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#77 予期せぬ証言 ⑵
しおりを挟む愛梨さんの口からまさかそんなモノが出てくるとは思ってもみなかったから、一瞬呆然としてしまったけれど。
まだ昨日のことだし、記憶も鮮明に残っていた私は、そんなことありっこないと思いつつも……。
カメ吉に転生した愛梨さんという、摩訶不思議な現象のこともあるので、全くあり得ないこととも思いきれない。
だからといって、信じ切ることもできず。
「――えっ?」
驚きの声を放ってから、一拍ほどの間をおいて、半信半疑で問い返したところ。
「どうしてそんなこと知ってるんですか?」
【だって、この目で見てたんだもの】
愛梨さんは相変わらず見た目は亀なので、感情なんて読み取れないが、えらく得意げだ。
とても嘘をついているようには見えない。
――どういうことだろう? まさか、透視でもしたとか?
……いやいや、さすがにそれはないでしょ。
でも、そうでもしないと、見ようがなかったと思うんだけど。
「……えっ、でも、創太さんに会ったとき、って言うか、愛梨さんは、ずうっと応接室に居ましたよねぇ?」
あれこれ勘案しながら、難しい表情で腕組みを決め込んで、愛梨さんに尋問する私は、まるで名探偵気取りだ。
そんな名探偵気取りの私に、やっぱりどこか得意げに返してくれた愛梨さんからの答えは実に単純なモノだった。
【そうよ。だって、転た寝してたらいきなり道隆さんが入ってきて、その後すぐに創太くんが現れたんですもの】
透視でもなんでもなく、応接室での二人のやりとりを目撃していたらしい。
愛梨さんの説明によると……。
創太さんのことを呼び出していたらしい道隆さんが、私に自分の連絡先を記したメモを渡してほしいといって、創太さんにあのメモを託していたらしいのだ。
そのことを聞かされた私は、すぐにパウダールームのゴミ箱からあのメモを探しだしキッチンへと戻ってきた。
それからは、さっきまでは創さんと苺のタルトのことしか頭になかった私の頭には、昨日対面したばかりの父親のことで埋め尽くされてしまい。
作業の邪魔だからと隅に追いやっていた椅子を引き寄せ腰掛けた私は、作業スペースにだらりと突っ伏したままだ。
そうして時折、十一桁の携帯番号が記されたメモを眺めては、大きな大きな溜息を垂れ流してしまっていた。
――私と会っても、顔色一つ変えなかったクセに。
私のことなんて、どうでもよかったんじゃないの? 私なんて、邪魔な存在でしかないんじゃないの? なのに、今更なんの用があるって言うんだろう?
そうは思うのに……。
もしかしたら私のことを気にかけてくれてるのかな? 何か事情があって、会えなかっただけで、本当は会いたいって思ってくれてたのかな?
なんて、期待めいたモノがヒョッコリと顔を出す。
けれども、父親のことを何も知らないため、こうして浮上しかけた気持ちをまたネガティブな思考が邪魔をして、また沈んで、その堂々巡り。
そうやって、私が浮き沈みしていた間。
いつもは空気の全く読めない愛梨さんも、複雑な私の心情を察してか、はたまたただ眠いだけなのか、えらく静かだなと思ったら、転た寝中だったようだ。
お陰で、だだっ広いキッチンは静寂に包み込まれていて、なんとも物寂しい、暗い雰囲気に満ちていた。
✧✦✧
しばらく経った頃。
【菜々子ちゃんッ!】
転た寝中だと思っていた愛梨さんから、突如大きな声が飛び出してきて、驚きすぎた私は、危うく椅子から転げ落ちるところだったのをなんとか堪えて、ホッと胸を撫でかけている私の元に、愛梨さんの底抜けに明るい、ポジティブな声音が立て続けに放たれた。
【一度会ってみればいいのよ。いくら離れていたっていっても本物の親子なんだもの。きっと長年のわだかまりも解けて、分かり合えると思うわぁ】
確かに、そうなのかもしれないけど、どうしても尻込みしてしまう。
父親にとって、もしも本当に自分の存在が邪魔で、私のことを排除しようとしてるのだとしたら、そう思うと、怖くてしょうがない。
残酷な真実を突きつけられてしまったら、今度こそ立ち直れそうにないんだもん。
どんどんネガティブな思考に侵食されゆく。
このままどこまでも沈んでいきそうになっていたところに。
【菜々子ちゃん、そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。道隆さん、菜々子ちゃんのこととっても心配してたみたいだったから。それに、菜々子ちゃんには婚約者である創がついてくれてるんだから、大船に乗ったつもりで、ドーンと構えていればいいのよ。きっとうまくいくから安心なさい】
流石は親子。そう思うくらいに、創さん並の自信たっぷりな口調で、そう言ってきた愛梨さんの言葉が胸にグッときて一瞬、泣きそうになってしまったけれど。
愛梨さんのと言葉と、創さんの存在に後押しされて。
――そうだ。私には創さんがついてくれているんだから、大丈夫。昨日はちゃんと話す機会もなかったし、一度くらい話を聞いてみてもいいかも。
そう思い始めていた。
ちょうどその頃。
帝都ホテルの応接室で、
「これ以上、あの娘《こ》を巻き込まないでくれないか」
「不倫して子供まで作っておいて、ゴミ屑のように捨てたクセに、今更。物は言いようですねぇ。菜々子のことが貴子伯母さんにバレるのが怖いだけでしょう」
「創くんこそ、咲姫の身代わりにしてるんじゃないのか?」
父親である桜小路道隆さんと婚約者である創さんとが真っ向から対峙していたなんて、夢にも思っちゃいなかった。
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