91 / 165
不穏な展開
しおりを挟む
いくら筆頭公爵家の嫡男の妻といえども、王妃相手にここまでの嫌味を言うなど無礼だと非難されてもおかしくない。だが、周囲の招待客たちからキアラを非難する声はひとつも聞こえなかった。
それどころか、招待客たちは冷ややかな目を王妃に向けている。
当然と言えば当然だが、彼等も急な夜会に召集した王妃に対して思うところがあるように見える。
それからも清々しいほどの嫌味を王妃に向けて繰り出すキアラ、そしてわざとらしく後ろの控える王太子夫妻に「お義兄様、お義姉様」と声をかけた。
その瞬間、王妃の顔が強張ったのをセシリアは見逃さなかった。
「しまった」とでも言わんばかりの表情に、ある仮説が浮かぶ。
(え? まさか……キアラ様たちが王太子夫妻と縁戚関係にあると今気づいた? いや、まさかね……)
キアラの夫が王太子妃の実弟であることに今気づいた、とばかりにみるみるうちに顔を青くする王妃を見てセシリアはそんなことを考えた。しかし、そんなことは有り得ないと首を振る。王妃ともあろう者が自分の息子の伴侶の兄弟を忘れるなんて、そんなことあるはずがないと。
「あ、あ……そう、だったわね。アレキサンドライト小公爵は、王太子妃の弟君だったわよね……」
うっそだろう!?
王妃の発言に思わずセシリアはそんな言葉を口にするところだった。
見れば自分達の前列に並んでいる招待客も、セシリアと同じことを考えているかのように呆気にとられた顔をしている。
この人、アレキサンドライト小公爵が王太子妃の実弟だということを、今の今まで忘れていた。
その発言だけでそれを察した者達は皆、信じられないとばかりの目を王妃に向けた。
「……ええ、そうです。嫁いだといえども、妃殿下が姉であるという事実は変わりません」
ここでずっと黙っていたアレキサンドライト小公爵が抑揚のない声で呟く。
言外に「なに当たり前のことを聞いているんだ。馬鹿か」と伝えていると分かる。
「あ、あの……小公爵、このことは公爵には内密にしてくださるかしら……?」
「このこと? はて……どのことを指すのか、皆目見当もつきませんな。王妃殿下、私は何を父に黙っていればよいのでしょうか?」
キアラの夫が詰め寄るように発した言葉に王妃はすっかり青ざめて震えていた。
信じられないことだが彼女は今更気づいたのだろう。
王女に宛がう男候補として王太子妃の実弟を招いてしまったこと。それは結局、王太子妃の機嫌を伺うどころか全力で神経を逆撫でする行為であること。そして王太子の後ろ盾となってくれている大恩あるアレキサンドライト公爵家を侮辱する行為だということに。
焦るあまり「えっと」だの「あの」としか言えなくなっている王妃の背後で王太子は真っ青になり俯いていた。
王太子妃は能面のような顔で佇んでいるし、王女と思しき女性は興味無さそうに明後日の方を向いている。
(何なのかしら、この時間……)
馬鹿げた茶番だとしか思えない。キアラ達もそう感じたのか、それ以上責めることはせずさっさと挨拶を切り上げた。
その後も筆頭公爵家に次ぐ家の者達が青い顔の王妃に挨拶を述べる。
これまた貴族らしい遠回しな表現で嫌味を告げているが、それどころではない王妃は嫌味に気づかず上の空で挨拶を受けていた。
(さっさと挨拶だけして帰りましょう)
王妃はすでに本来主役となるはずだった王女の紹介を忘れてしまっている。
困惑のあまり夜会の目的すら忘れているようだった。
いつまで経っても紹介してくれない王妃に若干不貞腐れ気味の王女を見ている間にセシリアたちの順番が回ってきた。
エリオットが一礼すると、次いでセシリアも優雅に淑女の礼を見せる。
そのままエリオットが挨拶の口上を述べようとしたその時だった。
「……あなた、あの時の……」
震える声で王女がエリオットに向かってそう告げた。
瞳は潤み、頬は上気し、その顔はまさに恋する乙女そのもの。
エリオットは一瞬何を言われたのか分からず眉をひそめたが、はっと思い出し「あっ!」と短く声を上げる。
セシリアはその様子を胡乱げな視線でじっと見ていた。
それどころか、招待客たちは冷ややかな目を王妃に向けている。
当然と言えば当然だが、彼等も急な夜会に召集した王妃に対して思うところがあるように見える。
それからも清々しいほどの嫌味を王妃に向けて繰り出すキアラ、そしてわざとらしく後ろの控える王太子夫妻に「お義兄様、お義姉様」と声をかけた。
その瞬間、王妃の顔が強張ったのをセシリアは見逃さなかった。
「しまった」とでも言わんばかりの表情に、ある仮説が浮かぶ。
(え? まさか……キアラ様たちが王太子夫妻と縁戚関係にあると今気づいた? いや、まさかね……)
キアラの夫が王太子妃の実弟であることに今気づいた、とばかりにみるみるうちに顔を青くする王妃を見てセシリアはそんなことを考えた。しかし、そんなことは有り得ないと首を振る。王妃ともあろう者が自分の息子の伴侶の兄弟を忘れるなんて、そんなことあるはずがないと。
「あ、あ……そう、だったわね。アレキサンドライト小公爵は、王太子妃の弟君だったわよね……」
うっそだろう!?
