大夜会の真ん中で、王太子から婚約破棄を宣言された公爵令嬢クラリッサ。
本来なら泣き崩れるはずだったその瞬間、彼女は三人の子を育て上げた四十九歳の前世を思い出す。
「殿下。そのお話、ご両親には通してありますの?」
国王にも王妃にも、双方の家にも無断。おまけに「真実の愛」の相手は、王太子を好きでも王太子妃になる気などなかった。
クラリッサの一言で公開婚約破棄は無効となり、暴走した王太子には即日仮処分が下る。
三か月後の正式審議まで、クラリッサは自分の名誉を取り戻すため社交季の仕事を続けることに。
恋に浮かれた令息、悪辣な婚約者、条件を知らされない令嬢たちを、前世の生活力と貴族令嬢の実務能力で救っていく。
そして彼女の隣には、冷徹と恐れられる王弟公爵レオナールがいた。
役割ではなく一人の女性として見てくれる彼との距離は、仕事を重ねるたび静かに近づいていく。
だが、誰かのためにと差し伸べた手が、相手の選択を奪ってしまった時――。
「あなたは、私のお母様ではありません」
これは、正しいつもりで間違えた大人の女性が、責任を引き受け、自分自身の恋と人生も選び直す物語。
王太子との復縁なし。公的責任あり。年の差の大人恋愛、ハッピーエンド。全40話完結。
文字数 74,958
最終更新日 2026.09.04
登録日 2026.08.27
麦が凍り、村が飢える。
そんな北辺の寒村に転生したユアンが頼ったのは、前世で種苗会社に勤めていた経験だった。
南方から手に入れたのは、たった三個の芋。
殖やせば、麦が駄目になった年にも人を食わせられる。
そう考えて植えた芋は見事な葉を茂らせ――収穫はゼロだった。
北辺では、なぜ芋ができないのか。
一株だけにできた十一個の小芋。四千三百粒から選ぶ、北の気候でも育つ株。食べれば毒になる芋。殖やすほど弱っていく種芋。そして、未来のために残す種を食べなければ今日を生きられない人々。
税と配給を計算する元・代官代理セリカ、在来種の灰芋を守るミラ、土地を知り尽くした老農ガーヴ。
彼らとともに、ユアンは「一番よく穫れる芋」ではなく、「飢饉が来ても誰かが生き残れる農業」を作っていく。
やがて訪れる大飢饉。
村人二百一人。残された食料は七十三日分。その先にある収穫へ、本当に間に合うのか。
三個の芋と一冊の帳簿から始まる、異世界農業改革譚。
四十年後。かつて十一人を失った北辺で、餓死者はゼロになる。
文字数 117,885
最終更新日 2026.09.04
登録日 2026.08.20
才能を伸ばす先生は、いくらでもいる。
五十二歳の辺境教官グレンが教えるのは、「才能がなくても死なない方法」だった。
選択肢が増えると動けない。大術式を続けられない。深い傷を塞げない。魔力を感じられない。急かされると文字を読み違える。
そんな五人が挑む王国統一資格試験で、魔法が本当に止まる。
教師不在、通信不能、地下からは魔力を喰う古い生物。十八人を生還させるため、五人は派手な必殺技ではなく、人数確認、退路確保、止血、縄、紙の手順で動き始める。
これは、落ちこぼれが実は天才だった物語ではない。
欠点を残したまま人を救い、その方法を社会と次の世代へ手渡していく、五人と一人の教官の長編ファンタジー。
文字数 13,049
最終更新日 2026.09.04
登録日 2026.09.03
「欠陥書類ですね」
婚約を破棄され、持参金まで奪われた男爵令嬢アニエスが倒れたのは、王都の小さなパン屋「ホノカ」の前だった。
粉まみれの店主リツは、破棄通知を一目見ただけで欠陥を見抜く。正当事由も、日時も、証人もない。この書類では婚約破棄は成立しない。相手が強行すれば、持参金は三倍返しである。
リツの前世は弁護士。今世でも王国勅許代訴人の資格を得たが、救えなかったパン屋の女性への後悔から、十年間法廷を避けてきた。
