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怒る公爵
「ほう……王妃が夜更けにわざわざ使者を立てて、明後日という急な夜会の招待状を……。それはそれは、ふざけた真似を……」
公爵は怒りに震え、招待状の紙をよれんばかりに強く握りしめた。
昨夜、セシリアは急ぎ公爵家へこの件について知らせるよう使いを遣わした。
招待状の意図が見えないまま夜会に出向くなんてさすがに無防備すぎるし、そんな無茶をするほど馬鹿ではない。
さりとて、情報を集めるには時間が足りない。こうした時に頼れる人物など公爵以外に思い当たらなかった。
そして、その使者が届けた重要な知らせを受け取った公爵はまだ薄明かりの残る早朝、ガーネット侯爵邸を訪ねてきたのだ。
「急すぎてこれでは欠席の返事をする間もない。実質、強制参加を強いられているも同然だ。あの女……我々貴族を侮っているとずっと思っていたが……ここまで下に見ていたとはな」
そこまで言うと公爵は静かに息を吐き、まるで心の奥底から絞り出すように呟いた。
「たかが伯爵家程度の娘が王妃になった途端偉くなったものだ。まるで貴族が王族の従属者であるかのような誤解を抱いているようだな。近いうちに、その誤解を正してやらねば……」
その瞬間、公爵の顔に浮かんだ表情は見る者の背筋を凍らせるほど凄まじかった。
長きにわたり家門の長として君臨してきた男の威圧感にセシリアは思わず息を呑んだ。
「……公爵様、王妃様はいったい何をお考えなのでしょうか」
王妃の目的はセシリアにはまるで見当がつかなかったが、公爵の表情を見る限り何か心当たりがあるようだ。
「あくまで仮定にすぎんが、留学中の南国の王女が関わっているのだろう」
「南国の王女? それは以前お聞きした、あの王女ですか? 暴力が酷く、何度も結婚を繰り返しているという……」
「そうだ。その暴力王女が留学という名目で婿探しに来ておる。一応は賓客ということで王妃が世話をしているのだろう」
「もう我が国にいらっしゃっていたのですね……。恥ずかしながら全く知りませんでした」
「その情報はあまり出回ってないからな。無理もない。別に留学生を社交界で紹介する必要も無いしな」
「それもそうですね。なら、此度の夜会に王女はどのように関わっているのですか?」
セシリアの問いかけに公爵は再びため息をつき、静かな声で「下品な言い方になるが……」と断りを入れた。
「おそらく、王女に宛がう男を物色するのが目的だろうよ」
公爵の言葉に一瞬思考が止まり、セシリアはその場に固まった。
だが意味を悟った瞬間、今度は困惑の感情が顔ににじみ出る。
「男性を物色って……ということは……この夜会自体が、王女の婿選びのための場、ということなのでしょうか?」
頷く公爵を見てセシリアは信じられないとばかりに身を震わせた。
「お待ちください。この夜会には私だけでなくエリオット様も招かれております。既に妻のある身の者まで、王女のお相手に選ばれるおつもりですか? それはあまりにも妻を馬鹿にした行動ではありませんか……」
まさかそのような恥を知らぬ真似を……しかも、一国の王妃たる者が行うなどとは……。
セシリアは、込み上げる怒りに身を震わせた。
別にエリオットが王女に狙われること自体は構わない。だが、わざわざ自国の王妃が他国の王女の男漁りの為に場を提供し、あまつさえ自国の令息達を生贄に差し出そうとするなんて言語道断だ。よくもそんな下品な真似が出来るものだと呆れを通り越して怒りが込み上げてくる。
「そもそも、どうしてわざわざ王妃様がそんな斡旋役のような真似を? そんなことをする必要がどこにあるのでしょうか」
「……あの女の視野が狭く、思い込んだらそのまま突っ走るような迷惑な気質をしているかはともかくとして、おそらくは息子である王太子が絡んでいるのかもしれぬな」
「王太子殿下が……?」
「ああ。おおかた王女が王太子を狙っているか、もしくは王太子が王女に惹かれておるか、それくらいしか考えられん。王妃にとっては、我が子が王の座に就くことこそが唯一の誇り。それ以外はどうでもいいと考えているフシがあると以前から思っておった。王太子はもう、筆頭公爵家の令嬢を正妻に迎えているだろう? 今ここで女絡みの揉め事なんて起こしたら、あの家の後ろ盾は確実に失う。そうなれば王太子は今の座から降ろされるかもしれん。……祖国で厄介者とされている王女では後ろ盾は期待できんしな」
「それは……王太子殿下から王女を遠ざける為に、代わりとなる令息を生贄に捧げようとしているということですか? お相手がいない令息ならいざ知らず、既婚の男性を……しかも妻までその場に招待するなど、王妃様はそこまで当家を馬鹿にしておられるのですか……?」
理不尽極まりないその話に、怒りが頭を焼き尽くさんばかりに渦巻いた。
あくまで仮定ということだが、それが真実ならばあまりにもこちらを馬鹿にしている。
「いや、"夜会"と銘打たれている以上、招かれている者はもっと大勢いるはずだ。どこまで招待したかは分からぬが……少なくともエリオットと君だけしか招待しないとは考えにくい」
「まあ……! つまり……王妃様は、多くの貴族家を敵に回すおつもりということですか? 正気とは思えません……」
「……どうだろうか。おそらくはそこまで考えていないかもしれん。あれは頭がいいように振る舞ってはいるが、視野が狭いうえに器も小さいただの小者だ。」
