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子爵夫人エルザ③
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(お従姉様が昔からずっと好きだと言っていた相手って……フレン伯爵様だったの?)
従姉がずっと叶わぬ恋をしていたことは知っていた。
叶わないと断定できるのはその件についてパメラの弟からいつも愚痴を聞かされていたからだ。
その内容は、姉はずっと幼馴染を想い続けているがその相手にとって姉は好みの対象から外れているということ。
そして主家と家臣の家という身分差もあるので絶対に結ばれることは無いということ。
『伯爵様が好きなのは見目麗しい令嬢だ。姉上のように意地の悪い性根が顔に出ているような、お世辞にも麗しいと言えないような女を選ぶことは天地がひっくり返っても有り得ない。いつまでも分不相応な夢を見ていないでさっさとどこかに嫁いで欲しいよ、まったく……』
昔から意地悪ばかりされてきた為、弟はパメラを嫌っていた。
さっさとどこかに嫁いで家からいなくなってほしいのに、いつまでも叶うはずの無い恋にしがみついて迷惑だと吐き捨てるように零す。
(確かにお従姉様ごときが麗しい伯爵様の隣に立つなど分不相応だわ。全然釣り合いがとれていないもの。でも、これってもしかしたら使えるかもしれない……)
あんな意地の悪い醜女風情が美しい伯爵の隣に立とうと考えること自体がおこがましい。
だが、“幼馴染”という立場とパメラの“恋心”は利用できそうだとエルザはとある企みを思いつく。
丁度フレン伯爵に花嫁を迎えたという悲報を耳にしたエルザは彼に恋するパメラを利用しようと考えた。単純で愚かな従姉のことだ。ちょっと甘言を囁いてやれば思い通りに動いてくれる。
『お従姉様、伯爵様のことを諦めてしまっていいの? 妻の座に就けないのなら“愛人”の座を狙えばいいのではなくて?』
表向きは従姉の恋を応援する振りをしてフレン伯爵と新妻の間に不和を生じさせるよう仕向けた。幼馴染という“特権”を生かし、何度もフレン伯爵邸へと足を運ばせる。結婚して早々に夫の異性の幼馴染が何度も遊びに来ることを喜ぶ妻はいない。パメラから段々と新妻の表情が暗くなっていると聞いた時には思わず笑い声をあげそうになった。
続けているうちに何故か従姉以外の幼馴染の令嬢たちまで同じようにフレン邸へと突撃するようになっていったらしい。恋敵である新妻に嫌がらせが出来るし、伯爵がいれば話も出来るしでいいことだらけだと気づいたのだろう。
エルザはその様子を直接見ることは出来ないが、パメラ伝いに話を聞く分に新妻は相当疲弊しているようだ。それも無理はない。幼馴染の令嬢たちは皆この従姉のように品が無く押しが強い人種のようだから。新妻は大人しい女性らしいのでこの姦しい女達に言い返すことは出来ないだろう。
それでも健気に耐える新妻の様子に腹が立ち、更に嫌がらせを重ねればあっさりと逃げだした。伯爵に告げ口されてはたまらないからきちんと弱みを握り、エルザ達がしたことを口外させないようにした。
一人目の妻も、二人目の妻もその方法で撃退できたから伯爵が三人目の妻を迎えたと聞いた時も同じようにしてやろうと思った。エルザが伯爵に近づけるようになり、彼と恋仲になるまで邪魔者を排除し続けると決意したから。
しかし、この三人目の妻は今までの妻とは全く違った。
まだ年若いのに他者を圧倒する気迫に満ちており、何を言われようとも少しも動じない。
堂々とした態度と口ぶりにこちらの調子が崩される。
圧倒的な気品と信じられないほど優美な姿に何度も目を奪われた。
そうこうしているうちに気づけば従姉が彼女にカップのお茶をかけようとしていた。