侍女の署名、洗濯女の帳簿、職人の印章、焼き型、御者の運行簿。貴族が見下した平民の日常を証拠へ変え、婚約破棄、虚偽離縁、屋号の乗っ取り、文字を読めない子どもへ押しつけられた契約を覆していく。
依頼人がいつも清廉とは限らない。それでも、一つの罪を理由に、契約書にない権利まで奪わせはしない。
やがてリツは、子どもを縛る搾取契約と、本人に会わず「自由意思を確認した」と記された偽りの和解記録へ踏み込む。そして、正式書類を信じる年下査察官セドリックとの関係も、敵対から共闘へ変わっていく。
焼きたてのパンで人を立たせ、契約書と証言で悪党の逃げ道を塞ぐ、事件ごとに決着する法廷ざまぁ×お仕事×じれじれ身分差恋愛。
※全50話完結まで執筆済み。児童搾取、家族への威迫、強制契約を扱います。
文字数 90,679
最終更新日 2026.09.03
登録日 2026.08.19
「売り切れは成功じゃない。食べられなかった客がいる」
榊原拓海、三十六歳。現代で十三のキッチンカーブランドを成功させた移動販売のヒットメーカー。ただし、剣も魔法も使えない。
自分名義の店《ノマド》とともに転移した先は、人間軍一万人と魔王軍一万人がにらみ合う戦場だった。補給は途絶え、兵士たちは空腹で動けない。拓海が見つけたのは、絶体絶命の危機ではなく、二万人分の需要だった。
残り百二十食。冷蔵設備は十八時間。現代の燃料も食材も補充できない。
拓海は客の動線、提供時間、価格、保存温度、仕入れ、雇用を組み直し、異世界初の移動料理店を作っていく。王国最強の剣聖も、正体を隠した魔王も、店の前では同じ客。武器を収め、銅貨を払い、順番を待つ。
冷却魔法しか使えない元魔導師は衛生責任者に。差別されてきた獣人の嗅覚は街道調査に。古竜とは討伐ではなく輸送契約を結ぶ。
その一方で、両軍の保存食には同じ刻印があった。
これは料理で戦争を止める物語ではない。
食事を届けるために作った仕組みが、飢えと嘘で戦争を操る者を追い詰める物語だ。
異世界グルメ×専門職無双×商売成長×ロードムービー。
全40話・約10万字、第一部完結。
文字数 98,465
最終更新日 2026.09.02
登録日 2026.08.22
冬夜会で婚約を破棄され、吹雪の中へ追い出された伯爵令嬢リゼット。
魔力を“音”として拾う彼女にとって、世界はいつも痛いほど騒がしかった。
彼女を拾ったのは、音も匂いも触覚も痛みに変わる呪いを負った「氷の魔王」レオンハルト公爵。
彼からだけは音がしない。そして彼も、リゼットの心音を聞いている時だけ眠ることができた。
「私を眠らせてほしい」
「では、辞める自由のある契約にしてください」
安眠係から始まる、静かな同居。
彼女を捨てた家族がその価値を知って連れ戻しに来ても、レオンハルトは力ずくで囲い込まず、彼女自身の答えを待つ。
けれど呪いが解けた時、彼はリゼットを失う恐怖から、一つだけ嘘をついた。
必要だからではなく、そばにいたいから。
一人でも眠れる二人が、それでも同じ夜を選ぶ、執着深い魔王公爵と自立する令嬢の相互救済ラブ。
ざまぁあり、ハッピーエンド。全20話完結保証。
文字数 43,081
最終更新日 2026.08.29
登録日 2026.08.25
〜元看護師の女将は、王弟殿下に人生ごと大切にされます〜
医師の夫に「看護師なんて医師の指示がなければ何もできない」と自信を奪われた元看護師の私。
異世界で食堂を開いて十七年、温かいご飯を出していただけなのに、昔の常連が騎士団長・宰相補佐・聖女になって王宮から迎えに来た。
食べられない王太子を助けてほしいらしい。しかも昔の常連だった王弟殿下まで、「今度は私があなたの人生を守りたい」と言い出して――?
