89 / 165
とんでもないことになってきた
しおりを挟む
二人の張り詰めた会話にセシリアは口を挟むこともできず、ただ静かに耳を傾けていた。
何を話しているのか分からないが、ただならぬ空気だけは伝わってくる。
「……ただの夫婦喧嘩に過ぎなかったのに、こんな大事に発展してしまったわ。本当に、あの義母は碌なことをしやしない……」
口調すら乱れるほどの怒りに駆られ、王太子妃は顔を歪めて乱暴な言葉を吐き捨てた。
「お義姉様、落ち着いてくださいまし。現時点でお義父様からのご意向は示されておりません。それに、お義父様からはお義姉様のお気持ちも聞いてくるようにと指示されております」
「お父様が……?」
信じられないとばかりに目を見開きキアラを見つめる王太子妃。
キアラは静かに頷き、「お義姉様はどうしたいですか?」と問いかける。
「わたくしは……現状の関係のままでいたいのよ。他所の花に目移りしたあの人が反省してくれたならそれでよかったのに、あの御方が横槍入れたせいでややこしくなったの」
近くで聞いているセシリアには何の話かは分からない。ただ、なんとなくだが現状の関係というのが、王太子妃と王太子の夫婦関係のことだと察した。
もしかすると王太子妃は王女に目移りした王太子が反省してくれたらそれで手討ちにするつもりだったのかもしれない。なのに、暴走した王妃が王女に別の男を宛がえば万事解決という気が触れたような解決策を考えたせいで、こんな大勢の貴族を巻き込んだ大事に発展してしまった。それを嘆いているように見える。
そして会話の流れから察するに、先程キアラの言った”王太子妃のお気持ち”というのはもしかすると離縁をするかしないかという意味ではないだろうか。
(なんだかとんでもない話になってきたわ……)
仮に王太子妃が王太子と離縁するとなれば、彼はもうその座にはいられなくなるだろう。
筆頭公爵家に見捨てられた王子が王太子のままでいられるほど甘くない。
そうなった場合、側妃の子である第二王子が立太子する可能性が高いだろう。
そう考えると、王妃のしていることは息子を守っているどころか、自分の手で突き落とそうとしているようにすら見える。
(エリオット様もそうだけど、こういう人たちってどうしてわざわざ余計なことをして、事態をここまで複雑にしてしまうのかしら……)
セシリアがそんなことを考えていると、いつの間にか近くにいた王宮の侍従が王太子妃に「妃殿下、そろそろ挨拶のお時間です」と告げていた。
「……取り乱してごめんなさい。ガーネット侯爵夫人、急に話に割って入った挙句、内輪の話を聞かせてしまって申し訳なかったわ」
「いえ、とんでもございません」
王太子妃が去っていく姿を眺めつつ、セシリアはそっとキアラに声をかけた。
「キアラ様、あの……先程のお話は……」
「ええ、お察しの通りよ。お義父様……アレキサンドライト公爵様はわたくしと旦那様に二つのご指示をお出しになったの。一つはお義姉様のご意思を確認すること、もう一つは主催者の反応を見ること。前者は確認できたから、あとは後者を今から始まる主催者への挨拶の際に確認するだけ。それによって……」
「次代が変わるかもしれない、ということかしら……?」
セシリアの言葉にキアラは「ええ、そうよ」と頷いた。
「……なんだか、とんでもないことになりそうですね」
「ええ、本当に。確実なのは主催者がこのまま無事で済むはずがないということですね。筆頭公爵家とガーネット公爵家を怒らせて、何もないなど有り得ません。
この夜会が終わる時、それは主催者にとっての終わりの時でもありますのよ」
キアラの言葉にセシリアは思わず言葉を失った。
まさかこんなにも早く予想が確信に変わるとは……と驚いている最中、不意にラッパの音が会場内に鳴り響く。
「王妃殿下のおなりです」
侍従の声と共に会場の奥にある扉がギイッと音を立てて開き、そこから豪奢な衣装を身に纏った王妃が現れる。
後ろには青褪めた顔のまるで幽鬼のような状態で歩く王太子と、無表情な王太子妃。
そして、異国情緒を湛えた衣装に身を包む女性が姿を現した。
何を話しているのか分からないが、ただならぬ空気だけは伝わってくる。
「……ただの夫婦喧嘩に過ぎなかったのに、こんな大事に発展してしまったわ。本当に、あの義母は碌なことをしやしない……」
口調すら乱れるほどの怒りに駆られ、王太子妃は顔を歪めて乱暴な言葉を吐き捨てた。
「お義姉様、落ち着いてくださいまし。現時点でお義父様からのご意向は示されておりません。それに、お義父様からはお義姉様のお気持ちも聞いてくるようにと指示されております」
「お父様が……?」