呆れと蔑みが滲んだ言葉を吐き捨てる公爵。
その語気には王妃との間に過去に何かしらの因縁があったことを感じさせる響きがあった。
公爵は怒りに震え、招待状の紙をよれんばかりに強く握りしめた。
昨夜、セシリアは急ぎ公爵家へこの件について知らせるよう使いを遣わした。
招待状の意図が見えないまま夜会に出向くなんてさすがに無防備すぎるし、そんな無茶をするほど馬鹿ではない。
さりとて、情報を集めるには時間が足りない。こうした時に頼れる人物など公爵以外に思い当たらなかった。
そして、その使者が届けた重要な知らせを受け取った公爵はまだ薄明かりの残る早朝、ガーネット侯爵邸を訪ねてきたのだ。
「急すぎてこれでは欠席の返事をする間もない。実質、強制参加を強いられているも同然だ。あの女……我々貴族を侮っているとずっと思っていたが……ここまで下に見ていたとはな」
そこまで言うと公爵は静かに息を吐き、まるで心の奥底から絞り出すように呟いた。
「たかが伯爵家程度の娘が王妃になった途端偉くなったものだ。まるで貴族が王族の従属者であるかのような誤解を抱いているようだな。近いうちに、その誤解を正してやらねば……」
その瞬間、公爵の顔に浮かんだ表情は見る者の背筋を凍らせるほど凄まじかった。
長きにわたり家門の長として君臨してきた男の威圧感にセシリアは思わず息を呑んだ。
「……公爵様、王妃様はいったい何をお考えなのでしょうか」
王妃の目的はセシリアにはまるで見当がつかなかったが、公爵の表情を見る限り何か心当たりがあるようだ。
「あくまで仮定にすぎんが、留学中の南国の王女が関わっているのだろう」
「南国の王女? それは以前お聞きした、あの王女ですか? 暴力が酷く、何度も結婚を繰り返しているという……」
「そうだ。その暴力王女が留学という名目で婿探しに来ておる。一応は賓客ということで王妃が世話をしているのだろう」
「もう我が国にいらっしゃっていたのですね……。恥ずかしながら全く知りませんでした」
「その情報はあまり出回ってないからな。無理もない。別に留学生を社交界で紹介する必要も無いしな」
「それもそうですね。なら、此度の夜会に王女はどのように関わっているのですか?」
セシリアの問いかけに公爵は再びため息をつき、静かな声で「下品な言い方になるが……」と断りを入れた。
「おそらく、王女に宛がう男を物色するのが目的だろうよ」
公爵の言葉に一瞬思考が止まり、セシリアはその場に固まった。
だが意味を悟った瞬間、今度は困惑の感情が顔ににじみ出る。
「男性を物色って……ということは……この夜会自体が、王女の婿選びのための場、ということなのでしょうか?」
頷く公爵を見てセシリアは信じられないとばかりに身を震わせた。
「お待ちください。この夜会には私だけでなくエリオット様も招かれております。既に妻のある身の者まで、王女のお相手に選ばれるおつもりですか? それはあまりにも妻を馬鹿にした行動ではありませんか……」
まさかそのような恥を知らぬ真似を……しかも、一国の王妃たる者が行うなどとは……。
セシリアは、込み上げる怒りに身を震わせた。
別にエリオットが王女に狙われること自体は構わない。だが、わざわざ自国の王妃が他国の王女の男漁りの為に場を提供し、あまつさえ自国の令息達を生贄に差し出そうとするなんて言語道断だ。よくもそんな下品な真似が出来るものだと呆れを通り越して怒りが込み上げてくる。
「そもそも、どうしてわざわざ王妃様がそんな斡旋役のような真似を? そんなことをする必要がどこにあるのでしょうか」
「……あの女の視野が狭く、思い込んだらそのまま突っ走るような迷惑な気質をしているかはともかくとして、おそらくは息子である王太子が絡んでいるのかもしれぬな」
「王太子殿下が……?」
「ああ。おおかた王女が王太子を狙っているか、もしくは王太子が王女に惹かれておるか、それくらいしか考えられん。王妃にとっては、我が子が王の座に就くことこそが唯一の誇り。それ以外はどうでもいいと考えているフシがあると以前から思っておった。王太子はもう、筆頭公爵家の令嬢を正妻に迎えているだろう? 今ここで女絡みの揉め事なんて起こしたら、あの家の後ろ盾は確実に失う。そうなれば王太子は今の座から降ろされるかもしれん。……祖国で厄介者とされている王女では後ろ盾は期待できんしな」
「それは……王太子殿下から王女を遠ざける為に、代わりとなる令息を生贄に捧げようとしているということですか? お相手がいない令息ならいざ知らず、既婚の男性を……しかも妻までその場に招待するなど、王妃様はそこまで当家を馬鹿にしておられるのですか……?」
理不尽極まりないその話に、怒りが頭を焼き尽くさんばかりに渦巻いた。
あくまで仮定ということだが、それが真実ならばあまりにもこちらを馬鹿にしている。
「いや、"夜会"と銘打たれている以上、招かれている者はもっと大勢いるはずだ。どこまで招待したかは分からぬが……少なくともエリオットと君だけしか招待しないとは考えにくい」
「まあ……! つまり……王妃様は、多くの貴族家を敵に回すおつもりということですか? 正気とは思えません……」
「……どうだろうか。おそらくはそこまで考えていないかもしれん。あれは頭がいいように振る舞ってはいるが、視野が狭いうえに器も小さいただの小者だ。」
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