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#29 超絶不機嫌な王子様
しおりを挟む翌朝、アラームよりも少し早く目を覚ました私が寝ぼけ眼をパチパチさせつつ、スマホのアラームを解除しておこうと、なにげなく手を伸ばしたときのこと。
いつもならスムーズに動かせるはずの手が動かないばかりか、身動ぎすらできないという窮屈さを覚えた。
そんなに疲れている訳でもないのにおかしいなぁ。なんて思いつつ、ゆっくりと視線を身体へと下げていった刹那、あたかも抱き枕のように、後ろからすっぽりと包み込むようにして、二本の腕がしっかりと身体に巻き付けられている。
そういえば、昨夜から桜小路さんの寝室で寝起きすることになったんだっけ。
寝起きでまだちゃんと働かない頭が覚束ないながらも、昨夜の記憶へ辿り着いたちょうどそこへ。
「眠いからもう少し寝かせろ」
背後から私の耳元に顔をぴったりと寄せてきた桜小路さんに、寝起きだからか不機嫌極まりない掠れた低い声で囁かれてしまい。
その声が鼓膜を揺さぶるようにダイレクトに響いてきて、触れられている耳元から顔の側面にかけてが燃えるように熱くなってきた。
たちまち穏やかだった鼓動が急激に加速し、ドンドコドンドコ太鼓を打ち鳴らすように暴れまわっている。
今にも心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
けれどそんなオカルトな現象がそうそう起こるはずもなく、こういうとき漫画やドラマでお決まりの、それはそれはド派手な悲鳴をあげてしまうのだった。
「ギャ――!?」
そしたら間髪入れず、
「朝からうっさいッ!」
桜小路さんの地を這うようなひっくい怒声が耳元で轟いた。
鼓膜が裂けるんじゃないかと懸念する間も、耳を塞ぐような僅かな隙さえも与えられないまま、私の身体は桜小路さんによって呆気なく組み敷かれてしまうのだった。
昨夜と全く同じ状況だけれど、全く違う。
何故なら、驚いた私が見上げた先には、寝起きだというのに今日も安定の、桜小路さんのイケメンフェイスが鼻先スレスレまで迫っていたからだ。
吐息のかかりそうな至近距離で、視界いっぱいに映し出されている、超絶不機嫌そうなイケメンフェイスの迫力ったらなかった。
あんなに騒ぎまくっていたはずの心臓が緊急停止して、息の根を止められるかと本気で思ったくらいだ。
そうはいっても、人間というのはそう簡単には死なないらしく、今もこうして生きているのだけれど。
そんなくだらないやりとりを脳内で繰り広げていると、桜小路さんがふっと意味ありげな笑みを零した気配がして。
見やると、桜小路さんの切れ長の瞳が怪しい光を放っていた。
厳密にはそう見えただけなのだが、とにかくそう思った時には、私の耳たぶに唇を寄せてきた桜小路さんに耳を擽るようにして、
「朝から喚いて、俺の安眠を妨害するとはいい度胸だなぁ。そんなに俺に口を塞がれたいか?」
なんとも意地の悪い声音で囁かれてしまったのだ。
いくら恋愛経験の皆無な私でも、放たれた言葉の意味くらいはすぐに理解できた。
……といっても、昨夜、『飽きない』とか『つい、構いたくなる』とかなんとか言ってたくらいだ。
きっとフリだけで、こういうことに免疫のない私のことをからかっているだけなのだろう。
そうだと分かっていても、背筋がゾクゾクするような妙な感覚に襲われてしまい、得体のしれないその感覚に全身が呼応するようにさざめいて、なんだか無性に恥ずかしくなってきた。
自分で見ることはできないが、きっと顔どころか、全身真っ赤になっているに違いない。
そんな私のことなどまるで無視で、桜小路さんは私の顔のすぐ左側に手をドンッと突いてきた。
挙げ句に、もう片方の手では、しっかりと顎を捉えられ、気づいた時には、私は完全に逃げ場を封じられてもいて。
その不機嫌そうな口調といい、表情といい、どうやら安眠を妨害されて随分とお怒りらしい。
けれどなんだろう……。昨夜と雰囲気が随分と違っているような気がするのは。
ひょっとすると、ただ寝起きが悪いだけなのかもしれないが、不機嫌オーラを醸し出している桜小路さんの雰囲気からして、フリだと予想していた私の見当はどうやら外れ、危機的状況に追い込まれているらしい。
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