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正してやらねば
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「本当に頭の悪い女だ、アレは。己の息子の手綱一つ握れず、他人を巻き込もうとするなんて情けないにもほどがある。……だからこそ、国母たる器を持たぬ女を王妃に据えるなど儂は初めから反対しておったのだ」
過去の記憶が甦ったのか、公爵は当時の出来事を淡々と語り始めた。
「あの女は国王陛下の従妹にあたる。顔だけは良いが、頭はそれほどよろしくない。だというのに、先代国王は身内びいきが過ぎて身分も政略も省みず、姪を王太子の婚約者にしてしまったのだ。伯爵令嬢という身分では王妃に見合わないという数多の反対を押し切ってな」
その話はセシリアも社交の際に誰かから耳にしたことがある。ただ、公爵の話とは少し違った。
セシリアが耳にしたのは、今の国王夫妻は幼い頃から相思相愛の末に身分差を乗り越えて結ばれたというもの。
それがとてもロマンチックだと若い令嬢の間では美談として語られている。
だが、それを話すと公爵は苦い顔で首を横に振った。
「先代国王と違い、現国王は感情だけで動くような愚か者ではない。当時は王太子だった現国王は、国家の安定と貴族間のバランスを取る為にも有力貴族家の令嬢を迎えた方がいいと陛下に奏上したほどだ。聞き入れてはもらえなかったが……少なくとも陛下と王妃は恋仲ではなかった。王妃の方はどうか分からぬがな……」
「となると……巷で流れている美談はただの創作話でしょうか」
「そうだ。『国王の身内びいきで決まった妃』よりも『王太子に望まれて迎えられた妃』の方が聞こえがいい。しかし、経緯を知る者にとっては滑稽でしかない。だいたい、それが本当ならば陛下に側妃がいることがおかしいと思わないか?」
「たしかに……そうですね」
現王陛下には側妃が一人と、その間に生まれた王子が二人いる。
側妃の身分は王妃と同じく伯爵令嬢で、生家は筆頭公爵家の傘下にあったはずだ。
「陛下が側妃を迎えたことで焦った王妃は、自分の息子の立場を強固にするため筆頭公爵家の令嬢を婚約者に迎えるよう進言した。陛下がそれを受け入れたことで、王妃の息子は”晴れて”王太子の座を得るに至った。……逆に言えば、”筆頭公爵家出身の妻”を失えば王太子は今の地位に留まれるかすら危うい。支持している貴族はほぼ筆頭公爵家の派閥の者だからな」
「なるほど……。となると、もし筆頭公爵家のご令嬢──今の王太子妃殿下に見限られたら、王太子殿下は廃嫡される恐れがあるのですね。だから、王妃様も息子の地位を盤石にするため必死なのだと。その為に火種と成り得る王女を王太子殿下から遠ざけたいというわけですか。王女の目を逸らすべく、代わりとなる男性を宛がうことさえできれば、”王太子”の地位は盤石だと。……なんと浅はかな」
既に王女が王太子に言い寄っているのか、それとも王太子が妻帯者でありながら王女に余所見をしているのか、それともその両方を未然に防ぐためか。いずれにしても招待されたこちらを愚弄していることに変わりはない。
「……ああ。あくまで仮定の話だがな。だが、もし、此度の夜会の参加者が王女と見合う年頃の男ばかりで、夜会の主役が王女だった場合、ほぼこの仮定の話が確定だと思ってよいだろう。ちなみに我が家には招待状は届いておらん。王家主催の夜会には必ずといっていいほど招待状が届く我が家がな……」
その発言を聞いた瞬間、もはや確定したも同然だと思った。
毎回招待状が届くはずの公爵家に今回は届いていない。そうなれば、何かを企んでいると考えるのが自然だろう。
それにしても、王太子妃に見限られないようにと動いた結果、多方面に敵を増やすことになる。それを、王妃は本当に顧みていないのだろうか。
そうだとすれば、公爵の言うようにかなり視野が狭い人だ。目先のことしか考えていない。
「公爵様、”確定”だとすれば……どうなさいますか?」
しばしの沈黙の後、セシリアは静かに口を開き公爵に問いかけた。
「そうだな……その時は、こちらが年長者として思い上がった考えを正してやらねばなるまい」
凄まじい圧力を放つ公爵の表情に、その言葉の真意を悟ったセシリアは思わず身を強ばらせた。
正してやらねば、という言葉。それはつまり……
「セシリア嬢、君には悪いが夜会には参加してもらわねばならぬ。ドレスや装飾品、馬車、そして従者の手配は全てこちらで手配しておこう。ああ、エリオットにも伝えておくので、君は何の準備もしなくともよい。情報収集もしておくのでな……」
