初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

文字の大きさ
100 / 165

幸せにならないとダメ

しおりを挟む
「本人の口からって……」

 唖然としたままのセシリアの目にイザベラの力強い視線が注がれる。
 セシリアには、彼女の胸の内をまるで読み取ることができなかった。

「貴女とエリオットの離婚が決まったと聞いてから、わたくしは真っ先にあの令息へその話を伝えたの」

「えっ……!? 何の為にそんな……」

 あまりにも意外なイザベラの行動にセシリアはまだ気持ちが追いつかず、唖然としたまま耳を傾ける。

「そうしないとあの令息は他の令嬢と婚約してしまうかもしれないでしょう? そうなったら、貴女と結ばれる道が絶たれてしまうわ。予め伝えておけばそれを防げるかもしれない。そう思ったら居ても立っても居られずあのカジノへと向かったの」

「いえ、ですから私は……離婚しても彼と再び縁を結ぶつもりはないと。それに、彼だって出戻りの私よりも初婚の女性と結ばれた方が……」

「いいえ、ご令息はずっと貴女のことが忘れられなかったそうよ」

「……ッ!! ユリウスが、私のことを……」

 その時のセシリアの胸にあったのは、ただ純粋な喜びだけだった。
 ユリウスがまだ自分を想ってくれている。それが、ただ嬉しくてたまらない。

「余計なお世話だって自分でも分かっているわ。それに、潔い貴女ならば独り身に戻ったとしても別れた恋人と再び縁を結ぼうとしないだろうことも分かっている。でも、あの時の貴女の切ない顔がどうしても頭から離れなかった……」

「あの時のとは……」

「あの、カジノで令息と再会した時の顔よ。未だ未練を断ち切れないでいるのだと、あの顔を見ればすぐにわかる。セシリア、わたくしは……貴女が今度こそ好きな殿方と結ばれて、幸せになってほしいのよ」

「お義母様…………」

「セシリア、貴女は家の為に自らの想いを捨てて義務を果たす為にここへ嫁いできた。自らの境遇を悲観することのない前向きで強い貴女のことだから、ガーネット侯爵家に骨を埋める覚悟で嫁いだであろうことが分かる。なのに、夫となったエリオットは貴女のそんな覚悟に寄り添うことなく好き勝手なことをして……傷つけて、挙句の果てに自分だけ幸せになろうとしている。そんなの……許せるはずないじゃない。貴女だって幸せにならないとダメなのよ……」

 細い指をぎゅっと握りしめ、俯いたまま震えるイザベラをセシリアは黙って見つめていた。

「ご令息は貴女が独り身に戻ったら、一番に会いに行くと言っていたわ。今度こそ貴女を離さないと……ああ、これはわたくしの口からではなく、本人からでないといけないわね」

「……ッ!!! お義母様、でも……彼よりも家を選んでしまった私に、そんな資格は……」

「ねえ、セシリア。好いた相手と結ばれる条件が揃っているのなら、その機会を逃しては駄目よ。好いた相手と過ごせる時間というのは得難いものなの。貴女の潔いところは美徳だと思うわ。でもね、感情の部分ではどう考えている? 彼と人生を共に過ごしたいと少しでも思わないの?」

 イザベラの問いにセシリアは息をのんで黙り込み、胸元をそっと握りしめた。
 その仕草だけで、言葉にしなくとも答えは明らかである。

「いきなりこんな話をしてしまってごめんなさい。出過ぎた真似をしたことも謝るわ。ただ……少しだけ考えてほしいの。貴女自身が幸せになることを……」

 心の底からそう思っているのが伝わるイザベラの震えた声にセシリアは何も返すことができない。
 二人が言葉を失った部屋の中、時計の音だけが響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

【完結済】王女に夢中な婚約者様、さようなら 〜自分を取り戻したあとの学園生活は幸せです! 〜

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
王立学園への入学をきっかけに、領地の屋敷から王都のタウンハウスへと引っ越した、ハートリー伯爵家の令嬢ロザリンド。婚約者ルパートとともに始まるはずの学園生活を楽しみにしていた。 けれど現実は、王女殿下のご機嫌を取るための、ルパートからの理不尽な命令の連続。 「かつらと黒縁眼鏡の着用必須」「王女殿下より目立つな」「見目の良い男性、高位貴族の子息らと会話をするな」……。 ルパートから渡された「禁止事項一覧表」に縛られ、ロザリンドは期待とは真逆の、暗黒の学園生活を送ることに。 そんな日々の中での唯一の救いとなったのは、友人となってくれた冷静で聡明な公爵令嬢、ノエリスの存在だった。 学期末、ロザリンドはついにルパートの怒りを買い、婚約破棄を言い渡される。 けれど、深く傷つきながら長期休暇を迎えたロザリンドのもとに届いたのは、兄の友人であり王国騎士団に属する公爵令息クライヴからの婚約の申し出だった。 暗黒の一学期が嘘のように、幸せな長期休暇を過ごしたロザリンド。けれど新学期を迎えると、エメライン王女が接触してきて……。 ※10万文字超えそうなので長編に変更します。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...