初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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厄介な性質

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 ガーネット侯爵邸へと戻った侍従はセシリアにエリオットから預かった手紙を渡した。
 それを受け取ったセシリアは変なことが書いてないかどうか確かめるため中身に目を通す。
 二通目を読み終えた彼女は首を傾げた後、不思議そうに侍従へと問いかけた。

「これ、別人に宛てたのかと思うくらい一通目と二通目に温度差があるわね……。それにどちらも宛名がないのはどうして?」

 至極真っ当な質問に、侍従は死んだ魚のような目で答えた。

「温度差があるのはそういうだそうです。わたくしには到底理解出来ませんが、お二人の間では暗黙の了解なのでしょう。それと、宛名はあまりにもだったので、わたくしの方で排除させていただきました」

「ええ……? 趣向や暗黙の了解というのは理解出来るけど、宛名が不適切とはどういうこと……?」

「それは……その、ご婦人には不適切と申しますか……」

 侍従は真意を悟られまいとして、まるでエリオットが宛名の部分に卑猥な言語でも用いたような言い方をしてしまった。まずいとは思ったが、それでも本当のことを知らされてセシリアが嫌な思いをするよりマシだと考え言い直すことはしなかった。

「不適切? そう……」

 腑に落ちない顔をしても、セシリアはそれ以上何も言わず、手紙をキャサリンに渡すよう命じる。
 侍従は彼女から手紙を受け取り、そのまま部屋を後にした。

 手紙をキャサリンのもとへ届けるため、廊下を歩きながら侍従は先程のエリオットのことを思い浮かべた。

「旦那様って……あんなおかしな人だったかな」

 不敬な発言ではあったが幸いにも周囲には誰もおらず、聞かれることはなかった。
 思わず口をついて出たほどに、先ほどのエリオットの行動は理解しがたいものだ。
 なぜ突然、恋人であるキャサリンではなく妻に対して愛情を見せたのか。
 そして、どうして恋人にはまるで業務連絡のような素っ気ない文を送りながら、妻には恋文をしたためたのか。
 行動がつくづく常人とは異なるのでまるで理解ができない。

 これで妻から恋文のような文面を受け取ったというのならまだ分かる。だが、彼女が書いたのはどちらかといえば脅迫文に近い。それで何故あのように喜べるのかが全く分からない。

 侍従はあの人は昔からあんな理解不能な言動をとる性格だったか……と自身の記憶を辿ったが、そういえば直接関わった経験がほとんどなかった。だいたいは家令を通じて命令を出されていたのでエリオットの人となりを禄に知らなかったのだ。

「……いや、そもそも新婚初日の夜に妻に何も言わず元婚約者に会いに行ってしまうような方だ。おかしいのは元からか。家令さんもそれを容認するのだからおかしい」

 自分はこんな奇妙な主人と家令のもとで働いていたのかと思うと、急に背筋がぞくりと粟立つ。
 そういえば、主人の王女に会った時の説明もどこか変で妙だった。
 手紙には”王女とは街で偶然会った”とだけ書いてもらったが、それがすべて真実というわけではない。

『王女様は僕に会いたいが為にわざわざ城下まで足を運んでくださったそうだ。高貴な御方がそこまでするなんて……いじらしくて可愛らしいと思わないか?』

 そう同意を求められた時は思わず「何言ってんだお前」と口にしてしまいそうだった。
 妻もいて、恋人までいるくせに、なに他の女に惹かれている?
 しかも悪びれもせずそれを嬉々と語るなんて……ハッキリ言って正気を疑う。

 侍従が思うにエリオットはどうやら非常に気が移ろいやすい。手に入った女性には段々と興味を無くし、まだ自分のものにはなっていない女性に興味を示す厄介な性質を持っているようだ。

 結婚した妻にはその日の内に興味を無くし、手に入らなかった元婚約者の方を選んだ。
 その後は自分のものとなった元婚約者に段々と興味を無くし、離婚が決まった妻に気持ちが傾く。
 更には自分に好意を寄せている王女へと興味を示し始めた──。

 周囲も己の立場も省みずただ情に流されるように行動するその在り方は、当主としても男としても見るに堪えない。その厄介な性質のせいで皆が振り回されている。奥様も、オニキス子爵令嬢も、使用人達も、公爵様でさえ……。

「……また、厄介なことが起きるかもしれないな。はあ……」

 侍従の呟きは誰の耳にも届かないまま静かに虚空に消えていった。
 その言葉がやがて何かの始まりとなることを──発した本人すらまだ知らない。
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