王妃の発言に思わずセシリアはそんな言葉を口にするところだった。
見れば自分達の前列に並んでいる招待客も、セシリアと同じことを考えているかのように呆気にとられた顔をしている。
この人、アレキサンドライト小公爵が王太子妃の実弟だということを、今の今まで忘れていた。
その発言だけでそれを察した者達は皆、信じられないとばかりの目を王妃に向けた。
「……ええ、そうです。嫁いだといえども、妃殿下が姉であるという事実は変わりません」
ここでずっと黙っていたアレキサンドライト小公爵が抑揚のない声で呟く。
言外に「なに当たり前のことを聞いているんだ。馬鹿か」と伝えていると分かる。
「あ、あの……小公爵、このことは公爵には内密にしてくださるかしら……?」
「このこと? はて……どのことを指すのか、皆目見当もつきませんな。王妃殿下、私は何を父に黙っていればよいのでしょうか?」
キアラの夫が詰め寄るように発した言葉に王妃はすっかり青ざめて震えていた。
信じられないことだが彼女は今更気づいたのだろう。
王女に宛がう男候補として王太子妃の実弟を招いてしまったこと。それは結局、王太子妃の機嫌を伺うどころか全力で神経を逆撫でする行為であること。そして王太子の後ろ盾となってくれている大恩あるアレキサンドライト公爵家を侮辱する行為だということに。
焦るあまり「えっと」だの「あの」としか言えなくなっている王妃の背後で王太子は真っ青になり俯いていた。
王太子妃は能面のような顔で佇んでいるし、王女と思しき女性は興味無さそうに明後日の方を向いている。
(何なのかしら、この時間……)
馬鹿げた茶番だとしか思えない。キアラ達もそう感じたのか、それ以上責めることはせずさっさと挨拶を切り上げた。
その後も筆頭公爵家に次ぐ家の者達が青い顔の王妃に挨拶を述べる。
これまた貴族らしい遠回しな表現で嫌味を告げているが、それどころではない王妃は嫌味に気づかず上の空で挨拶を受けていた。
(さっさと挨拶だけして帰りましょう)
王妃はすでに本来主役となるはずだった王女の紹介を忘れてしまっている。
困惑のあまり夜会の目的すら忘れているようだった。
いつまで経っても紹介してくれない王妃に若干不貞腐れ気味の王女を見ている間にセシリアたちの順番が回ってきた。
エリオットが一礼すると、次いでセシリアも優雅に淑女の礼を見せる。
そのままエリオットが挨拶の口上を述べようとしたその時だった。
「……あなた、あの時の……」
震える声で王女がエリオットに向かってそう告げた。
瞳は潤み、頬は上気し、その顔はまさに恋する乙女そのもの。
エリオットは一瞬何を言われたのか分からず眉をひそめたが、はっと思い出し「あっ!」と短く声を上げる。
セシリアはその様子を胡乱げな視線でじっと見ていた。
2,744
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
ローザリンデの第二の人生
梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。
彼には今はもういない想い人がいた。
私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。
けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。
あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。
吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
【完結】無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる