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エリオットの身勝手な言い分
「……キャサリンは教育があまり進んでないと聞く。君と離婚するまでの期間に、彼女は侯爵夫人となるための教養全てが身に着くのか?」
「……は? いきなり何です? 今は、王女様を第二夫人にするというのが誤解だという話ですよね?」
どうしてここでキャサリンの教育の話になるのか。エリオットの話はところどころ飛躍するから本当に疲れる。
王女にしてもキャサリンにしても、よくこんな話の通じない男との会話を楽しめるものだ。その部分だけは尊敬する。
「いいから答えてくれ。どうなんだ?」
「はあ……。おっしゃる通りオニキス子爵令嬢の教育は難航しておりますが、最近ではご本人のやる気が見られますので、数か月の間死ぬほど努力していただければ形だけでも身に着くかと」
というか、キャサリンの教育どうこう言える立場にないだろうとセシリアは目の前の神妙な面持ちの男に言ってやりたい気持ちに駆られた。なんだその上から目線、腹立つ。
「そうか……。やはり、キャサリンでは侯爵夫人は務まらないな」
「は? 今、私は『努力すれば身に着く』と申しましたよね?」
聞いていなかったのか? お前の耳は飾りか?
セシリアはそう言って目の前のしたり顔をしている男の耳を思い切り引っ張ってやりたくなった。
「考えたんだが……教育のなっていないキャサリンより、王族として最高の教育を受けた王女様の方が侯爵夫人に相応しいのではないだろうか。君もそう思わないか?」
「……は? はあああ? 何を言っているんですか!?」
あまりにも信じがたい発言にセシリアは椅子から立ち上がって声を荒げた。
キャサリンではなくて王女を侯爵夫人として迎えるなどと、どうしてそんな話になるのか。意味が分からない。
「そもそも貴族令嬢として基本の礼儀作法すら身についていないキャサリンを僕の妻に迎えようということ自体が間違っていると思わないか? 彼女では到底君の後釜にすら成り得ない。やはり、高位貴族の妻には高位の貴婦人を据えるのが正しいと思う」
「……今更何を言っているんですか? オニキス子爵令嬢を迎えたいと言ったのはあなたでしょう?」
あまりにも自分勝手な提案にセシリアは怒りでどうにかなりそうだった。
この男が最初に妻よりもキャサリンを選んだからこんなことになっているというのに、よくもそんなことが言えたものだ。基本的な礼儀作法すら身についていない女を選んだのは他ならぬ自分だというのに。
「うん、それが間違いだと気づいたんだ。礼儀作法も教養も身についてないキャサリンを侯爵夫人とするのは無謀だと。伯父上も彼女を良く思っていないし、だったら結婚自体を取りやめようと思った」
「馬鹿なことを言わないでください! 妻の私よりも優先するほど彼女を望んでいたのはあなたでしょう?」
「それは本当に馬鹿なことをしたと後悔している。君よりあんな暴力的な女を選んでしまった僕が愚かだった……」
急に悲壮感を漂わせてしおらしく反省するエリオットにセシリアの怒りは頂点に達した。
その、自分に酔った態度が無性に腹立たしい。セシリアは思わずエリオットの胸ぐらを掴み、その目を睨みつけた。
「えっ……!? セ、セシリア?」
「……お戯れも大概になさってください。あなたがオニキス子爵令嬢を妻にと望んだのです。誰でもない、他ならぬあなたが。妻の私を初日から裏切るほどに彼女を望んだのはあなたです! 今更それを投げだすなどという無責任な行いは、この私が許しません!」
この男はどこまで女性を馬鹿にすれば気が済むのか。
妻よりもキャサリンを選び、今度はキャサリンを捨てて王女を選ぶ。なんて身勝手で傲慢で、女性を軽んじた行為だろう。とてもじゃないが許せる気にはなれなかった。
