初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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不穏な展開

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 いくら筆頭公爵家の嫡男の妻といえども、王妃相手にここまでの嫌味を言うなど無礼だと非難されてもおかしくない。だが、周囲の招待客たちからキアラを非難する声はひとつも聞こえなかった。
 それどころか、招待客たちは冷ややかな目を王妃に向けている。
 当然と言えば当然だが、彼等も急な夜会に召集した王妃に対して思うところがあるように見える。

 それからも清々しいほどの嫌味を王妃に向けて繰り出すキアラ、そしてわざとらしく後ろの控える王太子夫妻に「お義兄様、お義姉様」と声をかけた。

 その瞬間、王妃の顔が強張ったのをセシリアは見逃さなかった。
「しまった」とでも言わんばかりの表情に、ある仮説が浮かぶ。

(え? まさか……キアラ様たちが王太子夫妻と縁戚関係にあると今気づいた? いや、まさかね……)

 キアラの夫が王太子妃の実弟であることに今気づいた、とばかりにみるみるうちに顔を青くする王妃を見てセシリアはそんなことを考えた。しかし、そんなことは有り得ないと首を振る。王妃ともあろう者が自分の息子の伴侶の兄弟を忘れるなんて、そんなことあるはずがないと。

「あ、あ……そう、だったわね。アレキサンドライト小公爵は、王太子妃の弟君だったわよね……」

 うっそだろう!?

 王妃の発言に思わずセシリアはそんな言葉を口にするところだった。
 見れば自分達の前列に並んでいる招待客も、セシリアと同じことを考えているかのように呆気にとられた顔をしている。

 この人王妃、アレキサンドライト小公爵が王太子妃の実弟だということを、今の今まで忘れていた。
 その発言だけでそれを察した者達は皆、信じられないとばかりの目を王妃に向けた。

「……ええ、そうです。嫁いだといえども、妃殿下が姉であるという事実は変わりません」

 ここでずっと黙っていたアレキサンドライト小公爵が抑揚のない声で呟く。
 言外に「なに当たり前のことを聞いているんだ。馬鹿か」と伝えていると分かる。

「あ、あの……小公爵、このことは公爵には内密にしてくださるかしら……?」

「このこと? はて……どのことを指すのか、皆目見当もつきませんな。王妃殿下、私は何を父に黙っていればよいのでしょうか?」

 キアラの夫が詰め寄るように発した言葉に王妃はすっかり青ざめて震えていた。
 信じられないことだが彼女は今更気づいたのだろう。
 王女に宛がう男候補として王太子妃の実弟を招いてしまったこと。それは結局、王太子妃の機嫌を伺うどころか全力で神経を逆撫でする行為であること。そして王太子の後ろ盾となってくれている大恩あるアレキサンドライト公爵家を侮辱する行為だということに。

 焦るあまり「えっと」だの「あの」としか言えなくなっている王妃の背後で王太子は真っ青になり俯いていた。
 王太子妃は能面のような顔で佇んでいるし、王女と思しき女性は興味無さそうに明後日の方を向いている。

(何なのかしら、この時間……)

 馬鹿げた茶番だとしか思えない。キアラ達もそう感じたのか、それ以上責めることはせずさっさと挨拶を切り上げた。
 その後も筆頭公爵家に次ぐ家の者達が青い顔の王妃に挨拶を述べる。
 これまた貴族らしい遠回しな表現で嫌味を告げているが、それどころではない王妃は嫌味に気づかず上の空で挨拶を受けていた。

(さっさと挨拶だけして帰りましょう)

 王妃はすでに本来主役となるはずだった王女の紹介を忘れてしまっている。
 困惑のあまり夜会の目的すら忘れているようだった。
 いつまで経っても紹介してくれない王妃に若干不貞腐れ気味の王女を見ている間にセシリアたちの順番が回ってきた。

 エリオットが一礼すると、次いでセシリアも優雅に淑女の礼を見せる。
 そのままエリオットが挨拶の口上を述べようとしたその時だった。

「……あなた、あの時の……」

 震える声で王女がエリオットに向かってそう告げた。
 瞳は潤み、頬は上気し、その顔はまさに恋する乙女そのもの。
 エリオットは一瞬何を言われたのか分からず眉をひそめたが、はっと思い出し「あっ!」と短く声を上げる。

 セシリアはその様子を胡乱げな視線でじっと見ていた。
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