初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

文字の大きさ
98 / 165

久しぶりの再会

しおりを挟む
「まあ、そんなことがありました」

「なんですって? そんなことが……! しばらく会わない間に色々あったのね……」

 夜、食堂で久方ぶりに義母イザベラと再会し、離れていた間の出来事を語ると彼女は目を見開き驚嘆の表情を浮かべた。
 そんな顔を見るのも久しぶりで、セシリアは思わず顔を綻ばせる。

「ふふ、でもお義母様のお顔を見たら嫌な気持ちも吹き飛んじゃいました」

「……ッ!! 急にそんなことを言うんじゃないわよ……」

 耳まで真っ赤になった可愛らしいイザベラを見て、セシリアはついニヤニヤしてしまった。

「ちょっと! ニヤニヤしないで!」

「あら、ごめんあそばせ。お義母様が可愛らしくて、つい……」

「また貴女はそんなことを言って……!」

 二人が笑い合っている最中、テーブルに運ばれてきたのは鴨胸肉のロースト。皮は薄くパリッと焼かれ、ナイフを入れると中からほんのり赤みを帯びた肉汁がゆっくりと滲み出した。添えられているのは、赤ワインと果実のソース。深い果実味とほのかな酸味が、鴨の濃厚な旨味を引き立てている。

「ん、この鴨肉……とても美味しいわ。外はこんがり、中は驚くほどなめらか……絶妙な火入れね」

「気に入っていただけてよかった。お義母様の好物とお聞きしましたので、メイン料理として出すように料理長にお願いしましたの」

「まあ、わたくしの為にわざわざ……」

 再び頬を赤らめ、小さく「ありがとう」と呟くイザベラの愛らしさは息をのむほどだった。
 その表情に魅せられたかのようにセシリアはつい自然と思っていたことを口に出してしまう。

「お義母様、貴女はまだお若い。それにとてもお綺麗です。……再婚、考えたりはされないんですか?」

 その言葉にイザベラははっとした表情で顔を上げた。その目には驚きが浮かんでいる。
 それでも、セシリアは止まることなく話を続けた。

「お義母様が先代様を深く愛していらっしゃったことは知っております。ですが貴女はまだお若い。子だって十分望めるでしょう」

「……そんなこと、貴女が気にすることではないわ」

「ええ、余計なお節介であることは重々承知しております。ですが……お義母様が心配なのです。私がこの邸と出て、エリオット様まで出ることになれば、ここに残る貴女が新しい当主の元で嫌な思いをしないかと……」

「え? ちょっと、まって、今、”新しい当主”って……。それにエリオットが邸を出るとはどういうこと……?」

 セシリアはイザベラに公爵がエリオットを当主の地位を剥奪する可能性があることを話した。
 始めは驚いていたイザベラだが、そうなる経緯を話すと納得したように頷くのだった。

「ああ、そうよね……。考えてみれば当たり前だわ。結婚式初日から夫の責務も忘れて貴女を放置し、災害時には当主の責務まで放棄したような無責任な男だもの。むしろすぐにでも当主の立場から下ろされてもおかしくないわ。現に、今この邸は当主が不在でも問題なく回っているのだもの。それはつまりこの家にエリオットが不必要だということだわ」

 イザベラが思いのほか辛辣なことを言うのを聞き、セシリアは少なからず驚かされた。
 優しい彼女にここまで思わせるほどエリオットの行動は酷いものだったのだな、と改めて思う。

「ええ、そうなった場合、新たな当主は親類の誰かとなるでしょう。私はお義母様が肩身の狭い思いをするなんて嫌なのです……」

「セシリア……」

「いきなり再婚という無粋な話をして申し訳ありません。ただ、貴女ほどの美しさを持つ方が、未亡人のままで一人きりでいるなんて……あまりにも惜しい。貴女がこのまま独り身でいるなんて、まるで花が咲いても誰にも見られない庭のよう。勿体のうございますわ」

「まあ……お上手ね。貴女がわたくしを心配してくれているのはとても嬉しくてよ。でもね……わたくし、夫と過ごした日々が今生で一番の宝物なの」

「それを否定するつもりは毛頭ございません。ただ……」

「分かっているわ。ええ、貴女がわたくしの生活を心配してくれているのはちゃんと分かっていてよ」

 セシリアがなぜ、こうまでして再婚を勧めるのか。イザベラにはその理由がもう分かっていた。
 この邸を出て行くとしても、次に住むための家と当面の生活費が必要だ。実家を頼れないイザベラのような貴族の女性が生きていくためには結婚が最も手っ取り早い。セシリアが自分のこれからを思って再婚を勧めてくれていると、イザベラはその気持ちをちゃんと理解していた。

「再婚はしないわ。生活に必要な資金は旦那様が遺してくださったお金があるから大丈夫よ」

 ここを出て行っても、街でアパルトマンを借りるなり、小さな家を買うなりする金は十分にある。
 必要なら仕事を探して慎ましく生きていこうとイザベラは考えていた。

「そうですか……。ではせめて、私からのは受け取ってくださいますか?」

「え? 贈り物……?」

「はい。実は私……公爵様に此度のとして、を頂戴しましたの」

「あら? 貴女たしか慰謝料は受け取らないと言ってなかった? それに”とある物”って……」

 驚くイザベラに対してセシリアは不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

白い結婚を終えて自由に生きてまいります

なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。  忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。  「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」 「白い結婚ですか?」 「実は俺には……他に愛する女性がいる」   それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。 私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた ――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。 ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。 「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」 アロルド、貴方は何を言い出すの? なにを言っているか、分かっているの? 「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」 私の答えは決まっていた。 受け入れられるはずがない。  自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。    ◇◇◇ 設定はゆるめです。 とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。 もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

処理中です...