初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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キアラの嫌味

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 主催者に挨拶するべく、会場内の招待者は続々と列に並び始める。
 迎えに来た夫と共にキアラもそこへと向かった。暗黙の了解で身分の高い者から先に挨拶をするものなので、筆頭公爵家の嫡男夫妻である彼女達が必然的に一番前へと案内された。

 ガーネット侯爵家も高位の家柄であるため、挨拶の順番は比較的早い。
 高位の家柄の当主がアレだということは置いておいて、セシリアも挨拶の列に並ぶ為エリオットを探した。
 挨拶の列など気づかず呑気に喋っているエリオットを見つけると、不意に殺意が湧いた。周囲がこれだけ動いているのになんでそんなに鈍いのかと。

「失礼します。エリオット様、ご挨拶の時間ですわ」

 セシリアが声をかけると、エリオットと話していた男性が会釈をしてその場を離れた。
 そこで初めて周囲の状況に気がついたエリオットは「え? ああ……」と持っていた飲み物をテーブルに置く。
 セシリアをエスコートしようと手を差し出したが、その手を取ったのは近くにいたキャサリンだった。

「……なんのつもりかしら?」

 急いでいるというのに、どういうつもりだとセシリアは鋭い視線をキャサリンへと向ける。
 それに怯えてビクッと身を震わすキャサリンと、彼女を庇おうとしたエリオットが「そんな怖い顔をしなくとも……」と小声で告げた。

 その悠長な態度がセシリアの怒りをさらに煽ることとなった。
 こんなことをしていて挨拶に間に合わなかったらどうしてくれるのか。
 順番が回ってきた際にその場にいないことが、どれほど礼を欠く行為か――二人にはそれがまるでわかっていない。

 いつまで経っても家門の恥になることばかりしようとするエリオットと、教育の成果が全く現れないキャサリンにセシリアは怒りで眉を吊り上げた。

「おふざけも大概になさってください。使用人として参加したオニキス子爵令嬢が当主のエスコートを受けること自体が恥です。壁の方で控えていなさい」

 厳しい口調にキャサリンは泣きそうになるも、セシリアの「……二度は言いません。私の拳を食らいたくなければ大人しく従いなさい」という言葉に喉をヒュッと鳴らす。

「わ、わかりました! 壁の方へ行ってます……」

 ガタガタと震えながらキャサリンはエリオットの手を離し、足早にその場から去った。
 呆気にとられたようにそれを眺めていたエリオットはセシリアの氷のように冷たい視線に気づき、ハッとする。

「え、えっと……ごめん」

「…………行きますよ。早くしてください」

 そんな何に対して謝っているか分かっていない謝罪など聞くに気にもなれない。
 セシリアはエリオットから目を背け、嫌々ながら彼のエスコートを受けた。

 列に案内される際、セシリアはさりげなく後方に並ぶ人々の顔ぶれを確認する。
 一通り見終えると彼女はわずかに息を吐き、安堵の色を浮かべた。

(よかった……。招待客の中にユリウスはいないみたい)

 セシリアはこの夜会に初恋の相手──ユリウスが招待されているのではないかという不安をずっと抱えていた。
 美しい彼が王女に見初められてしまったら……と思うと気が気でない。もう彼と人生が交わることはないにしても、目の前でそんな光景が繰り広げられたらと思うと嫌で仕方ない。

 いまだ彼への思いを断ち切れずにいる自分がどうしようもなく情けない。
 彼よりも家を選んだのは自分なのに、未練を感じるなんて──身勝手にもほどがある。

 そんなことを考えていると、ふと、セシリアの耳にキアラと王妃の会話が聞こえて来た。

「あまりに急なご招待でしたので、せめて礼儀として顔を出さねばと思いましたの。急いで仕立て屋を呼び出し、昨年のドレスに今流行りの真珠を縫い付けるくらいしか出来ませんでしたけれど――栄えある王宮の夜会に相応しくない装いでなければよろしいのですが?」

「と、とんでもない……とてもお似合いよ、アレキサンドライト小公爵夫人」

「まあ、それは何より。実のところ、このようなで支度を整えるのは、わたくしには少々荷が重うございますの。予定を気まぐれに決められる立場ではありませんので……」

 キアラの社交界特有の遠回しな非難……という名の嫌味に思わずそちらに視線を向けると、王妃笑みがわずかに凍りつく様子が目に映った。

「それにしても、今宵のご趣向――奇抜で新鮮ですこと。夜会というよりを彷彿させる内容ですね。上流階級の夜会でこんなにも自由奔放なお振る舞いを拝見できるとは、夢にも思いませんでした」

 扇子を軽く振りながら、キアラは口角をあげる。
 彼女の口から放たれる嫌味の応酬に王妃は悔しそうに視線を逸らした。

(ティーパーティーね、言い得て妙だこと……)

 この夜会は一般的に催されるものと比べて色々と部分が多数見受けられる。
 特に、提供される料理や飲み物の品数が極端に少ないのだ。それこそまるでティーパーティーのように果実水や軽食しか卓上に用意されていない。酒類が置いていない夜会なんて初めてだ。

 急な夜会だったため、料理も飲み物も十分に用意することが出来なかったのか、それともこの程度でいいだろうと思われているのかは分からない。しかし、そもそもが場を整えることも出来ないのに夜会を催すことがおかしいと、キアラはそこを非難しているのだ。

 セシリアは心の中で「いいぞ、もっと言ってやれ」とキアラを応援するのだった。
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