初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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断りたい

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(自意識過剰と思えたらどれだけいいか……。急に名前で呼ばれるわ、家宝みたいな贈り物まで持ってくるわで、さすがに自惚れじゃ片付かないわよ……)

「恐れ入りますが、いささか過分なお言葉かと存じます。我が父や兄は力任せで考えが単純なだけにございます。そのようなお褒めに言葉をいただくなど畏れ多いことにございましてよ」

「まあ……。ご謙遜を」
 
 王太子妃は少し首を傾け、まるで花が咲くように笑った。その笑みに込められたものをセシリアは見逃さない。
 余裕と、そしてわずかな挑発。
 セシリアはわずかにまつ毛を伏せた。こういった誘いに即答するのは愚かだ。だが、無下に断れば”不忠”の烙印を押されてしまう。

「貴女ほど理知的な方にわたくしの味方になっていただけたら、これほど心強いことはありませんわ」
 
 王太子妃の笑みは柔らかかったが、その瞳には冷たい湖面のような底知れぬ感情が沈んでいた。
 それはもう、誘いというより通達だった。味方に加わるのは“選択”ではなく“責務”と言わんばかりの表情である。

 セシリアは気圧されぬよう、毅然とした笑みで応じる。その顔を見た王太子妃は意外そうに目を見開いた。

「私のような者にそれほどの期待を抱かれるとは……。ありがたいことですわ」
 
 困惑する内心を悟られぬようセシリアは言葉を濁した。
 まさか王太子妃の派閥への誘いがあるなんて想像もしていなかったから、この場で返答など出来ない。
 確かに、名門ガーネット家の奥方であり、国王の信頼を得ているサフィー家の令嬢でもあるセシリアは社交界において一定の影響力を持つ存在だと言える。
 だが、数か月後には離婚する予定なので前者の肩書は失ってしまう。そうなると影響力は大分下がるので、王太子妃の力になれる存在であるかは怪しい。

(でも、それを言うわけにはいかないし……)

 流石に離婚という内部のことを易々と口にするわけにはいかない。
 セシリアが思案に沈んでいると、ふいに王太子妃が口を開いた。

「突然このようなことを申し上げては、困惑なさって当然ですよね。お返事はゆっくりで構いませんので、この続きをまた改めて……。恐れ入りますが、そのお品はどうかお納めくださいますよう」

 王太子妃は有無を言わさぬ口調でそう言うと、淑やかに席を立った。

「今度はこちらから、ささやかではございますが、庭園にご招待させていただきますわ。今の時期ですと白薔薇が見頃なのですよ」

 薔薇の盛りはそろそろ終わりを迎える頃。すなわちこの発言は単なる社交辞令ではなく、近いうちに招待するという意味だろう。

「恐悦至極にございます。お伺いできる日を心より楽しみにしております」

 そんな日など、来なければいい。
 テーブルの上に残された王太子妃の贈り物を見つめながら、セシリアはそっと目を伏せた。
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