※毎日2話更新
■詳細あらすじ
前世の私は、元看護師だった。
けれど医師の夫と結婚してから、仕事も誇りも友人も、少しずつ失っていった。
「看護師なんて、医師の指示がなければ何もできない」
そう言われ続け、自分の価値が分からなくなった私は、夫との決別を決めた日に命を落とす。
そして目覚めたのは、魔法と魔物のいる異世界だった。
二度目の人生で望んだのは、誰かのために自分をすり減らさないこと。
私は王都近郊の宿場町で、小さな食堂《灯火食堂》を開いた。
温かいスープ。
柔らかいパン。
体調に合わせた食事。
手を洗いなさい、急いで食べなくていい、今日はもう休みなさい。
私にできたのは、そのくらいだった。
それから十七年。
昔の常連たちが、騎士団長、宰相補佐、聖女、魔術師団長、大商会長になって迎えに来た。
食べられなくなった王太子を助けてほしいという。
さらに、かつて身分を隠して店に通っていた王弟殿下まで現れて――
「あなたを王宮のものにしたいのではありません。あなたがあなたの人生を選べるよう、今度は私が守りたい」
いやいや、私はただの食堂の女将なのですが?
これは、前世で軽んじられた元看護師が、異世界の台所から人と国を癒やし、今度こそ自分の人生を選び直す物語。
文字数 234,270
最終更新日 2026.08.23
登録日 2026.05.19
【あらすじ】
「……団長。私と結婚してください」
「承知した。副団長には俺から話を通そう」
「違います。私が求婚しているのは、あなたです」
施療助手として騎士団へ派遣された子爵令嬢クラリスが恋をしたのは、王都で“黒熊”と恐れられる騎士団長ダリウスだった。
二メートル近い巨体に、傷のある強面。けれど本当の彼は、負傷者を真っ先に助け、小さな薬瓶さえ壊さぬよう慎重に扱う、不器用で誠実な人だった。
六週間の派遣最終日、クラリスは自ら求婚する。
ところがダリウスは、彼女が美形の副団長を好きなのだと盛大に勘違い。誤解を正しても、過去の傷から「自分が選ばれるはずがない」と信じてくれない。
ならば、信じるまで行動で示すまで。
施療の現場では肩を並べ、危険も偏見も自分の目で確かめ、それでも真正面から「あなたが好きです」と伝え続けるクラリス。
剣も魔獣も恐れないのに、愛されることだけは怖い強面騎士団長と、自分の幸せは自分で決める理詰め令嬢。
大きすぎる外套、二本指の手繋ぎ、二つの高さの家――恋も仕事も夫婦の暮らしも、二人で作っていく体格差ラブコメ。結婚式と新婚生活まで描く長編版。
文字数 86,238
最終更新日 2026.08.22
登録日 2026.08.11
辺境都市ラステルの南通りにある、さびれた雑貨屋《からすの止まり木》。
店主のグレンは、五十手前の無愛想なおっさん。子どもには飴をおまけし、腹を空かせた孤児には掃除の仕事と飯を与え、店番の少女リナには勝手な値引きを叱られている。
そんな彼には、一つだけ許せないことがある。
――自分の店に来る誰かを、泣かせること。
孤児を「商品」と呼ぶ犯罪商会がリナを傷つけた夜、二十人近い悪党が倉庫で倒れた。
剣も魔法も使われていない。
使われたのは、縄、釘、油、分銅、裁縫針。すべて雑貨屋の商品だった。
グレンの正体は、かつて王都で“黒縄の執行人”と恐れられた最恐の元処刑人。
魔法使いは詠唱する前に潰す。騎士は剣を抜く前に折る。法を悪用する役人は証拠で追い詰める。貴族なら、家名ごと吊るす。
だが、彼は正義の味方ではない。世の悪党すべてを裁く気もない。
ただ、店の子を泣かせた相手だけは別だ。
