【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎

文字の大きさ
50 / 58

僕の光 ※ミカイル視点

しおりを挟む
 とっても綺麗な子だね。
 まるで、神様からの贈り物のような子だね────
 
 そんな、僕への称賛。僕を褒め称える言葉達。
 それらは、僕にとって日常の一部分でしかなかった。
 僕を好きにならない人間なんていない。僕を愛さない人間なんていない。
 幼いながらもそれは自明の理だと分かっていて、それが当たり前なのだと、当然のことなんだと信じて疑わなかった。

 けれど───それが覆ったのはあの日。
 母様の親友の息子だと言って紹介されたのは、眼鏡をかけた地味そうな男の子。それが、ユハン・イーグラントだった。
 初めは少しの違和感でしかなかった。でも明確に変だと気づいたのは、ケーキの事件の時。
 僕は別にイチゴのタルトなんてどうでも良かったけど、あえてその時は同じものを選んだ。当時の僕は、譲ってくれることに悦を覚えていたから。彼もきっと、喜んでそれを渡してくれると思った。
 でも実際はそうじゃなかった。ユハンは強い眼差しで、僕の言葉に反論をした。
 まさか僕の頼みを聞いてくれない人がこの世界にいただなんて。僕には信じられない気持ちでいっぱいだった。

 それから僕は悔しくて、ユハンにまた来てほしいと言った。次は絶対に抵抗なんてさせない。僕の方が上だと、そう思わせるために。
 彼への気持ちなんて、初めはそんな、プライドからくる対抗心のようなものしか感じていなかった。

 だけどそれから数ヵ月が経って、僕はとんでもない事実を知ることになった。
 家の書斎でいつも通り読書をしようと思ったら、ふと目に留まり、導かれるようにして僕はその本を取った。
 タイトルはなし。表紙は薄汚れてボロボロで、パラパラと中を捲ってみれば、黄ばんだ紙に手書きの文字が羅列されている。恐らく、誰かの手記のようだ。
 僕は気になって、その中身を読んだ。
 
 ……聖女の手記だった。
 彼女の、懺悔がそこには記されていた。

 ────
 私は過ちを犯してしまいました。
 皆が私を聖女だと崇め、敬うのは間違いなのです。

 私には、普通の人にはない力があります。

 何をせずとも強制的に好意を抱かせ、瞳をじっと見つめるだけで、自分の思い通りに操ることのできるその力の名は────魅了。
 私は元々、人から好かれやすい性質の人間だと思っておりました。
 ですが、王宮を陥落させ、その地下に眠る古書でそれを知ったとき、それらは全て紛い物だと気づいたのです。共に戦ってきた仲間も、魅了によって私の意思に同調し、戦わなければと思い込まされただけ。

 まるで、悪魔のような力だと思いました。私が、彼らを殺してしまったも同然なのです。

 王も、決して私の言葉によって改心したわけではありません。私の持つ、この魅了という力が王を惑わしただけに過ぎないのですから。

 しかし、いくら暴政を敷く王といえども、人の意思を勝手にねじ曲げるのは決してあってはならないこと。
 そして、共に戦ってきた仲間達のことだって。

 私は聖女と持て囃されるような、そんな綺麗な人間ではなく、悪魔の力を持った魔女でした。

 誰にも言えず、ここに懺悔を記すことを、どうかお許しください。

 ヴェラ・アイフォスター
────


 衝撃だった。言葉も出なかった。
 聖女が僕の先祖だとか、力を使って王を惑わせただとか、そんなことはどうでもよくて。
 魅了という力の効果に、僕は覚えがあった。

 初めて僕を見た人間は、まるで魂が抜けたかのように顔を呆けさせた。加えて顔をじっと見つめると、いとも容易く相手は僕のお願いを聞いてくれた。
 当たり前だけど僕はそれを、純粋な好意からくるものだと、そう信じて疑ってこなかった。 
 でも、思い返せばそれは少し変だったのかもしれない。まるで、自分の意志がなくなったかのように、相手は意見をコロッと変えるんだ。

 それに気づいてしまえば、信じられないほどの恐怖が僕を襲っていた。
 皆は、僕を好きなんじゃない。魅了によって、思い込まされているだけ。

 途端に全てが信じられなくなった。
 母からもらう愛情も、父から向けられる笑顔も。 
 使用人たちから掛けられる、僕を褒める言葉も。
 その、何もかもが。

 心が壊れそうになった。誰の言葉も聞きたくなくなった。

 でも────そんな僕を救ってくれたのが、ユハンだった。

 唯一、僕の言うことに従ってくれなくて、いつも僕を真っ直ぐ見つめてくる男の子。
 どうして魅了が効いていないのかは分からなかった。だけど、その存在は僕を酷く安心させた。
 ユハンだけが、本当の僕を見て、本物の感情をくれたんだ。執着心を抱くには、十分すぎる理由だった。

 だから、ユハンが僕の家に来てくれなくなった時は、すごくすごく焦った。
 僕以外の友だちができたと聞いたときは、はらわたが煮えくりそうなくらい、怒りで脳が支配された。
 一緒に学園へ行けないと分かったときは、寂しくて寂しくて、僕からユハンを離そうとするこの世の全てを恨んだ。
 気づけばユハンは僕にとって、なくてはならない、他に替えがきかない、大切で大事な友だちへと変化していた。

