初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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とんでもないことになってきた

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 二人の張り詰めた会話にセシリアは口を挟むこともできず、ただ静かに耳を傾けていた。
 何を話しているのか分からないが、ただならぬ空気だけは伝わってくる。
 
「……ただの夫婦喧嘩に過ぎなかったのに、こんな大事に発展してしまったわ。本当に、あの義母は碌なことをしやしない……」

 口調すら乱れるほどの怒りに駆られ、王太子妃は顔を歪めて乱暴な言葉を吐き捨てた。

「お義姉様、落ち着いてくださいまし。現時点でお義父様からのご意向は示されておりません。それに、お義父様からはお義姉様のお気持ちも聞いてくるようにと指示されております」

「お父様が……?」

 信じられないとばかりに目を見開きキアラを見つめる王太子妃。
 キアラは静かに頷き、「お義姉様はどうしたいですか?」と問いかける。

「わたくしは……現状の関係のままでいたいのよ。に目移りしたあの人が反省してくれたならそれでよかったのに、が横槍入れたせいでややこしくなったの」

 近くで聞いているセシリアには何の話かは分からない。ただ、なんとなくだが現状の関係というのが、王太子妃と王太子の夫婦関係のことだと察した。
 もしかすると王太子妃は王女に目移りした王太子が反省してくれたらそれで手討ちにするつもりだったのかもしれない。なのに、暴走した王妃が王女に別の男を宛がえば万事解決という気が触れたような解決策を考えたせいで、こんな大勢の貴族を巻き込んだ大事に発展してしまった。それを嘆いているように見える。

 そして会話の流れから察するに、先程キアラの言った”王太子妃のお気持ち”というのはもしかすると離縁をするかしないかという意味ではないだろうか。

(なんだかとんでもない話になってきたわ……)

 仮に王太子妃が王太子と離縁するとなれば、彼はもうその座にはいられなくなるだろう。
 筆頭公爵家に見捨てられた王子が王太子のままでいられるほど甘くない。
 そうなった場合、側妃の子である第二王子が立太子する可能性が高いだろう。
 そう考えると、王妃のしていることは息子を守っているどころか、自分の手で突き落とそうとしているようにすら見える。

(エリオット様もそうだけど、こういう人たちってどうしてわざわざ余計なことをして、事態をここまで複雑にしてしまうのかしら……)

 セシリアがそんなことを考えていると、いつの間にか近くにいた王宮の侍従が王太子妃に「妃殿下、そろそろ挨拶のお時間です」と告げていた。

「……取り乱してごめんなさい。ガーネット侯爵夫人、急に話に割って入った挙句、内輪の話を聞かせてしまって申し訳なかったわ」

「いえ、とんでもございません」

 王太子妃が去っていく姿を眺めつつ、セシリアはそっとキアラに声をかけた。

「キアラ様、あの……先程のお話は……」

「ええ、お察しの通りよ。お義父様……アレキサンドライト公爵様はわたくしと旦那様に二つのご指示をお出しになったの。一つはお義姉様のご意思を確認すること、もう一つはの反応を見ること。前者は確認できたから、あとは後者を今から始まる主催者への挨拶の際に確認するだけ。それによって……」

「次代が変わるかもしれない、ということかしら……?」

 セシリアの言葉にキアラは「ええ、そうよ」と頷いた。

「……なんだか、とんでもないことになりそうですね」

「ええ、本当に。確実なのは主催者がこのまま無事で済むはずがないということですね。筆頭公爵家とガーネット公爵家を怒らせて、何もないなど有り得ません。
この夜会が終わる時、それは主催者にとっての終わりの時でもありますのよ」

 キアラの言葉にセシリアは思わず言葉を失った。
 まさかこんなにも早く予想が確信に変わるとは……と驚いている最中、不意にラッパの音が会場内に鳴り響く。

「王妃殿下のおなりです」

 侍従の声と共に会場の奥にある扉がギイッと音を立てて開き、そこから豪奢な衣装を身に纏った王妃が現れる。
 後ろには青褪めた顔のまるで幽鬼のような状態で歩く王太子と、無表情な王太子妃。
 そして、異国情緒を湛えた衣装に身を包む女性が姿を現した。
  
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