犯罪商会、腐敗した衛兵、悪徳貴族、王都の暗部、そして街そのものを狙う帝国――。
敵がどれだけ大きくなっても、グレンがやることは変わらない。
今日も雑貨屋のおっさんが、店にある日用品で悪党を後始末する。
文字数 162,268
最終更新日 2026.08.17
登録日 2026.08.08
辺境で工房を営む鍛冶師ミレーネのもとへ、両腕を失った戦争英雄レオルが現れた。
望みは「死ぬための剣」。
けれどミレーネは、その依頼を断る。
彼女が代わりに作ったのは、自分で食べ、扉を開け、働くための道具だった。
代金は施しにせず、仕事で返す契約に。
英雄ではなく一人の働き手として工房に残ったレオルと、誰にも頼れず工房を抱えてきたミレーネは、少しずつ対等な居場所と恋を育てていく。
しかし国家は、レオルの身体を再び戦場へ戻し、ミレーネの技術を所有しようとする。
剣を鍛えない女職人と、昔の英雄ではない男が、仲間と記録と“戦わない道具”で、自分たちの明日を取り戻す物語。
※シリアスあり/恋愛は一途/ハッピーエンド/全60話完結
文字数 178,361
最終更新日 2026.08.16
登録日 2026.08.07
日本の町工場で鉄を削っていた職人・柴田源吾は、異世界の山奥で、口は辛辣だが世話焼きなエルフ助手リュシアと静かに鍛冶をしていた。
ある日、血まみれの女が工房へ墜落してくる。人間軍の武器職人だと誤解され、斬りかかられたゲンが咄嗟に試作品の剣を構えると――魔法で守られたはずの女魔王ルヴィアの鎧が、あっさり裂けた。
滅亡寸前の魔王軍に必要なのは、英雄だけが振るえる最強の剣ではない。名もない兵士が生きて帰るための「折れない槍」、壊れても現場で直せる鎧、荷車、砥石、治具、そして技術を受け継ぐ弟子たちだ。
魔力も剣の腕もない。あるのは、鉄の火花から炭素と歪みを読む職人の目だけ。
ゲンはエルフ助手、女魔王、見習い少女とともに、粗悪な聖剣で利益を貪る者たちの嘘を叩き折り、戦争そのものを終わらせていく。
だが和平後、彼の刻印が付いた部品で七人が死ぬ。
作った者の目が届かない場所まで技術が広がったとき、腕のいい職人一人では、もう誰も守れない。
これは最強の武器を作る物語ではない。
使う者が生きて帰れる国を、鉄と記録と仲間の手で鍛え直す物語。
文字数 195,804
最終更新日 2026.08.15
登録日 2026.07.31
侯爵アレクシスは、自分を悪い夫だと思ったことがなかった。
不貞も暴力もない。
妻には何不自由ない暮らしを与え、有能な彼女を信頼して侯爵家のすべてを任せてきた。
結婚七年目。
完璧な侯爵夫人エレノアとの暮らしに、何の問題もないはずだった。
けれど、ある朝。
「あと三回です。それで私はあなたから去ります」
突然そう告げられる。
あと三回、何が起きたら離縁なのか。
エレノアは決して教えようとしない。
感謝が足りなかったのか。
妻を褒めなかったことが悪かったのか。
必死に「正解」を探すアレクシスだったが、大勢の前で妻の有能さを誇らしく褒めたその夜、残りはなぜか――「あと一回」。
そこで彼は初めて気づく。
妻の好きな花を知らない。
好きなことも知らない。
結婚前に何を夢見ていたのかさえ知らない。
七年間、自分が見ていたのはエレノア本人ではなく、何でも先回りしてくれる「完璧な侯爵夫人」だった。
そして最後の一回が数えられた時、エレノアは本当に離縁する。
彼女が数えていたものは、単に「ありがとうを言わなかった回数」ではなかった。