猛禽のごとき鋭い視線を向ける公爵に、セシリアはただ静かに頷いた。
過去の記憶が甦ったのか、公爵は当時の出来事を淡々と語り始めた。
「あの女は国王陛下の従妹にあたる。顔だけは良いが、頭はそれほどよろしくない。だというのに、先代国王は身内びいきが過ぎて身分も政略も省みず、姪を王太子の婚約者にしてしまったのだ。伯爵令嬢という身分では王妃に見合わないという数多の反対を押し切ってな」
その話はセシリアも社交の際に誰かから耳にしたことがある。ただ、公爵の話とは少し違った。
セシリアが耳にしたのは、今の国王夫妻は幼い頃から相思相愛の末に身分差を乗り越えて結ばれたというもの。
それがとてもロマンチックだと若い令嬢の間では美談として語られている。
だが、それを話すと公爵は苦い顔で首を横に振った。
「先代国王と違い、現国王は感情だけで動くような愚か者ではない。当時は王太子だった現国王は、国家の安定と貴族間のバランスを取る為にも有力貴族家の令嬢を迎えた方がいいと陛下に奏上したほどだ。聞き入れてはもらえなかったが……少なくとも陛下と王妃は恋仲ではなかった。王妃の方はどうか分からぬがな……」
「となると……巷で流れている美談はただの創作話でしょうか」
「そうだ。『国王の身内びいきで決まった妃』よりも『王太子に望まれて迎えられた妃』の方が聞こえがいい。しかし、経緯を知る者にとっては滑稽でしかない。だいたい、それが本当ならば陛下に側妃がいることがおかしいと思わないか?」
「たしかに……そうですね」
現王陛下には側妃が一人と、その間に生まれた王子が二人いる。
側妃の身分は王妃と同じく伯爵令嬢で、生家は筆頭公爵家の傘下にあったはずだ。
「陛下が側妃を迎えたことで焦った王妃は、自分の息子の立場を強固にするため筆頭公爵家の令嬢を婚約者に迎えるよう進言した。陛下がそれを受け入れたことで、王妃の息子は”晴れて”王太子の座を得るに至った。……逆に言えば、”筆頭公爵家出身の妻”を失えば王太子は今の地位に留まれるかすら危うい。支持している貴族はほぼ筆頭公爵家の派閥の者だからな」
「なるほど……。となると、もし筆頭公爵家のご令嬢──今の王太子妃殿下に見限られたら、王太子殿下は廃嫡される恐れがあるのですね。だから、王妃様も息子の地位を盤石にするため必死なのだと。その為に火種と成り得る王女を王太子殿下から遠ざけたいというわけですか。王女の目を逸らすべく、代わりとなる男性を宛がうことさえできれば、”王太子”の地位は盤石だと。……なんと浅はかな」
既に王女が王太子に言い寄っているのか、それとも王太子が妻帯者でありながら王女に余所見をしているのか、それともその両方を未然に防ぐためか。いずれにしても招待されたこちらを愚弄していることに変わりはない。
「……ああ。あくまで仮定の話だがな。だが、もし、此度の夜会の参加者が王女と見合う年頃の男ばかりで、夜会の主役が王女だった場合、ほぼこの仮定の話が確定だと思ってよいだろう。ちなみに我が家には招待状は届いておらん。王家主催の夜会には必ずといっていいほど招待状が届く我が家がな……」
その発言を聞いた瞬間、もはや確定したも同然だと思った。
毎回招待状が届くはずの公爵家に今回は届いていない。そうなれば、何かを企んでいると考えるのが自然だろう。
それにしても、王太子妃に見限られないようにと動いた結果、多方面に敵を増やすことになる。それを、王妃は本当に顧みていないのだろうか。
そうだとすれば、公爵の言うようにかなり視野が狭い人だ。目先のことしか考えていない。
「公爵様、”確定”だとすれば……どうなさいますか?」
しばしの沈黙の後、セシリアは静かに口を開き公爵に問いかけた。
「そうだな……その時は、こちらが年長者として思い上がった考えを正してやらねばなるまい」
凄まじい圧力を放つ公爵の表情に、その言葉の真意を悟ったセシリアは思わず身を強ばらせた。
正してやらねば、という言葉。それはつまり……
「セシリア嬢、君には悪いが夜会には参加してもらわねばならぬ。ドレスや装飾品、馬車、そして従者の手配は全てこちらで手配しておこう。ああ、エリオットにも伝えておくので、君は何の準備もしなくともよい。情報収集もしておくのでな……」
猛禽のごとき鋭い視線を向ける公爵に、セシリアはただ静かに頷いた。
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