「ひっ!? だ、だって……あんな感情的な暴力女と一緒にしては身がもたない! この間だって、癇癪起こして僕に燭台やら花瓶やら投げつけてきたんだぞ!? 殺されるかと思った!」
「ふん、それが本音ですか? 礼儀や教養どうこうよりも、ただあなたがオニキス子爵令嬢への愛情がなくなっただけでしょう? そもそも、あれはあなたが他所の女に鼻を伸ばしていたことが原因ですよ」
掴んでいた胸ぐらを放した瞬間、エリオットは体勢を崩し床に尻もちをついた。
そんな情けない夫をセシリアは軽蔑の眼差しで見下ろす。
「ああ……なるほど。今、あなたが言っていたことが分かりました。第二夫人というのは、オニキス子爵令嬢ではなく、私が正妻という前提での話なのですね? なるほど……つまり、私と離婚すれば、王女様が正妻に“繰り上がる”というわけですか。随分といいご身分ですこと……」
冷静に考えてみれば、セシリアと離婚してキャサリンと結婚することになっていたとはいえ、それはあくまで口約束に過ぎない。正式な書面契約も交わしていない……というか、交わせるはずもないので書面では何も保証されていない不安定な立場にキャサリンはいる。
「だって、仕方ないじゃないか……。一国の王女から好意を向けられて、断るなんてできないだろう?」
「できますよ。簡単にできます。可能か不可能じゃなくて、ただ王女様からの好意を断りたくないだけでは?」
指摘にたじろぐエリオットを横目にセシリアは盛大なため息を漏らした。
「……どこまで屑なのですか、あなたは。女性を馬鹿にするのもいい加減になさいまし」
射殺さんばかりの視線で睨みつけるとエリオットは恐怖ですくみあがった。
「あなたが勝手なことばかりするなら、私だって勝手なことをさせていただきます。……さあ、歯でも食いしばっていただきますわよ」
セシリアの片手がスッと上がった瞬間、それはエリオットの頬へ向けて放たれた。
小気味よい破裂音が響き、「ぐうっ!?」という呻き声と共にエリオットの体は力なく床へと崩れ落ちる。
「……本当ならば百発は殴って差し上げたいところですけど、それをすると再起不能となるのでこれで勘弁して差し上げます。ですが、今後私に対して身勝手な発言をする毎に一発ずつお見舞いさせていただきますから。言動にはよくよく気をつけてくださいませ」
床に倒れたまま、怯えた顔でセシリアを見るエリオットに言い捨て、セシリアは部屋を出た。
廊下にいた使用人に「中でエリオット様が倒れているから手当てしておいて」と言い残し、公爵家を後にする。
結局、話し合いにすらならなかった。
それでも、積もりに積もった恨みを少しだけ晴らせたことで、セシリアの表情には晴れやかさが戻っていたのだった。
「……は? いきなり何です? 今は、王女様を第二夫人にするというのが誤解だという話ですよね?」
どうしてここでキャサリンの教育の話になるのか。エリオットの話はところどころ飛躍するから本当に疲れる。
王女にしてもキャサリンにしても、よくこんな話の通じない男との会話を楽しめるものだ。その部分だけは尊敬する。
「いいから答えてくれ。どうなんだ?」
「はあ……。おっしゃる通りオニキス子爵令嬢の教育は難航しておりますが、最近ではご本人のやる気が見られますので、数か月の間死ぬほど努力していただければ形だけでも身に着くかと」
というか、キャサリンの教育どうこう言える立場にないだろうとセシリアは目の前の神妙な面持ちの男に言ってやりたい気持ちに駆られた。なんだその上から目線、腹立つ。
「そうか……。やはり、キャサリンでは侯爵夫人は務まらないな」
「は? 今、私は『努力すれば身に着く』と申しましたよね?」
聞いていなかったのか? お前の耳は飾りか?