妻を失って初めて彼女を見ることを覚えた夫の後悔と、
侯爵夫人を辞め、自分の人生を取り戻す妻の再出発。
離縁から始まる、元夫婦の物語。
文字数 28,702
最終更新日 2026.08.15
登録日 2026.08.14
「……団長。私と結婚してください」
「承知した。副団長には俺から話を通そう」
「……違います」
子爵令嬢クラリスが求婚したのは、美形の副団長ではない。
王都で“黒熊”と恐れられる、強面の騎士団長ダリウス本人だった。
見上げなければ目も合わないほどの巨漢で、顔には大きな傷。けれど彼は、負傷者を誰より先に助け、泣く子どもには血のついた手を隠す、不器用で優しい人だった。
そんな彼に惹かれたクラリスは自ら求婚するが、ダリウスはどうしても信じてくれない。
なぜなら過去、自分へ近づいてきた九人の令嬢全員が、最後には美貌の副団長への紹介を頼んだから。
ならば十人目の私は、行動で証明する。
騎士団の施療室へ通い、彼の隣で負傷者を救い、それでもなお「あなたが好きです」と伝え続けるクラリス。
やがてダリウスは彼女の気持ちを信じる。
――それでも、求婚を断った。
「あなたは私のためと言いながら、私が誰を選ぶべきか勝手に決めています」
愛されることだけは怖い強面騎士団長と、自分の幸せは自分で選びたい令嬢。
大きすぎる外套も、傷のある顔も、震える巨大な手も全部好き。
小柄な令嬢が“黒熊”の臆病な恋心を正面から攻略する、体格差逆求婚ラブコメ。
文字数 15,861
最終更新日 2026.08.11
登録日 2026.08.08
「あなたが善人でも関係ありません。怪物になる前に、私が殺します」
処刑聖女アデルは、転移者に故郷と家族を奪われた。だから、異世界から現れた久瀬直人を殺すことに迷いはなかった。
三十六歳の元配送主任である直人は、剣も魔法も使えない。それでも、災害の到着時刻と被害経路を読み、逃げる先々で人々を救っていく。自分を賞金目当てで売った十一歳の少年フィンも、直人は見捨てなかった。
人を救うほど直人の身体には黒い亀裂が増え、やがて彼自身が災厄へ変わっていく。 一方、アデルの《因果視》が捉えたのは、救われた人々から災厄が消え、直人一人にだけ積み上がるという、教義に反する事実だった。
殺すために追う聖女。 殺されると知りながら、目の前の人を見捨てられない男。 そして、人間には値段がつくと信じていた少年。
最も彼を殺す理由を持っていた女性が、誰より彼を生かしたいと願うまで――。
敵対バディ恋愛×疑似家族×逃亡救済ファンタジー。 全36話・第一部完結。恋愛も事件も第一部で決着します。
文字数 85,742
最終更新日 2026.08.09
登録日 2026.08.02
「曾祖父名義の家と山林を、三日以内に片づけてください。四日目には、俺が死んでいるので」
司法書士・御影綴の事務所を訪れたのは、三日後に三十歳となる祓い屋・冬城朔。
冬城家の当主は、代々三十歳で命を落としてきた。朔は自分の死後、妹へ古い屋敷と森の問題を残さないため、放置されていた相続登記を依頼しに来たのだ。
人間と怪異の果たされなかった約束を「呪約」として読み、登記できる綴が朔の背後に浮かぶ契約を確認すると、そこにあったのは「命の回収」ではなく、「貸与霊力の返還」という文字だった。
あなたが死ぬと書いてある契約書は、どこにもない。
真相を調べるため、綴は危険を承知で呪約を仮登記する。だが空欄にしたはずの次順位承継人は、朔の妹・澪の名前で埋められてしまった。
助けるための手続きが、別の人間を次の債務者にした。
