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小細工しなければ渡せない
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侍従は二通の手紙を見比べながら、訴えるような目でエリオットに視線を送った。
何故なら書かれている内容と宛名が合っていないように思えてならないから。
「いや……何ですか、これ。どうして”恋人”のオニキス子爵令嬢には業務連絡のような内容で、奥様には恋文のような内容をしたためるので? どう見ても逆ではないですか」
返事は不要とまで言った妻に恋文を書き、返事を今かと待ち望んでいるキャサリンに業務連絡のような内容の手紙を書くエリオットの神経が侍従には本気で分からなかった。
こんなのをそのまま持って帰ったらセシリアには叱られるだろうし、キャサリンはますます心を乱して泣き喚くだろう。こいつは自分の恋人を安心させることも出来ないのか……と侍従は呆れた顔を隠しもしなかった。
「だから逆ではないと言っているだろう。嫉妬している妻を安心させるために恋文をしたためるのは普通のことじゃないか」
「普通の夫婦関係も築けなかったくせに何を言っているんですか……」
普通の夫婦であれば妻に恋文を宛てるのはなんら間違いではない。
だが、離婚間近であり、エリオットを蛇蝎の如く嫌っている妻にこんな内容を宛てるのはむしろ嫌がらせだろう。
こんな手紙をセシリアに渡せば不快に思うこと間違いなしと分かるくらい、甘ったるい言葉が羅列している。
嫌いな男から甘ったるい言葉を囁かれるなど拷問のようなものだ。
「なら、オニキス子爵令嬢に対してこんな素っ気ない文章を書いたのは何故ですか? これでは余計に不安を悪化させ、淑女教育に支障が出てしまうではないですか……」
すべてはキャサリンの気持ちを落ち着かせ、授業に集中さえるためにしたことだ。
なのにその意図を汲まず余計なことをするエリオットに殺意すら湧いてくる。
「大丈夫だ、キャサリンと僕は心が通じ合っている。この程度で心を乱したりはしない」
「乱しているからこうやってわざわざ手紙を届けにきたのですが……?」
こいつ、ここまで理解力が無かったか?
主人に対して不敬だとかいうのも忘れて侍従は心の中で悪態をついた。
「とにかく、これでは奥様に叱られます。せめてオニキス子爵令嬢宛ての手紙だけでも書き直してください」
「なぜ、書き直さなくてはならない? そのままでも問題ないだろう」
問題あるから言ってんだよ!?
そんな言葉が思わず口から飛び出そうになるが、家庭教師が先に口を挟んだ。
「エリオット様、儂も読ませてもらいますよ」
「え? あっ、ちょっと、先生……」
エリオットが何か言うより早く家庭教師は手紙を侍従の手から奪い、中身に目を通す。
「……ふむ、文法などに問題はないようですね。君、大丈夫だからこのまま持って行きなさい」
「あ、いえ……文法は別に問題視していないのですが……」
文法云々など些末な問題で、問題はその内容と宛名だ。そう言い募ろうとする侍従を遮り、家庭教師はそっと耳打ちする。
「見たところ本文には奥方の名前も恋人の名前も入っていない。ならば手紙の宛名部分をペーパーナイフで切り捨ててしまえばいい。それを逆に渡すか、どちらも恋人に渡すかは君が判断しなさい」
そう言って家庭教師は侍従にそっとペーパーナイフを手渡した。
「あ……ありがとうございます」
一瞬、何を言われているのか分からなかった侍従だが、遅ればせながら家庭教師の真意を理解した。
確かにこの手紙は宛名の部分さえ切ってしまえば誰に宛てたか分からない内容をしている。
ということは彼の言う通りに小細工した後、それぞれ相応しい相手に渡せば何も問題はない。
(よかった、これで奥様に怒られずに済む……)
何よりもセシリアから叱られることが恐ろしい侍従は心から安堵し、小細工を勧めてくれた家庭教師に心から感謝した。
しかしながら宛名が切り取られた手紙を渡せばセシリアに変に思われてしまう。
悩んだ末に侍従はどちらの手紙もキャサリンに渡すことを決めた。
頭の弱いキャサリンならば宛名が書かれていなくても、二枚の手紙に温度差があっても、さほど気にしないはずだ。それに元々セシリアは返事は不要と言っていたので、無くとも問題はないはず。