セシリアはそう言って目の前のしたり顔をしている男の耳を思い切り引っ張ってやりたくなった。
「考えたんだが……教育のなっていないキャサリンより、王族として最高の教育を受けた王女様の方が侯爵夫人に相応しいのではないだろうか。君もそう思わないか?」
「……は? はあああ? 何を言っているんですか!?」
あまりにも信じがたい発言にセシリアは椅子から立ち上がって声を荒げた。
キャサリンではなくて王女を侯爵夫人として迎えるなどと、どうしてそんな話になるのか。意味が分からない。
「そもそも貴族令嬢として基本の礼儀作法すら身についていないキャサリンを僕の妻に迎えようということ自体が間違っていると思わないか? 彼女では到底君の後釜にすら成り得ない。やはり、高位貴族の妻には高位の貴婦人を据えるのが正しいと思う」
「……今更何を言っているんですか? オニキス子爵令嬢を迎えたいと言ったのはあなたでしょう?」
あまりにも自分勝手な提案にセシリアは怒りでどうにかなりそうだった。
この男が最初に妻よりもキャサリンを選んだからこんなことになっているというのに、よくもそんなことが言えたものだ。基本的な礼儀作法すら身についていない女を選んだのは他ならぬ自分だというのに。
「うん、それが間違いだと気づいたんだ。礼儀作法も教養も身についてないキャサリンを侯爵夫人とするのは無謀だと。伯父上も彼女を良く思っていないし、だったら結婚自体を取りやめようと思った」
「馬鹿なことを言わないでください! 妻の私よりも優先するほど彼女を望んでいたのはあなたでしょう?」
「それは本当に馬鹿なことをしたと後悔している。君よりあんな暴力的な女を選んでしまった僕が愚かだった……」
急に悲壮感を漂わせてしおらしく反省するエリオットにセシリアの怒りは頂点に達した。
その、自分に酔った態度が無性に腹立たしい。セシリアは思わずエリオットの胸ぐらを掴み、その目を睨みつけた。
「えっ……!? セ、セシリア?」
「……お戯れも大概になさってください。あなたがオニキス子爵令嬢を妻にと望んだのです。誰でもない、他ならぬあなたが。妻の私を初日から裏切るほどに彼女を望んだのはあなたです! 今更それを投げだすなどという無責任な行いは、この私が許しません!」
この男はどこまで女性を馬鹿にすれば気が済むのか。
妻よりもキャサリンを選び、今度はキャサリンを捨てて王女を選ぶ。なんて身勝手で傲慢で、女性を軽んじた行為だろう。とてもじゃないが許せる気にはなれなかった。
「ひっ!? だ、だって……あんな感情的な暴力女と一緒にしては身がもたない! この間だって、癇癪起こして僕に燭台やら花瓶やら投げつけてきたんだぞ!? 殺されるかと思った!」
「ふん、それが本音ですか? 礼儀や教養どうこうよりも、ただあなたがオニキス子爵令嬢への愛情がなくなっただけでしょう? そもそも、あれはあなたが他所の女に鼻を伸ばしていたことが原因ですよ」
掴んでいた胸ぐらを放した瞬間、エリオットは体勢を崩し床に尻もちをついた。
そんな情けない夫をセシリアは軽蔑の眼差しで見下ろす。
「ああ……なるほど。今、あなたが言っていたことが分かりました。第二夫人というのは、オニキス子爵令嬢ではなく、私が正妻という前提での話なのですね? なるほど……つまり、私と離婚すれば、王女様が正妻に“繰り上がる”というわけですか。随分といいご身分ですこと……」
冷静に考えてみれば、セシリアと離婚してキャサリンと結婚することになっていたとはいえ、それはあくまで口約束に過ぎない。正式な書面契約も交わしていない……というか、交わせるはずもないので書面では何も保証されていない不安定な立場にキャサリンはいる。
「だって、仕方ないじゃないか……。一国の王女から好意を向けられて、断るなんてできないだろう?」
「できますよ。簡単にできます。可能か不可能じゃなくて、ただ王女様からの好意を断りたくないだけでは?」
指摘にたじろぐエリオットを横目にセシリアは盛大なため息を漏らした。
「……どこまで屑なのですか、あなたは。女性を馬鹿にするのもいい加減になさいまし」
射殺さんばかりの視線で睨みつけるとエリオットは恐怖ですくみあがった。
「あなたが勝手なことばかりするなら、私だって勝手なことをさせていただきます。……さあ、歯でも食いしばっていただきますわよ」
セシリアの片手がスッと上がった瞬間、それはエリオットの頬へ向けて放たれた。
小気味よい破裂音が響き、「ぐうっ!?」という呻き声と共にエリオットの体は力なく床へと崩れ落ちる。
「……本当ならば百発は殴って差し上げたいところですけど、それをすると再起不能となるのでこれで勘弁して差し上げます。ですが、今後私に対して身勝手な発言をする毎に一発ずつお見舞いさせていただきますから。言動にはよくよく気をつけてくださいませ」
床に倒れたまま、怯えた顔でセシリアを見るエリオットに言い捨て、セシリアは部屋を出た。
廊下にいた使用人に「中でエリオット様が倒れているから手当てしておいて」と言い残し、公爵家を後にする。
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