自らの判断に責任を負うため、綴は呪いを自分の身体へ移し、朔の父が二十年前に残した戸籍、未提出書類、森の登記記録をたどっていく。
やがて明らかになるのは、歴代当主の死が正当な対価ではなく、冬城家が怪異から借りた力を私物化した結果だったという事実。
一人を差し出せば、町は守られる。
そう主張する一族の管理者に、綴は武力ではなく、記録と契約と本人の同意で立ち向かう。
呪いを登記する女司法書士と、死ぬことを受け入れてきた祓い屋の、現代怪異×相続実務×男女バディミステリー。
全八話完結。
文字数 30,996
最終更新日 2026.08.07
登録日 2026.08.06
「劇団持ちの女はいらない」
父を亡くした十九歳の男爵令嬢リゼットは、借金一千万リルの劇団を押しつけられたうえ、婚約者から捨てられてしまう。
現在の観客は、たった三人。九十日後の再審査に落ちれば、劇場も王立認定も失う。
けれどリゼットの前世は、誰にも推されなかった元地下アイドル――そして、無名の芸能人を大舞台へ送り出した敏腕マネージャーだった。
「この劇団には、まだ誰にも見つかっていない推しがいる」
街角公演、役者別の案内札、魔写絵、後援会、収支公開。役者の権利と健康を守りながら、リゼットは客席三人の劇団を満席へ導いていく。
そんな彼女へ、匿名後援者Kから手紙が届く。
Kは、成功の陰に隠れた彼女の仕事を誰より具体的に褒め、決して舞台へ介入しない。リゼットは少しずつ、彼にだけ弱音を打ち明けるようになる。
だがKの正体は、一般客として劇場へ通っていた第二王子クラウスで――。
婚約破棄された敏腕令嬢の劇団再建と、彼女を最初から推し続けた不器用な第二王子の身分差恋愛。最後に二千人から名前を呼ばれるのは、他人ばかりを推してきたリゼット自身だった。
文字数 148,644
最終更新日 2026.08.07
登録日 2026.07.31
「この花嫁衣裳を、今夜のうちに焼いてください」
王都の北東、誰も近づきたがらない焼却塔で働くリゼットは、燃えた品の灰に残る〈嘘〉を読む灰焚べ。
人々から「灰の魔女」と忌み嫌われ、法廷で証言することも、公文書に名前を残すことも許されていない。
ある婚礼前夜、第三王子に嫁ぐ侯爵令嬢の花嫁衣裳が運び込まれる。
毒を疑われた衣裳を焼いたリゼットが灰から読み取ったのは、夾竹桃だけではなかった。
羊皮紙、正式な封蝋、大聖堂の石粉――。
焼かされたのは前夜祭用ではない。
花嫁が翌朝着るはずだった、本式の衣裳だった。
誰かが本物の持参金目録を衣裳ごと消し、偽物を花嫁に誓わせようとしている。虚偽が露見すれば、罪を負わされるのは花嫁ただ一人。
だが、灰焚べの判定は証拠にならない。
リゼットが助けを求めたのは、忌み人である彼女の器からためらわず蜂蜜湯を飲んだ、堅物副隊長ベルナールだった。
名を持たない灰が花嫁の誓いを救い、名前を呼ばれたことのない魔女が、自分の心についた嘘を焼くまでの、職能ミステリー×身分差恋愛。
全8話完結。
文字数 15,450
最終更新日 2026.08.05
登録日 2026.08.04
三つの偽の証拠を崩して婚約を断った公爵令嬢エリカ。けれど翌朝、王宮は事件を「若者同士の行き違い」に書き換えようとした。王太子の罪を認めれば、王家の信用まで揺らぐからだ。
「わたくしが望むのは、復讐ではございません。記録を事実どおり残すことです」
貸出票、税調査の保留、学院の通行証。別々に残った三本の記録は王太子執務室へ集まるが、命令者の署名だけがない。
