初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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不敬極まりない発言

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「……そうか、王女様はそこまで僕のことを」

 ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべるエリオットに殺意が湧く。
 どうしてそんな顔をしているのかと。

「エリオット様、あなたと王女様は街で話すだけの間柄だとお聞きしましたが……それは本当ですか? どうにもそれ以上の関係に思えてならないのですが」

「いや、それは本当だ。だから安心してくれ。ただ……どうも、王女様は僕に気があるようでね」

「はあ……」

 何が言いたいんだこいつは、とセシリアは呆れた顔を隠しもしなかった。
 名ばかりとはいえ妻に対して異性に好かれていることを自慢げに言うなんて、こいつの神経はどうなっているのかと。

「いじらしく、慎ましい御方なんだ。でもかまわないから、僕の傍にいたいとおっしゃって……」

「は? 第二夫人?」

 唐突な話の飛躍に理解がまったく追いつかない。なんだって急に第二夫人なんていう話になるのか。

「誰が、誰の第二夫人になりたいと?」

「だから、王女様が僕の第二夫人になりたいとおっしゃった。たとえ妻がいるとしても、どうしても諦められないと……。いじらしいと思わないか?」

「これっぽっちも思いませんね。伴侶がいる男性を狙う時点で”いじらしい”ではなく、”卑しい”です。あなたもなんです、妻も恋人もいるというのに他所の女に鼻を伸ばして……恥ずかしくないのですか?」

 他人の男を狙う女のどこがいじらしいのか。他人にものだと諦める慎ましさもない、ただの欲しがりの浅ましい女をそう呼ぶなど馬鹿馬鹿しい。

「うん、君が嫉妬するのも無理ないな。だが、想う気持ちというのは簡単に止められるわけではないのだよ」

「嫉妬? まあ、驚いた。私が嫉妬をすると思っているあなたの能天気な頭に心底驚きましたわ。それは天地がひっくり返ってもありえませんからご安心を」

 セシリアが冷静に反論すると、エリオットの顔にはわかりやすく「何故」と浮かんでいた。
 こちらこそ何故驚くのかと心底不思議で仕方ない。

「もしかして、私に嫉妬してもらえるほどの好意があったとお考えでしたか? その考えはすぐに屑籠にでも捨ててください。ありえませんので」

「どうして……。だって、僕は君の夫で……」

「……結婚式の当日に私にしたことをお忘れですか? 夫だからと無条件に好かれるとでも? あれだけのことをしておいて、随分とまあお目出度い頭ですこと……」

 新婚初夜に放置されたことも、夜這いをかけられそうになったことも、領地で災害が起きたというのに呑気にキャサリンと会っていたことも、どうやら彼の中では無かったことになっているらしい。もしくは、それでもなお妻から好かれていると信じているのか。どれだけ自分に自信があればそんな勘違いが出来るのだろう……。

「そんな! 君はわざわざ手紙で王女様のことを聞いてきたじゃないか! あれはどう考えても嫉妬だろう!?」

「? 嫉妬した手紙を書いていたのはオニキス子爵令嬢でしょう? 私からの手紙は彼女の教育に支障をきたしているから安心させてほしいという文面だったはずですよ。あの手紙から嫉妬要素を感じ取れるなんて、もしかしてあなたはパーティーの招待状も恋文だととらえる頭をお持ちなので?」

「なっ!? 馬鹿にするな!」

「馬鹿にはしておりません。馬鹿だと思っております。一国の王女を第二夫人にしようなどと、正気とは思えません。ましてや、子爵令嬢が正妻で王女が第二夫人などと有り得ないことを考える頭がもう残念で仕方ありません」

 分かっていたことだが彼の話はまるで理解できない。
 セシリアと離婚し、キャサリンを新しい妻に迎えるだけでは飽き足らず王女を第二夫人に、などとは馬鹿を通り越して狂人の考えだとしか思えない。

「……ッ!! 馬鹿にするな! そんなことをするわけないだろう!? 王女を子爵令嬢の下位に置くなどという無礼を働くほど馬鹿ではない!」

「だったら何故そんな馬鹿げたことを言ったのですか。私が嫉妬しているという考えも滑稽極まりありませんが、妄想でも王女を子爵令嬢の下に据えるなどという不敬な発言はお控えください。たとえ王女様がおっしゃったことだとしても、不用意に言いふらしては当家の品位が疑われてしまいます」

「──君はいつもそうだ! 口を開けば家の名誉だと品位だのと、つまらないことばかり言って……。そんなことばかり言っているから私の気持ちが他所に向いてしまうのだと分からないのか!?」

「あら、でしたら今後もあなたの言うようなつまらないことばかりを口にするようにします。どうぞ私にあなたの気持ちというくだらないものを向けないでくださいませ。壊れたガラクタより不要なモノなので」

 セシリアの露骨な拒絶にエリオットはただ口を開け閉めするばかりで「な、な……」と声にならない言葉を漏らす。彼女はそんな夫を冷ややかな目で見下ろした。

「話を戻しますが、王女様の気持ちを知っていながら弄ぶような言動はいただけませんね。なによりオニキス子爵令嬢がいながら、冗談でも王女様を第二夫人に迎えようという発言は不誠実極まりない。それがどれだけ非常識かを知っているならば、何故そのようなことを言ったのです?」

「それは誤解だ! 僕は一言もキャサリンの下に王女様を据えるなどと言っていない! 君が勘違いしただけじゃないか!」

「は? 誤解もなにも、王女様を第二夫人にするというのはそういうことでしょう? どの部分が誤解だというのです?」

 数か月後にセシリアとは離婚し、新たな侯爵夫人としてキャサリンを迎えるのなら、”第二夫人”発言の意味はそういうことになる。子爵令嬢を正妻に、王女を第二夫人という不敬極まりない考えを晒したのはこいつだ。いったいどの部分が誤解だというのか。
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