慌てて止めようとしたが時すでに遅し、次の瞬間には彼女を身を挺して庇った夫が目を吊り上げてこちらを睨みつけていた。
従姉がずっと叶わぬ恋をしていたことは知っていた。
叶わないと断定できるのはその件についてパメラの弟からいつも愚痴を聞かされていたからだ。
その内容は、姉はずっと幼馴染を想い続けているがその相手にとって姉は好みの対象から外れているということ。
そして主家と家臣の家という身分差もあるので絶対に結ばれることは無いということ。
『伯爵様が好きなのは見目麗しい令嬢だ。姉上のように意地の悪い性根が顔に出ているような、お世辞にも麗しいと言えないような女を選ぶことは天地がひっくり返っても有り得ない。いつまでも分不相応な夢を見ていないでさっさとどこかに嫁いで欲しいよ、まったく……』
昔から意地悪ばかりされてきた為、弟はパメラを嫌っていた。
さっさとどこかに嫁いで家からいなくなってほしいのに、いつまでも叶うはずの無い恋にしがみついて迷惑だと吐き捨てるように零す。
(確かにお従姉様ごときが麗しい伯爵様の隣に立つなど分不相応だわ。全然釣り合いがとれていないもの。でも、これってもしかしたら使えるかもしれない……)
あんな意地の悪い醜女風情が美しい伯爵の隣に立とうと考えること自体がおこがましい。
だが、“幼馴染”という立場とパメラの“恋心”は利用できそうだとエルザはとある企みを思いつく。
丁度フレン伯爵に花嫁を迎えたという悲報を耳にしたエルザは彼に恋するパメラを利用しようと考えた。単純で愚かな従姉のことだ。ちょっと甘言を囁いてやれば思い通りに動いてくれる。
『お従姉様、伯爵様のことを諦めてしまっていいの? 妻の座に就けないのなら“愛人”の座を狙えばいいのではなくて?』
表向きは従姉の恋を応援する振りをしてフレン伯爵と新妻の間に不和を生じさせるよう仕向けた。幼馴染という“特権”を生かし、何度もフレン伯爵邸へと足を運ばせる。結婚して早々に夫の異性の幼馴染が何度も遊びに来ることを喜ぶ妻はいない。パメラから段々と新妻の表情が暗くなっていると聞いた時には思わず笑い声をあげそうになった。
続けているうちに何故か従姉以外の幼馴染の令嬢たちまで同じようにフレン邸へと突撃するようになっていったらしい。恋敵である新妻に嫌がらせが出来るし、伯爵がいれば話も出来るしでいいことだらけだと気づいたのだろう。
エルザはその様子を直接見ることは出来ないが、パメラ伝いに話を聞く分に新妻は相当疲弊しているようだ。それも無理はない。幼馴染の令嬢たちは皆この従姉のように品が無く押しが強い人種のようだから。新妻は大人しい女性らしいのでこの姦しい女達に言い返すことは出来ないだろう。
それでも健気に耐える新妻の様子に腹が立ち、更に嫌がらせを重ねればあっさりと逃げだした。伯爵に告げ口されてはたまらないからきちんと弱みを握り、エルザ達がしたことを口外させないようにした。
一人目の妻も、二人目の妻もその方法で撃退できたから伯爵が三人目の妻を迎えたと聞いた時も同じようにしてやろうと思った。エルザが伯爵に近づけるようになり、彼と恋仲になるまで邪魔者を排除し続けると決意したから。
しかし、この三人目の妻は今までの妻とは全く違った。
まだ年若いのに他者を圧倒する気迫に満ちており、何を言われようとも少しも動じない。
堂々とした態度と口ぶりにこちらの調子が崩される。
圧倒的な気品と信じられないほど優美な姿に何度も目を奪われた。
そうこうしているうちに気づけば従姉が彼女にカップのお茶をかけようとしていた。
慌てて止めようとしたが時すでに遅し、次の瞬間には彼女を身を挺して庇った夫が目を吊り上げてこちらを睨みつけていた。
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