信じられないとばかりに目を見開きキアラを見つめる王太子妃。
キアラは静かに頷き、「お義姉様はどうしたいですか?」と問いかける。
「わたくしは……現状の関係のままでいたいのよ。他所の花に目移りしたあの人が反省してくれたならそれでよかったのに、あの御方が横槍入れたせいでややこしくなったの」
近くで聞いているセシリアには何の話かは分からない。ただ、なんとなくだが現状の関係というのが、王太子妃と王太子の夫婦関係のことだと察した。
もしかすると王太子妃は王女に目移りした王太子が反省してくれたらそれで手討ちにするつもりだったのかもしれない。なのに、暴走した王妃が王女に別の男を宛がえば万事解決という気が触れたような解決策を考えたせいで、こんな大勢の貴族を巻き込んだ大事に発展してしまった。それを嘆いているように見える。
そして会話の流れから察するに、先程キアラの言った”王太子妃のお気持ち”というのはもしかすると離縁をするかしないかという意味ではないだろうか。
(なんだかとんでもない話になってきたわ……)
仮に王太子妃が王太子と離縁するとなれば、彼はもうその座にはいられなくなるだろう。
筆頭公爵家に見捨てられた王子が王太子のままでいられるほど甘くない。
そうなった場合、側妃の子である第二王子が立太子する可能性が高いだろう。
そう考えると、王妃のしていることは息子を守っているどころか、自分の手で突き落とそうとしているようにすら見える。
(エリオット様もそうだけど、こういう人たちってどうしてわざわざ余計なことをして、事態をここまで複雑にしてしまうのかしら……)
セシリアがそんなことを考えていると、いつの間にか近くにいた王宮の侍従が王太子妃に「妃殿下、そろそろ挨拶のお時間です」と告げていた。
「……取り乱してごめんなさい。ガーネット侯爵夫人、急に話に割って入った挙句、内輪の話を聞かせてしまって申し訳なかったわ」
「いえ、とんでもございません」
王太子妃が去っていく姿を眺めつつ、セシリアはそっとキアラに声をかけた。
「キアラ様、あの……先程のお話は……」
「ええ、お察しの通りよ。お義父様……アレキサンドライト公爵様はわたくしと旦那様に二つのご指示をお出しになったの。一つはお義姉様のご意思を確認すること、もう一つは主催者の反応を見ること。前者は確認できたから、あとは後者を今から始まる主催者への挨拶の際に確認するだけ。それによって……」
「次代が変わるかもしれない、ということかしら……?」
セシリアの言葉にキアラは「ええ、そうよ」と頷いた。
「……なんだか、とんでもないことになりそうですね」
「ええ、本当に。確実なのは主催者がこのまま無事で済むはずがないということですね。筆頭公爵家とガーネット公爵家を怒らせて、何もないなど有り得ません。
この夜会が終わる時、それは主催者にとっての終わりの時でもありますのよ」
キアラの言葉にセシリアは思わず言葉を失った。
まさかこんなにも早く予想が確信に変わるとは……と驚いている最中、不意にラッパの音が会場内に鳴り響く。
「王妃殿下のおなりです」
侍従の声と共に会場の奥にある扉がギイッと音を立てて開き、そこから豪奢な衣装を身に纏った王妃が現れる。
後ろには青褪めた顔のまるで幽鬼のような状態で歩く王太子と、無表情な王太子妃。
そして、異国情緒を湛えた衣装に身を包む女性が姿を現した。
2,664
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。
けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。
「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。
ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。
そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。
学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。
けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。
暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。
※10万文字超えそうなので長編に変更します。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる