初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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責任感をもってもらわないと

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 派遣される家政婦長は公爵のお眼鏡に適った人物。ということは優秀であることは間違いない。
 その人ならばきっと問題なくこの邸の家政を任せられるだろう。
 キャサリンに仕事を引き継ぐよりも確実であることは間違いない。だが……

「そう、分かったわ。だけど家政婦長任せで何もしない女主人などいただけないわね。ある程度はオニキス子爵令嬢にも引き継いでおくわ」

「え? ……いえ、奥様、それはいかがなものかと。能力のない者に仕事を任せるなど無駄でしかありません。無駄に予算を使ってしまい、領民の生活に支障が出てしまう恐れもあります」

 大分キャサリンを酷評していることに少しだけ驚いた。
 いくら公爵の手の者とはいえ、使用人が主人の甥の妻となる令嬢をここまで悪く言うとは。

「ええ、もちろん予算関係を任せることはしないわ。彼女でも出来そうなものを選択して任せようと思うの」

「しかしながらご本人にやる気が全く見られないと聞きました。そのような者に無理に仕事を任せなくともよろしいのでは……」

「いいえ、駄目よ。彼女は”ガーネット侯爵夫人”の座を欲したのだから、責任をもって職務を全うしてもらわねば。私の結婚を初日から台無しにするくらい彼女はこの邸の女主人になりたかったのよ。だったら、出来ないではなく出来るようになってもらわなくてはね……」

 屑男エリオットを引き取ってくれたことには感謝している。また、そうなるよう画策したのはこちらだ。
 だが、そもそも初夜を台無しにしたのは紛れもなくキャサリン自身。そして新妻を放置し、元婚約者であるキャサリンに会いに行くという選択をしたエリオットだ。

 それだけのことをしておいて、面倒なことは他人に任せて楽な新婚生活を送ろうなどとセシリアには許せなかった。せめてやるべきことを責任もってやってもらわねば納得できない。出来ないからと泣いてやり過ごそうなんて到底許せやしない。出来ないなら出来るようになるまで指導してみせる。

 セシリアの秘めた決意がにじむその表情に、老執事は静かに嘆息を漏らした。

「奥様、わたくしごときが分を弁えず軽々しく意見を申し上げるという無礼を働きましたこと、心よりお詫び申し上げます。使用人の身で意見を差し挟むなど、本来あってはならぬこと。しかしながら、奥様のお言葉には揺るぎなきご覚悟と高き御志を感じ、わたくしめは深く胸を打たれました。改めて失礼の段、どうかお許しくださいませ」

「怒ってはいないわ。それに、私は使用人でも主人が誤った道を行くのであればそれを諫めるものだと思うの。ただ言いなりになるだけの人形では、主人のためにならないわ」

 あの夜、この邸の使用人は皆人ではなく人形だった。自分の頭で考えず、ただ主人の言いなりである人形。
 そうした結果が今の現状だ。キャサリンという頼りない女主人を迎えることになり、不安でたまらなくなっているというのが使用人達の現状。だがそれを招いたのは自分達なので受け入れてもらわねば。

「……素晴らしいお言葉。つくづく、貴女のような素晴らしい方がガーネット家を去られるのは、実に残念でなりません」

「ふふ、ありがとう」

 セシリアは静かに微笑むと引き出しから少し大きめの封筒を取り出し、それを執事へと差し出した。

「奥様、こちらは……」

「それは先日氾濫した川の治水工事の計画書よ。公爵様にお渡ししてくれる?」

「ああ、例のものでございますね。畏まりました。わたくしから公爵様にお渡ししておきます」

「ええ、お願い。それと、言伝をひとつお願いできるかしら」

「言伝でございますか? はい、なんなりとどうぞ」

「こちらの計画を、公爵様主導で進めていただけないかと。エリオット様に任せるのはどうしても不安なのよ。ここまでお願いするのは図々しいと重々承知しているわ。でも、すぐにでも着手しないと、また大雨が降れば再び同じ災害が起きてしまう恐れがある。それはどうしても防ぎたいの」

「奥様……。畏まりました。わたくしめが必ずや、公爵様にしかと申し伝えて参ります。先代様が計画なさっていたことであれば、公爵様が否を唱えることはありますまい」

 老執事は懐かしそうなまなざしを封筒に向けた。彼は亡き先代を思い出しているのかもしれない。

「奥様、先代様より受け継がれたこの地をお守りくださいましたこと、心より感謝申し上げます。本来ならばエリオット様が成さねばならなかったことですのに、あの体たらく……情けない限りです」

 老執事は静かにため息をつき、眼鏡の縁に手を添えた。

「災害のあった村へ足を運びましたが、領民の顔には悲壮ではなく希望の色が浮かんでおるように見受けられました。建物の修繕も順調で、物資も滞りなく届いている。すべては奥様のご尽力の賜物にございます。誠に頭の下がる思いでございます。貴女様以上にガーネット侯爵家の女主人に相応しい方などおりません。なのに、あんな素養のない娘を迎えねばならないとは……」

 彼はつくづくキャサリンが気に入らないようだ。
 分からないでもない。彼のように職務に忠実な人はキャサリンのように自分の感情や欲を最優先する無責任な相手は好きではないのだろう。いや、それが好きな人間というのも少ないと思うが。

「エリオット様に惹かれる女性には難ばかりあります。件の夜会であの南国から来た王女にまで見初められていたとか……」

「あら? ご存じなのね」

「はい。夜会に同伴した侍従より聞きました。それに昨日もこの邸に押し掛けてきたとか……。それを奥様が毅然と追い返したとも耳にしました。凛とされたご態度、敬服いたします」

 昨日の事まで知っていたことにセシリアは驚きを隠せなかった。
 なんとなく予感はしていたが、やはりこの館での行動はすべて公爵様の耳に届いていたようだ。
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