初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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厄介事ばかり

 まさか王太子妃の派閥に勧誘されるとは……。

 王太子妃が帰った後、セシリアは自室で彼女の置き土産を眺めながら頭を抱えていた。
 まさか、あの馬鹿げた夜会がきっかけとなり、王妃がその座を追われるとは――。そのうえ側妃と王太子妃との間で水面下の争いまで勃発しようとしているなどとは予想もしていなかった。

 別に王太子妃の派閥に入るのは構わない。だが、ガーネット家の奥方という肩書を失くしたセシリアでは戦力に乏しい。王太子妃ご望んでいるのは”王の信頼が厚いサフィー家の娘”ではなく、”ガーネット公爵の甥の妻”であるセシリアなのだろうことは分かる。前者もまあまあ社交界では発言力を持つが、後者には敵わない。脳筋一族では外敵に対して頼りになろうとも、世継ぎ争いに関しては頼りがいがないのだから。

「やっぱり言えばよかったのかしら、離婚予定だということを。でも、他家の人に内部の事情を安易に話すわけにはいかないし……」

 あの場ではっきりと数か月後には離婚する予定だと告げ、セシリアには手に余る土産物を返せばこんなにも悩むことも無かった。それにしても王太子妃は謝罪に来たのか勧誘に来たのか。まあ後者なのだろうなと考えている最中、ふと思いついた。

「……いや、やっぱり言わなくて正解だわ。万が一にも離婚を阻止されたら嫌だもの」

 王太子妃が有力な味方欲しさにセシリアの離婚を阻止しないとも限らない。
 自意識過剰かもしれないが、わざわざ勧誘の為に家宝級の品を持参し、使いの者に任せるのではなく自ら足を運んだくらいだ。用心に越したことはない。

「次から次へと想像もしていなかったことばかり押し寄せてくる……。エリオット様と結婚してからろくなことがないわ……」

 自分で選択したことだから結婚自体は後悔していない。だが、彼との”結婚”がまるで身に着けただけで不幸にみまわれる呪われた品のように、厄介事ばかりを連れてくる。王女のことだってそうだと、セシリアの脳裏に王太子妃と交わした会話がよみがえった。


『セシリア夫人、これは忠告ですが……王女にお気をつけなさい』

『……王女様に、ですか? それはまた、なぜ? もう会うこともないと思うのですが……』

『ええ、王女様はあとひと月ほどで母国へお戻りになるご予定です。その間は勝手に王宮から出ないよう、こちらも目を光らせておくつもりですが……それでも油断は出来ません。何らかの形でガーネット侯爵に接触を図ってくるかもしれない』

『え? 夫に?』

『ええ……。夜会の際、貴女もご覧になったように王女様はガーネット侯爵に並々ならぬ思いを抱いていらっしゃる。こんなことを妻である貴女に伝えるのは心苦しいのですが……あの夜会以降、王女様は侯爵の話ばかりをなさるのです。彼女が言うには侯爵は”運命の相手”だそうで……』

『運命の相手……? へ、へえ……』

『王女様は既婚者であろうと構わず標的にするほど節操がない御方。しかも、標的の妻の前でもそれを隠さない。わたくしの夫の時もそうでした。わたくしの目の前でも構わずベタベタと……しかも夫も美しい王女に満更でもなさそうに……』

『それは、妃殿下もお辛かったことでしょう』

『……ええ、もう二度と夫にそのような浮ついた真似はさせませんけどね。と約束させましたから。……すみません、話が脱線してしまいましたね。そういうことですので、貴女のご主人が標的になったところでなんら不思議はありません。十分お気をつけなさいませ』

 途中、王太子の浮ついた態度を思い出して怒りが再燃焼したのか、王太子妃から滲み出る迫力がどんどんと増していた。まあ、普通に考えて自分の夫に別の女が言い寄ってきたら腹も立つし、ましてや夫もその気になったのなら怒髪天ものだろう。セシリアの場合は初手から夫が別の女を選んだのでもう見限っているから何とも思わないが……。

『夫が言うには王女様には男を狂わせる不思議な魅力があるそうです。女のわたくしにはさっぱり分かりませんけどね。わたくしの目には精神年齢が幼く礼儀のなっていない無作法な女性としか映りませんわ』

 その時の王太子妃の目は据わっていてかなり恐ろしかった。
 思い出すだけで苛つくのだろう。

 それにしても、キャサリンといい王女といいエリオットに好意を寄せるのはいつもどこか子供っぽくて礼儀を欠いた女性ばかりだ。そういう厄介な女性にしか好かれない彼を少し哀れに思う。
 いやしかし、エリオットもまともじゃないし厄介な男だからお似合いなのか……。

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