない。
いくら呼ばれる本人がファーストネームで呼んで良いと許可したからといえどダメだ。
彼と私は爵位だけを見れば、同じ『公爵』ではあるのだが……そこには都市外に家を持つ者と都市内に家を持つ者という格差が存在する。それを無視するには『コンバシオ王立学園の同級生』という肩書きだけでは足りないのだ。
「いやいやいや、本気っすよ! ……てかこの学園の校風にもあるじゃないっすか!」
コンバシオ王立学園では貴族や平民、階級の隔たりをなくした学園生活を送れるという校風を謳っているが……実際の生徒は入学時の平民が二割ほどでその他はすべて貴族だ。卒業時に残っていられる平民は一割も満たないだろう。
理由は単純、教育に掛けられる資金の差がとてつもないから。
貴族はあらゆる教材や専門の講師に大金をはたくことで学力を身につける。対して平民は独力でそれを補わなければならないという圧倒的不利な条件を持ったまま入学し、卒業を迎えなければならない。
各学期末の試験で定められた数値以上の点数を獲得し続けられれば、卒業はできると入学者用の冊子には記載されていた。しかし、この学園を卒業した知り合いの話によると……どうやらそんな単純な話ではないらしい。
「だからほら、試しにッ! 試しにでいいから……ローグ公爵とでも呼んでみてほしいっす! なんなら気軽に名前で呼び合う仲にまでなれたら万々歳!」
眼前の眩しい笑顔を冷めた心で見つめながら思う。私には何が原因で足元を掬われるかが分からない。三ヶ月前と同じ轍を踏まないためには、私を陥れるという謀略に使われてしまうような行動は避け続けなければならない。
──彼には結婚相手がいるはず、軽率に振舞えば彼女の恨みを買ってしまう。
「……『同級生』というだけで公爵とそのような仲になるなど、畏れ多い」
私はそのまま丁重にお断りをしつつ、深くお辞儀をする。
「そこを何とかッ! チョロっとで良いっすから!」
……く、くどい。
勢いに押されて、思わず後ずさりをしてしまう私の元へ更に詰め寄るデュオニス公爵。
ふと、耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。
「──そうそう、アナタのような性悪が他人と下の名前で呼び合うなんて……考えただけでも気分が悪くなってしまいますわ~?」
私の肩に──私より高い位置から垂れる薄紅色の髪が掛かる。
「おや? はは……こりゃ驚きっすねぇ!」
「……ッ! 貴女は──ヴェルツィヘン公爵令嬢!」
至近距離に見える彼女の切れ長な目元。長い睫毛から覗かせるその瞳は、私の反応を無視したまま意味深げにデュオニス公爵へと向けられていた。
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