冤罪を仕組んだ王太子、偽の脅迫状を書いた聖女、嘘の目撃者。そして彼らを守ろうとした王宮は、誰にどの責任を負わせるのか。
公開断罪を論破して終わりではありません。王太子印の返納、聖女職の剥奪、王宮の公式謝罪までを場面で描く、理路整然とした法廷ミステリ型ざまぁ。全18話完結。
※復縁なし・新たな恋愛相手なし。恋愛の「成就」ではなく、十二年の婚約を自分の意思で終わらせる物語です。
※自作短編「その断罪、証拠が三つとも嘘ですけれど――王太子殿下、最後まで証言なさいます?」の長編版です。第1〜3話は加筆・再構成した内容です。第4話から、王宮での正式審問を描く新規展開となります。
文字数 38,293
最終更新日 2026.08.04
登録日 2026.07.30
~十一歳の少女と父を救い、子どもを捧げる勇者制度を終わらせます~
「魔王を倒さなければ、お父さんと村のみんなが罰せられるの」
そう教え込まれ、三日間ろくに食べることもできないまま、魔王城へ送り込まれた十一歳の少女フィア。
自分の背丈ほどもある聖剣を震える手で構える少女に、女魔王ネレイアが差し出したのは、攻撃魔法ではなく温かいスープだった。
「戦うのは、食事の後にしませんか。今のあなたは、剣を振るより先に倒れます」
さらに城の外では、フィアの父である元騎士団長クラウスが、教会の兵士に刺されて崖下へ捨てられていた。
父娘を救ったネレイアが二人に見せたのは、教会の記録では魔王と戦って死亡したはずの歴代勇者たち。
医師、鍛冶師、商人、記録官――かつて子どものまま死地へ送られた六人は、魔王に保護され、大人になって自分の人生を生きていた。
教会が勇者を子どもから選ぶ理由。
逃げれば家族や故郷を傷つける「勇者刻印」。
勇者の命を燃料にして王都を守る聖灯炉。
そして、聖剣は子どもにしか扱えないという最大の嘘。
ネレイアはフィアに命令しない。
剣を持つことも、勇者をやめることも、今は何も決めないことも、少女自身に選ばせる。
やがてネレイアは、娘を守るためなら自分の命すら差し出そうとする不器用な父クラウス、そして死んだことにされた歴代勇者たちと共に、人間の王都へ乗り込むことになる。
これは、子どもを英雄として消費する国から、名前と未来を取り戻す物語。
そして誰かを守ることしか知らなかった女魔王が、役目がなくても隣にいたいと願ってくれる人と、初めて自分の幸せを選ぶ物語。
「何になるかは、食べて眠ってから考えればいいのです」
子どもを捧げる勇者制度を終わらせる、救済と制度ざまぁの完結ファンタジー。
タグ
文字数 124,117
最終更新日 2026.08.03
登録日 2026.07.24
「他人の力を足すだけの寄生能力」――そう蔑まれ、追放された記憶喪失の青年シグ。
けれど彼の《総和》は、微風しか起こせない少女も、治癒の弱い村人も、魔法を消してしまう少年も、全員が自ら託した力なら“最強の一手”へ変えられる能力だった。
神託にすべてを任せる王国では、弱い加護、貧民、小さな被害が最初から数えられていない。シグは銀髪の相棒イネラをはじめ、切り捨てられた仲間を救いながら、神託に隠された前提と王国の仕組みをひっくり返していく。
だが、左手に浮かぶ「Σ」の紋と失われた記憶の先には、彼がかつて仲間全員の運命を独断で決めたという罪が眠っていた――。
無能逆転、仲間救済、能力バトル、微恋愛。数学知識不要。弱者一万人の力が“無限”へ挑む、全45話完結ファンタジー。
文字数 118,908
最終更新日 2026.08.03
登録日 2026.07.29