 それでも先に学園へ行ったのは、ある計画のためだった。
 本当は無理やりにでもユハンを連れてくることはできたけど、そうしなかったのは彼から僕以外の人間を遠ざけるため。
 あえて一年早く行って、周囲の人間にユハンを嫌うよう仕向けた。
 僕はこのときほど、魅了の力をあやかったことはない。これなら例え、ユハンが他の友だちを欲しがっても、変わらず僕とだけ仲良くしてくれると思った。

 
 そして、僕が学園から帰ってきたときのこと。
 今までユハンに対して感じていた友情に変化があった。

 久しぶりに会ったユハンから離れたくなくて、一緒のベッドで横になったあの時。
 彼から僕を思い出せるようイメージしたペンを作ったと聞いて、まさかそんな風に想ってくれてたなんて知らなくて。いつの間にか僕の脳を支配していたのは、ユハンへの溢れ出そうなくらい愛おしいという感情。そして、気づけば彼の唇に、僕は自分のものを押し当てていた。
 あの時は衝動的すぎて、自分でも驚いていたけど、すぐに分かった。僕がユハンに抱いているのは恋愛感情なんだって。自覚したのはこの時だったけど、多分ずっと、僕は彼に対してこの感情を抱えてた。
 でもすぐにそれは無謀な想いだと理解した。ユハンが僕に抱いているのはただの友情だ。だからそんな彼にこの気持ちをぶつけてしまって、気持ち悪がられるのが怖かった。嫌われるのが酷く恐ろしかった。
 だから僕は……その気持ちを隠すことにした。そして、恋人になれないなら彼の一番に在り続けようと思った。時々暴走する独占欲が言うことを聞かなくて、ユハンに無理を言ってしまう時はあったけど、友情の範囲をギリギリ越えないよう頑張ったつもりだった。

 
 けれど、僕の気持ちはどんどんと膨らんでいくばかりで、抑えはきかなかった。

 
 まずはハインツ。
 あいつは魅了に絶対かかっているはずなのに、何故か僕の予想に反して、ユハンと親しくなった男。 
 でも、それはまだ許せた。何故ならハインツの父親は、イーグラント卿に詐欺をした張本人だから。 
 僕の力を使って裏事情に詳しい人間に調べさせれば、すぐに分かった。
 ディーゼル家は裏では汚い商売や、悪事に手を染めている。まさかその父親からあの子供が育つのは意外だったけど、ハインツがいくらユハンと仲良くなったところで、この事実をユハンに言えばいつでも二人を引き離すことはできた。だからまだ我慢できた。

 
 そして……アルト・ランヴォルグ。
 いつの間にかユハンと知り合いになっていた男。
 僕が魅了という、国をも支配できる力を手にしていることは、一年の時アルトに一目見られただけでバレた。そして、その繋がりで担任のタルテにまで。
 今は魔導具で魔力を補っているようだけど、バレる前は先生も魅了にかかっていて動きやすかったのに。アイツらは僕の行動を監視するようになって、国王との対話の場まで設けられるようになった。とても面倒だったけど、流石にそれを断ることはできなくて、ユハンと接触したのも僕が国王に呼ばれた時なんだろう。
 魔法への好奇心が人一倍強いアルトには、ユハンの存在を絶対に隠したかった。僕の魅了にも強い関心を示していたアイツが、それが効かない人間なんてものに出会したら絶対に興味を持つ。ユハンに何をされるか分からないから、僕は遠ざけたかったんだ。
 でも、アイツはユハンと親しくなって僕を脅すようになった。魔力量が恐らく僕と同等のアルトには魅了は効かない。それをいいことに、もし僕が変なことをすればユハンに力のことをバラす、と。
 それだけは絶対に避けたかった。力を使ってユハンへ誰も近づかせないようにしていることなど、絶対に知られたくはなかった。
 だから必死に耐えて。

 耐えて、耐えて、耐えるために────

 僕は、ハインツを利用した。

 彼には抱えている悪事があるから、その罪を償わせるのにちょうどいい。
 僕はハインツに強い魅了をかけた。ユハンを嫌うように、憎むように。
 そして、それは予想以上に功を奏して、ハインツはユハンから離れた。もちろん傷ついたユハンを見るのは僕も胸が痛んだけど、これで僕を頼って、彼には僕しかいないって思って欲しかった。

 
 それ、なのに────

 どうして……、

 どうしてどうしてどうして……!!!


 ユハンが、アルトのことを好きだと言ったとき。
 ずっとずっと、欲しくてたまらなかったその言葉を僕じゃない他人に告げたとき。

 怒りなのか、悲しみなのか、憎しみなのか、あるいはそれ全部なのか。
 僕の視界は真っ赤に染まっていた。何も考えられなかった。
 我を忘れるって、こういうことなんだろう。

 もう、何もかもどうでもよくて。
 子供の頃の、純粋に我が儘ばかりかざしていた自分が表に出てきて。
 ずっと我慢してきた、ユハンのことが好きで好きでしょうがない僕の気持ちが溢れて止まらなくて。
 したかったことをした。触りたかったから触った。

 だから……、

 だから────



 きらいになるなんて、いわないでほしかった。

 
 涙で前も見えない。
 ユハンはあの時、どんな顔をして、そう言ったんだろう。

 憎々しげに?
 怒りを込めて? 

 僕のこと、もう顔も見たくないくらい、嫌いになった?


 それなら……、もういい。


 もういいよ。


 もう僕に、生きる意味なんてない。

 だってユハンが隣にいてくれない未来に、生きる価値なんて、ないんだから────
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...