家庭教師から預かったペーパーナイフを懐に入れ、侍従は手紙を持ちさっさとその場を後にするのだった。
何故なら書かれている内容と宛名が合っていないように思えてならないから。
「いや……何ですか、これ。どうして”恋人”のオニキス子爵令嬢には業務連絡のような内容で、奥様には恋文のような内容をしたためるので? どう見ても逆ではないですか」
返事は不要とまで言った妻に恋文を書き、返事を今かと待ち望んでいるキャサリンに業務連絡のような内容の手紙を書くエリオットの神経が侍従には本気で分からなかった。
こんなのをそのまま持って帰ったらセシリアには叱られるだろうし、キャサリンはますます心を乱して泣き喚くだろう。こいつは自分の恋人を安心させることも出来ないのか……と侍従は呆れた顔を隠しもしなかった。
「だから逆ではないと言っているだろう。嫉妬している妻を安心させるために恋文をしたためるのは普通のことじゃないか」
「普通の夫婦関係も築けなかったくせに何を言っているんですか……」
普通の夫婦であれば妻に恋文を宛てるのはなんら間違いではない。
だが、離婚間近であり、エリオットを蛇蝎の如く嫌っている妻にこんな内容を宛てるのはむしろ嫌がらせだろう。
こんな手紙をセシリアに渡せば不快に思うこと間違いなしと分かるくらい、甘ったるい言葉が羅列している。
嫌いな男から甘ったるい言葉を囁かれるなど拷問のようなものだ。
「なら、オニキス子爵令嬢に対してこんな素っ気ない文章を書いたのは何故ですか? これでは余計に不安を悪化させ、淑女教育に支障が出てしまうではないですか……」
すべてはキャサリンの気持ちを落ち着かせ、授業に集中さえるためにしたことだ。
なのにその意図を汲まず余計なことをするエリオットに殺意すら湧いてくる。
「大丈夫だ、キャサリンと僕は心が通じ合っている。この程度で心を乱したりはしない」
「乱しているからこうやってわざわざ手紙を届けにきたのですが……?」
こいつ、ここまで理解力が無かったか?
主人に対して不敬だとかいうのも忘れて侍従は心の中で悪態をついた。
「とにかく、これでは奥様に叱られます。せめてオニキス子爵令嬢宛ての手紙だけでも書き直してください」
「なぜ、書き直さなくてはならない? そのままでも問題ないだろう」
問題あるから言ってんだよ!?
そんな言葉が思わず口から飛び出そうになるが、家庭教師が先に口を挟んだ。
「エリオット様、儂も読ませてもらいますよ」
「え? あっ、ちょっと、先生……」
エリオットが何か言うより早く家庭教師は手紙を侍従の手から奪い、中身に目を通す。
「……ふむ、文法などに問題はないようですね。君、大丈夫だからこのまま持って行きなさい」
「あ、いえ……文法は別に問題視していないのですが……」
文法云々など些末な問題で、問題はその内容と宛名だ。そう言い募ろうとする侍従を遮り、家庭教師はそっと耳打ちする。
「見たところ本文には奥方の名前も恋人の名前も入っていない。ならば手紙の宛名部分をペーパーナイフで切り捨ててしまえばいい。それを逆に渡すか、どちらも恋人に渡すかは君が判断しなさい」
そう言って家庭教師は侍従にそっとペーパーナイフを手渡した。
「あ……ありがとうございます」
一瞬、何を言われているのか分からなかった侍従だが、遅ればせながら家庭教師の真意を理解した。
確かにこの手紙は宛名の部分さえ切ってしまえば誰に宛てたか分からない内容をしている。
ということは彼の言う通りに小細工した後、それぞれ相応しい相手に渡せば何も問題はない。
(よかった、これで奥様に怒られずに済む……)
何よりもセシリアから叱られることが恐ろしい侍従は心から安堵し、小細工を勧めてくれた家庭教師に心から感謝した。
しかしながら宛名が切り取られた手紙を渡せばセシリアに変に思われてしまう。
悩んだ末に侍従はどちらの手紙もキャサリンに渡すことを決めた。
頭の弱いキャサリンならば宛名が書かれていなくても、二枚の手紙に温度差があっても、さほど気にしないはずだ。それに元々セシリアは返事は不要と言っていたので、無くとも問題はないはず。
家庭教師から預かったペーパーナイフを懐に入れ、侍従は手紙を持ちさっさとその場を後にするのだった。
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